ギルドのエースとしてふさわしいかどうかを試すのは分かります。だって大切な妹だもんね。良いと思うよ。
で、その次が問題ですよ。伴侶?あの結婚相手という意味もある伴侶?
「理解できていないようだからもう一度言うぞ。私は、如月飛鳥が妹の伴侶としてふさわしいかどうかを見極めたかったのだ」
「いや、何度言われても理解できませんが」
妹の伴侶としてふさわしいかどうか見極めるために俺に勇者と魔王を倒させたの?
「このシスコンはそういう女なのよ。正真正銘それがこのシスコンの真意よ」
困惑していると、キルケーさんが部屋に入ってきて俺にそう言った。
「普通そんな目的であんなことします?」
「このシスコンは普通じゃないからそういうことをするのよ。本当に驚いたわ。突然私たちに連絡してきて、『如月飛鳥という男が本当に妹の伴侶としてふさわしいかを確かめるためにギルドが壊滅させられたフリをしてくれ』って言われるなんて。ねえ」
「本当だよ。キルケーさんたちと違って僕たちのギルドって防御力がウリなんだよ?壊滅させられたら駄目なんだけれど」
キルケーさんがそう説明すると、氷浦さんも続けて文句を言っていた。
「その分の被害は全て補填するし、要望は何でも受け入れると言っただろう?」
「まあ、そうだけどね……」
「卯月さんの何でもは本当に何でもだからね……」
俺を試すためだけにいくら使ったんだろうこの人。
「麗奈姉。大体事情は理解したわ。でもそれは私が決めることで、あなたが確かめる事では無いわよね?」
「いや、姉として重要だろう」
「そんなわけないでしょ。馬鹿なの?」
「私は天才だが」
「分かった。馬鹿ね」
「だが、どの道伴侶にする予定ではあるのだろう?こんな逸材、逃すわけにはいかないだろうからな」
「はあ……」
「では、妹は飛鳥が別の女に取られても良いのだな?」
「それは飛鳥の自由でしょ。私が決めることではないわ。あくまでただのギルドマスターなのだから」
「今はそうだな。だが、今後は私たちを軽く凌駕する最強の探索者となるだろう。そんな飛鳥に女が出来たら独立してしまうとは思わないか?単独で何でも出来る能力があるのだから」
「かもしれないわね……」
「だから伴侶として契りを結ぶのが最適なのではないか?それに、飛鳥の事は好意的に思っているのだろう?なら迷うことは無いだろう」
「確かにそうかもしれないわね。飛鳥、私と結婚しなさい」
「ええ……」
別に求婚される事自体に何かしら言いたいことは無いんだけど、求婚に至った流れがあまりにもひどすぎやしませんかね。
「私は美人だし、あなたのことはよく知っているし理解もあるわ。そして二人っきりでの同棲経験もある。これ以上素晴らしい条件の相手は今後出てくるとは思わないけど?有名になったあなたに寄ってくるのは金と名声目当ての守銭奴だけよ」
「……」
あなたも金と名声目当ての守銭奴みたいな理由で結婚しようとしていませんか、と言おうとしたが、最初の出会いを思い出して踏みとどまった。その金と名声を手に入れられるようになった理由の大部分は杏奈さんのお陰なのだから。
「で、どうなんだ?飛鳥?私の可愛い可愛い妹と結婚するのかい?婚姻を結ぶのかい?それとも苗字を一緒にするのかい?」
「どれも一緒じゃないですかね」
多少表現が違うだけで選択肢の全てが結婚するなんですが。
「そうですね……お願いします」
まあ、受け入れるんですが。
俺からしても、杏奈さんより仲が良くて素晴らしい女の人は居ないし。もし杏奈さんより素晴らしい女性というのが現れたとしても、これまでの出来事を考えると結局杏奈さんには勝てないと思う。
正直プロポーズのタイミングとか色々全ておかしいけれど、断る理由なんて一つも無かった。
「おめでとう!!」
「ついに結ばれたか」
「頑張って、二人とも!」
「おめでとう」
「よくやったわ、杏奈」
俺がプロポーズを受け入れたのを見て、部屋に居た皆は笑顔でお祝いしてくれた。
「ありがとう」
そして妻になる杏奈さんは照れくさそうに笑っていた。
しかし、結婚を促したはずの麗奈さんは笑顔ではなく、まだ真剣な表情をしていた。
「麗奈さん?」
麗奈さんなら杏奈さんの事を異常な力で抱きしめたり涙を滝のように流したりしそうなものだが、そんな様子は見受けられなかった。何かあるのだろうか。
「結婚するといったな、飛鳥よ」
「はい」
「ならば最終試験だ!私と勝負しろ!!!」
「はい?」
すると麗奈さんは突然立ち上がり、そんな事を言ってきた。最終試験?なんで?
「勇者と魔王を倒したことである程度の強さがあることは証明された。だが、妹の夫を務めるのであれば姉である私よりも強くないといけない!!だから勝負だ!!!」
あまりにも謎理論だけどこれはどうあがいても断れない奴だな……
「というわけで行くぞ!」
俺に口を出す間も与えず指を鳴らし、次の瞬間には見知らぬ平原に立っていた。
「ここは?」
「私個人が所有している最終試験用の平野だ。ここから10㎞歩かないと誰もいないから何も気にせずに戦えるぞ」
「10㎞って。どれだけ金突っ込んだんですか」
「分からん。まあ、海外の安い土地を買っただけだから言うほどはかかっていない筈だぞ」
「ここ海外なんですね……」
探索者でも国外に出る際はパスポートは必要なんですけど。多分バレないし私有地だから特に問題は起きないんだろうけれども。
「でだ。私を倒してみるがよい。だが、先に言っておくと私はあの勇者や魔王よりもはるかに強い。だからどんな手段を使っても構わん。あの勇者の装備を使おうとな」
そう言って麗奈さんは勇者が身に着けていた靴や鎧をどこかから取り出して俺に渡してきた。
「今どうやったんですか?」
さらっとアイテムボックスみたいな事をやってのけたが、杏奈さんは職業スキルを持たない地球の人間の筈だから使えない筈なんですが。
「転移魔法の応用だ。異世界人の奴らがどこかにアイテムを収納しているのを見て私もやってみたいと思ってな。キルケーと色々考察した結果出来るようになった」
「そうですか」
二人で考えたのならそりゃあ出来るか。うん。
「で、使うのだろう?」
「そうですね」
現状俺が使える装備の中で最強なのが勇者の装備だ。麗奈さん相手に使わないという選択肢は無い。
「今回は流石に本気を出さなければな。というわけで私も剣を使わせてもらおう」
そう言って麗奈さんはどこかから見覚えのある武器を取り出した。
「これって……」
「これか?妹の武器の見た目に寄せて作らせた武器だ。まあ素材とかは全く異なるのだがな」
だよね。どう見ても杏奈さんの武器と全く同じ見た目だったし。
「はい。準備できました」
俺は勇者の装備を全身に身に纏い、戦闘態勢に入った。
「よし。ならば始めようか。氷浦、合図を頼む!!」
「うん、わかったよ。じゃあ位置について。勝利条件はどちらかが戦闘不能になるか、敗北宣言をするかの二択。戦闘場所は卯月さんの私有地の範囲内であればどこであろうと構わない。場外に出た場合は負けではなくここに戻ってきて仕切り直し。これで良いかな?」
「ああ。飛鳥も構わないな?」
「はい」
「じゃあ僕が右手を上げたら試合開始ね。……じゃあ、試合開始!」
そして、俺と麗奈さんによる真の世界最強を決める戦いが始まった。
「いくぞ!飛鳥!!」
「はい、麗奈さん!!!!!!」
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