「そうだね、普段の生活だと疲れることがなくなったり、重いものを楽に持てるようになったくらいで、大きくは変わらないかも。凄い筋トレみたいな感じ」
「へー。意外と変わらないんだ。なら力が有り余ってコップを壊すとかしない?」
「現状は無いね。多分俺で変化が無いんだったら他の人も日常生活は殆ど変わらないんじゃないかな」
「そうなんだ。レベルが上がるって面白いね」
「そ、そうだね」
「え?違うの?」
「いや、俺はちょっとあってね。今はまだ言えないからあんまり追求しないでね」
「そうなんだ」
「とにかく、答えられる限りは答えるよ。他にある?」
「じゃあ——」
それから大体30分くらい、探索者について根掘り葉掘り聞かれた所で、子供と触れ合って満足したらしい杏奈さんからそろそろ帰ろうという連絡が来た。
「ってことで今日はここでおしまい」
「えー。もう少し聞きたいことあったんだけど」
俺がそう言うと、まだまだ聞き足りないと美月が文句を言う。
「まあまあ、今度もう一回来るだろうから。その時に話をするよ」
「それにもうそろそろ夕食の準備をしなきゃいけないだろ。今日は俺たちが当番なんだから」
「亮がやってよ。料理上手いんだし。私は帰り道一緒について行ってその道中で話を聞くから」
「なんで俺だけでやらなきゃいけないのさ。それに飛鳥兄たちに迷惑がかかるだろ」
「良いじゃん今日くらい。飛鳥も良いよね?」
「ダメ。俺だって聞きたいこと一杯あるんだから。ほら、飛鳥兄はこの馬鹿に捕まる前にさっさと帰って」
「亮!!!」
「ほら、早く」
「うん、またね」
そして俺は亮に促される形で相談室から出た。
そのまま杏奈さんと合流し、孤児院から出るために夏希と共に玄関に向かった。
「今日は本当にありがとうございました。お陰でここが存続できます」
「別に良いんですよ。勝手にやったことですし」
「そうだよ。俺を育てた報酬だと思って自信満々に受け取れば良いんだよ」
「飛鳥を育てたのは私じゃなくて前院長でしょ」
「夏希にもお世話になっていたよ」
「そ——」
別れの挨拶をしている最中、突如轟音が鳴り響いた。
「杏奈さん!」
「分かっているわ」
「夏希、来て!」
この轟音には非常に聞き覚えがあった。
そう、俺と杏奈さんが最初に出会うきっかけとなった出来事。ダンジョン発生の時に起こった音と全く同じだったのだ。
だからまず近くに居た夏希を脱出させるため、孤児院の外にでようとした。
そして俺は玄関の扉を開いたのだが、
「壁……!?」
目の前にはまた壁が存在し、外に出ることは叶わなかった。
「私は夏希さんと共に移動するから、ここの構造をよく知っているあなたは先に子供たちのところに向かって。私は脱出経路を探すから」
「分かった」
俺は子供たちを救うべく、子供たちが居るであろう部屋を一つ一つ回ることにした。
「逃げるよ!」
「「「飛鳥兄ちゃん!!!」」」
「こっち!」
「年長の子は小さな子たちを背負ってほしい!」
「モンスターが出たら俺が全部倒すから、落ち着いてついてきて!!」
それぞれ見つけた時は大慌てしていた子供たちだったが、探索者である俺がやってきたことで大体の子は落ち着いてくれたので助かった。
大体の部屋を回りきり、残すは調理室。今日は夕食当番だと言っていたので未だ見つかっていない亮と美月はここに居るはず。
調理室につながる扉を開け、二人が居ないか見回す。
「大丈夫だから。膠着状態を保っていればきっと助けが来る。安心して美月」
「うん。もしここを通しちゃったら皆が危ないもんね」
すると、二人はフライパンと包丁という頼りない武器を携えて目の前に居るゴブリンと対峙していた。
普通のゴブリンであればそのまま戦っていても倒せたのだろうが、今回のゴブリンは剣を装備していた。
いくら弱いモンスターだと言っても、武器で劣っていれば初心者では勝つことは難しい。
「良かった。後は俺が!二人は子供たちを見守ってて!」
だから一定の距離を保ち、見合っている状態だったのは正解だった。
「はあっ!!」
二人が俺の後ろに行ったことを確認した俺はゴブリンを殴り飛ばし、壁にたたきつけた。
その影響で壁にひびが入ってしまったが、ダンジョン化した建物は住居として使えないし、そもそもリフォームする予定だったので問題ない。
「皆、夏希以外は全員揃ってるかな?」
モンスターを倒した俺は、子供たちの元に戻って状況を聞いた。
「見た感じ全員居ると思う。後、モンスターが出てくるとしたらキッチンの近くにある方の床下収納からだった」
「オッケー。ありがとう」
今回は床下収納がダンジョン部分に繋がる階段になっているらしい。そこからゴブリンが出てきたということは、1階に出てくるモンスターはいない可能性が高い。
もし仮にいたとしても、ゴブリンよりは弱いはずなので即死みたいな最悪の事故は起こりにくいだろう。
「俺が前を警戒するから、亮と美月は二人で後ろを警戒してほしい」
「「分かった」」
けれど、万に一つもあってはならないので、警戒は怠ってはいけない。
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