「ボスはこいつね……」
ボス部屋で俺たちの事を待ち構えていたのはデュラハン。Aランク相当のモンスターだ。
両手剣を持った人型の鎧騎士だが、首より上が存在しない。
「亮、美月。しっかりと皆を守ってね。俺たちは戦ってくる」
「「うん」」
守りながら戦う余裕があるかどうか分からなかったので、二人に再度念押ししてからデュラハンの元へ向かった。
「私が正面で戦うから、隙を見て移動手段を奪って欲しい」
「分かった」
俺は剣の間合いから遠く離れた。
そして杏奈さんがデュラハンに近づくと、デュラハンは剣を上に掲げた。すると剣が強く光り、杏奈さんとデュラハンの周囲を囲むように地面に光の円が描かれた。
「剣で勝負ということかしら……?」
杏奈さんがハーピーから奪った剣を構えると、デュラハンも同じように剣を構えた。
どうやら一対一での真剣勝負をご所望らしい。
「出来るところまではやってみようかしら。飛鳥、私が危なくなるまで様子見していて頂戴」
「分かった」
杏奈さんもそれを面白がったのか、デュラハンの要望に応える様だ。
一応Aランクダンジョンのボス級なので一人で戦わせるのは色々と心もとないのだが、杏奈さんの戦闘能力は試験でもかなり評価されていたのですぐ負けるとかは無いと思う。
「じゃあやりましょうか」
そんな杏奈さんの言葉に呼応するかのようにデュラハンは動き出した。
先手を取ったのはデュラハン。騎士っぽく上段から真っすぐに剣を振り下ろす。
あまりにも単純な攻撃ではあったが、それゆえに目にもとまらぬスピードだった。
だが、杏奈さんは事前に攻撃を察知して避けていた。腕を振り上げる瞬間を見ていたのだろうか。今の俺では絶対にできない芸当だ。
そしてデュラハンは振り下ろした剣を横に振るい、避けた杏奈さんに対して追撃を狙う。
あまりの切り替えの早さに杏奈さんも対応できなかったのか、避けるのではなく剣で防ごうとして吹き飛ばされた。
中々の威力だったので壁まで吹き飛ばされるのかと思いきや、空中の見えない何かにぶつかって止まった。
まさか……
「夏希、俺の財布から小銭を一枚出してくれない?」
「え?急にどうしたの?」
「ちょっと確かめたいことがあって」
「分かったけど……」
俺はもしやと思い、夏希に預けていた財布から小銭を取り出してもらった。
そして、俺はその小銭をデュラハンに向けて投げた。
すると、小銭はデュラハンに弾かれるでも切られるでもなく、見えない空中の何かにぶつかって跳ね返った。
「あの光の円はただ分かりやすいように線を引いたわけではなくて、結界のような役割を果たしているんだ」
目的は恐らく一対一を誰にも邪魔されないため。だからどちらかが戦闘不能になるまで二人には一切介入が出来ない。
「え!?じゃあどうするの?」
それを聞いて杏奈さんを心配する夏希。いくら強いとは言ってもボスを一人で倒すのは無謀だと思っているらしい。
「二人の戦闘を見守るしかないかな」
俺たちに出来るのはただ見守るだけ。杏奈さんがデュラハンとの一騎打ちに勝利することを願うしかない。
「大丈夫なの……?」
「うん。杏奈さんは強いから。信じて」
今はずっと防戦一方と言った形だが、絶対に勝ってくれる。
「飛鳥がそこまで言うなら信じるよ。ね、皆」
夏希が皆に声を掛けると、同意するように頷いていた。
そんな会話をしている中、杏奈さんはついに反撃へと転じていた。
「え……?」
しかし、その反撃の仕方が異様だった。
杏奈さんは相手の攻撃の隙に反撃をするわけでも、先手を取って攻撃するでもなく、全てのカウンターだったのだ。
デュラハンの攻撃は遠目で見ても早いのに、そんな芸当が可能なのだろうか。
加えてカウンターをしている杏奈さんを見るのは今回が初めてだ。
正直人間業ではないと思う。杏奈さんは強い、それは良く分かっていたことだけれど、ここまで圧倒的では無かった。
結局、最後の最後までデュラハンの攻撃をカウンターだけで討伐しきってしまった。
「ふう、余裕だったわね」
そして光の円が消え、円の中から杏奈さんが余裕そうな表情で出てきた。
「お疲れ様。ねえ杏奈さん、あれどうやったの?」
「あれ?」
「デュラハンの攻撃を全部カウンターしてたでしょ。どうやったらあんな攻撃のカウンターを百発百中で出来るのさ」
「ああ、あれね。今まで一緒にダンジョンに挑んでいたじゃない?その時におとり役をずっとやっていたおかげで相手の攻撃を見極める事が出来るようになっていたって話よ」
「でも、カウンターってリスク高くない?」
見極められるのであれば避けてから攻撃した方が安全だと思うんだけど。
「普通に攻撃をしてみた結果、一切ダメージが入る気配が無かったから仕方なくよ。カウンターなら相手の攻撃の勢いを利用して少しくらいダメージが通る可能性があるじゃない?」
「なるほど。確かにデュラハンの攻撃は凄かったもんね」
デュラハンがもし自身で結界を張っていなかったら攻撃の余波だけで子供たちに被害が及んでいた可能性があるレベルだし。
「攻撃力は上がっている自信があったんだけれど、まだまだ足りないようね」
「まあ、レベルが上がればどうにかなるよ」
「そうね」
良かった……
また俺がサンドバッグになる流れじゃなくて。あれすっごく痛いんだよ。なんなら今回なまくらの剣を手に入れてしまったからなまくらの剣を無傷で受け止められるまで続けようとか言われかねないし。
「とりあえず、ダンジョンから脱出しようか」
さっさと脱出させて子供たちを休ませてあげないと。身体的な疲労は勿論として、精神的にも相当疲れているだろうしね。
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