『いやあ、しぶといな。並みの人間であればこの時点で1000回は死んでいる筈なんだがな』
「お前が俺を本気で倒そうとしていないからだろ」
『まあな。だが、回復するための魔法を使用する隙を与えていないのに腕が再生しているのはどういう理由だ?そんな職業スキルは聞いたことないぞ』
「何でしょうね」
それから一時間以上、勇者の攻撃を戦闘不能になることなく耐え続けることが出来ていた。
それもこれも予想以上に俺の再生力が高かったお陰だ。
骨折程度であれば回復することは知っていたが、まさか欠損した四肢が再生してくるレベルだとは思っていなかった。
お陰で勇者が俺に対する興味を失う前に勇者の強さの理由を見つけることが出来た。
その結果、勇者が強いのは装備に備わっている特殊能力が理由だと判明した。
まずは俺の攻撃を受け止めている盾。これは触れている間だけ俺の攻撃威力に関連するスキルを全て無効化する。
攻撃を受けて吹っ飛ばされていたのは単なる演技で、俺の攻撃に合わせて後ろに強く飛んでいただけだったのだ。
そして靴には瞬間移動の能力が備わっている。俺の攻撃を受けたフリをして吹き飛ばされた瞬間俺の背後に回り込めたのはそれが原因だ。
剣に関しては確証が持てないが、装備する人間が自動的に世界最高の剣士になれる代物ではないかと思われる。反応がぎりぎり間に合っても最後まで完全に避けることができなかったのはこれが原因だろう。
主にこの三つの装備が悪さをして、圧倒的な戦力差に見せかけていたというわけだ。
恐らくこれらの装備を全て奪い去ることが出来れば、先ほど戦っていた異世界人と同等以下にまで落ちると思われる。
だが、肝心なのはどうやって装備を奪うのかだ。攻撃で弾きたいのだが、素手で攻撃する都合上盾に触れないといけない。
盾を避ければ良いじゃないかという話になりそうなものだが、剣の補正によって盾の使い方も最強になっているため、かいくぐるのはあまりにも困難だ。
せめて何かしら武器があれば……
そして周囲を見渡すと、麗奈さんが居たはずの場所に剣が突き刺さっていた。
そうか、今日は剣で戦ってくれていたんだ!
「はああああ!!!!」
『だからお前の攻撃は食らわないと何度言えばわかるんだ』
真正面から武器を取りに行ったら確実にバレてしまうので、俺は剣のある方向へ飛ばしてもらうように角度を調整し、攻撃を仕掛けた。
「がはっ!!」
案の定攻撃は盾に防がれ、勢いよく弾き飛ばされてしまう。
「今!」
俺は吹き飛ばされながらどうにか剣を掴むことに成功した。
『ほう、卯月麗奈の剣を取ったか。自分より強い者の装備を使えば私に勝てるかもしれないと?そんなわけがなかろう。知っているぞ。お前は剣士では無いのだろう?』
「そうだよ」
俺は剣士ではない。だけど、俺にはスキルによる補正が無数にある。だから一発でも攻撃を当てられれば装備を弾く事なら出来るはずだ。
『やけくそか。つまらんな。もう終わりにしよう』
勇者は俺に見切りをつけたらしく、とどめを刺すべく正面から突っ込んできた。靴の効果を使うほども無いと判断したのか、瞬間移動は使わないらしい。
ならば好都合。動体視力はスキルのお陰で自信があるんだ。
『死ね』
「はっ!!」
俺は勇者に振り下ろされている剣の付け根目掛けて全速力で剣を振るう。
『っ!』
勇者は俺の剣速を予測出来ていなかったらしく、驚いた表情をしていた。
完全に予想の範囲外からの攻撃だったので盾での防御は間に合わなかったようだが、剣の当たる位置は付け根から中心部分までずらされていた。
「よし!」
剣と剣のぶつかり合いではぎりぎり俺が勝ち、勇者の剣は吹き飛ばされた。
『やるな、だが!』
これで最高の剣術は失われたはず。だが、勇者には靴による瞬間移動がある。ここで剣を再び取られてしまったらおしまいだ。
「はあっ!」
だから俺は剣の飛んだ先を追いかけ、瞬間移動で剣の元に現れた瞬間に腕を叩き切った。
『がああああああ!!!!』
痛みには耐性が無かったのか、腕を斬られた苦しみでもう片方の腕で持っていた盾も手放してしまった。
完全に戦闘不能の勇者だがこのレベルの怪我であればエリクサーで再生してしまう。そうなれば再び世界を脅かす。
だから俺は迷いなく息の根を絶った。
「次はお前だ!!」
俺は空中で様子を見ていた魔王に振り返り、そう宣言した。
『まさかイブリースがやられてしまうとは思いませんでした。イブリースはスキル自体ではなく、勇者であることで装備できる剣、盾、靴による強さが大部分を占めていましたが、それでも本来ならあなたに負けるはずは無かった。完全に油断しましたね。生き返らせたら後で説教しないといけませんね』
「生き返らせる……?」
生きてさえいればどんな状態でも蘇生は可能だが、死んでしまった人間を蘇生させる方法なんて存在しないはずだ。
『魔王は唯一蘇生魔法を許された存在ですから。その分相当な時間がかかりますけれどね』
ということは魔王を倒さなければ勇者は生き返ってしまうのか。そうなれば俺の努力が全て無駄になってしまう。
『というわけでさっさと死んでいただきますよ。手加減はしません』
「っ!」
魔王はそう言った次の瞬間には目の前に電撃が飛んできていた。
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