「よし、キサラギ。休め」
「は?」
「戦闘状態から抜け出すだけだ。早くスキルを獲得してくれ」
「スキル……そうか!!」
言われるがままに休み、一息つくと大量のスキル獲得音声が脳内に流れてきた。
これまでのイザベルさんの謎の指示はスキルを獲得するためだったらしい。
獲得できるようになったスキルを確認すると、『素材戦闘【ミノタウロスの角】(初級)』、『素材戦闘【ギガントシャークの牙】(初級)』、『素材二刀流戦闘【ミノタウロスの角&ギガントシャークの牙】(初級)』といったモンスターの素材を戦闘に使用するスキルが大量に並んでいた。
数にして19個。全てが初級の為補正値はそれぞれ1%しかないが、かなりの量だ。
「キサラギ、これを使え」
スキルを獲得し終えて、戦闘に戻ろうとした俺に渡されたのは二本のダガー。
スキルの補正が発動しやすいように、射程が短すぎるモンスターの素材と同じ程度の射程の武器を選んだだけで他意は無いのだろうが、今から戦う男と同じだったので少し笑ってしまった。
「よし、行こう」
「------?」
「------?」
戦闘に戻ると、前衛で残っているのは既に杏奈さんだけになっていた。だから全員が杏奈さんを倒すべく集まり始めていた。
「はっ!!」
いくら戦闘技術が高い杏奈さんでも、躱す場所が無ければ意味を為さない。
だから俺は杏奈さんのところへ集まっている敵をダガーを持ったまま全力で横なぎに拳を振るった。
敵の脇腹に綺麗にダガーが突き刺さり、その後そのダガーを持っている手が脇腹に命中した瞬間に鈍い音と共に真横に大きく飛んで行った。
多分刺した時のダメージよりも俺の拳で与えたダメージ量の方が多そうだが、気にしない方向だ。
「------!」
今の音で俺の存在に気づいたらしく、8名が俺の方を向いて襲い掛かってきた。
「------!」
その中には先ほどまで苦戦していたダガー使いの男も居て、俺が持っている武器を見て楽しそうな笑みを浮かべていた。
「今度は負けない!!!!」
今回も甚振ってやろうという悪意が感じ取れるが、スキルを大量に獲得した俺はさっきとは違う。先ほどまでと同じようにいくとは思うなよ。
相手は人数差を生かして周囲を囲おうとしていたので、俺はその状況を避けるべく一点に攻撃を集中させて脱出した。
「っ!!」
そのような攻防を繰り返した結果、2人には攻撃が命中したので無事に倒す事が出来た。
「------!」
他の倒れていない人たちも攻撃が掠ったりしているので多少はダメージを与えられているのだが、ダガー使いの男だけは未だ無傷だった。
「そんな……!」
攻撃が分散されているので単に試行回数が少ないだけという可能性もあるのだろうが、男は恐らく確信をもって避けている。
一体この男には何が見えているんだ……?
「っ!!」
結局ダガー使い以外は倒せたのだが、こいつだけは倒せる未来が見えない。
なんなら強くなる前に戦っていた時よりも相手に余裕がある気がする。
だけど早く倒さないと。杏奈さんはもっと大人数を相手に戦わされているんだから。
「------」
色々焦っていると、男の雰囲気が突然変わった。笑みを浮かべながら戦っていた男が何かを言った後突然無表情になったのだ。
「っ!」
何の予兆かと警戒していたため、急所を狙う攻撃をぎりぎりで避けることが出来た。
どうやら俺を本格的に倒しにきたらしい。
さっさと男を倒さなければならないのだが、男の攻撃はこれまでの戦闘の中で一番苛烈で攻撃について考える余裕は一切なかった。
「うっ!!」
避けることに必死になっていると、近くで戦っている杏奈さんが苦悶の声をあげた。どうやら攻撃を食らってしまったらしい。
「……仕方ない!!」
後衛を務めている地神教の人たちは既に倒れており、イザベルさんしか後衛を担っている人は居なかった。
そんな状況でイザベルさんに杏奈さんの援護を頼むことは出来ないと判断した俺はダガー使いの男を無視して援護に向かった。
「------」
当然俺を倒すべく男はついてくるが、無茶な方向転換を何度も繰り返すことで追撃を避けた。
足の速さではほとんど差がないみたいだけれど、スキルのお陰で方向転換を何度も繰り返す移動に関してはこちらに分があった。
あっちは方向転換で減速するけどこっちは一切減速しないどころか一瞬加速するからね。
「はあっ!!!」
距離を取ることが出来たので、杏奈さんを囲んでいる人たちに向けて攻撃を仕掛けた。
「------!!」
杏奈さんを囲んでいる人たちはダガー使いの男と戦闘しているものだと完全に周囲を警戒していなかったらしく、あっさりと攻撃を食らってくれた。
横なぎにダガーを振るったため、命中した1人以外に3人が攻撃に巻き込まれて吹き飛んでいった。
「------」
更に追撃といきたかったのだが、流石にダガー使いの男が追いついてきてこちらに攻撃を仕掛けてきたので距離を取らざるを得なかった。
「------」
目の前の男はどうやっても倒せないため、先ほどのように距離を取って誰かしらの手助けに行こうと考えたが、完全に封じられていた。
依然としてひたすら急所を狙い続けていることには変わりないのだが、先ほどまでと違い距離を取られないことを最重要視していたためだ。
「くっ!」
こちらも避ける技術が徐々に身についてきてはいたのだが、それ以上に男の攻撃精度が上がってきている。これでは倒されるのは時間の問題だ。
杏奈さんも相手する人数は減ったもののそれでも数は多く、未だ不利状況で倒しきれるかは怪しい。
万事休すか……
『既に敵は全滅寸前か。我々が来る必要は特に無かったようだな』
現状に軽く絶望していると、見知らぬ異世界人の声が聞こえてきた。
「この状態から更に増援!?」
『なるほど、異世界人はまだ全員生き残っているみたいだな。ならば見ているだけではなく参戦しようではないか。私はカーターを相手取っている男と戦う。皆は残りの二名を狙え』
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