ダンジョンボスの部屋に辿り着くと、案の定ボスを倒すために待機している人たちが扉の前で並んでいた。
「3番目か。ってことは2時間くらい待たされるのかな」
ここのダンジョンボスはかなり防御力が高いらしく、攻撃特化のチームでもなかなか倒せないと聞く。
その分攻撃力はかなり低く、比較的安全に戦えるので確実にダンジョンボスを倒したい探索者はここを選ぶのだとか。
というわけで堅実な探索者しか基本的に集まらないので、一人でダンジョンボスに挑むのは無謀だとか、俺の恰好が軽装すぎて探索者を舐めているのかと突っかかってくる威勢の良い探索者は誰一人として居なかった。
「よし、行こうか」
そして入った2分後、ダンジョンボスは倒れた。普通に2パンでした。
「こっちがメインイベントだね」
先ほどのダンジョンから出た後、本命の国指定のダンジョンにやってきていた。
「入ろう」
そしてダンジョンに足を踏み入れると、視界がぐにゃりと曲がり、前が見えなくなった。
「ふう」
それから数秒後、視界が安定して前が見えるようになった。
様子を確認するために周囲を見渡してみるが、先ほど入ってきたばかりの入り口は見当たらない。四方どこを見ても森が広がるだけだ。
「これがランダムダンジョンね」
ランダムダンジョン。それはダンジョンの入り口に足を踏み入れた瞬間、ダンジョンのどこかに飛ばされる仕様のダンジョンだ。
基本的にAランク以上のダンジョンが持っている特性ではあるが、時折ここのように低いランクのダンジョンでもこの特性を持って生まれることがある。
ちなみに国指定のDランクダンジョンは全てこの性質を持ち合わせている。つまるところ、探索者に早い段階でランダムダンジョンに慣れておいて欲しいという意図が込められているというわけだ。
実際、それ以外の難易度は他のDランクダンジョンと変わらないし。
「とりあえず現在位置を確認しようか」
俺はスマホの地図と周囲の環境を比較しつつ、現在位置を探る。
初手森の中という一番現在位置を確認しにくい場所に出てしまったので、とりあえず脱出するべく適当な方向にまっすぐ進むことにした。
そして走り始めると間もなく、
『立ち去れ……!』
という声と共に俺にめがけて弓矢が飛んできた。
「うわっ!」
その声に気づいたときには弓矢は頭のすぐ横を通り過ぎていた。
「何するんですか!」
単なる嫌がらせにしても度が過ぎている。今回は当たらなかったから良いものの、危うく人死にが出るところだったんだぞ。
『立ち去れ……!』
弓矢が飛んできた方向に対して文句を言うも、普通に無視されて攻撃を再開してきた。
「立ち去れってどこにですか!こっちは入った瞬間にここなんですよ!」
流石に二回目なのですぐに気づいて事前に避けられたけど、これは怒らざるを得ない。
『貴様、私の言葉が分かるのか……!』
すると、その声の主は俺が内容を理解していることに驚いているようだった。
「そりゃあ日本語で話してきているんだから分かりますよ!!」
変な魔法を使っているせいなのか声が反響して聞こえるけれど、それ以外はただの日本語である。
『日本語……?なるほど、貴様にはそう聞こえるのか』
「とにかく出てきてくださいよ」
『……それもそうだな』
声の主はそう言うと、目の前にあった木から降りてきた。全く気付かなかったが、意外と近い所に居たらしい。
「えっ……!?」
そして現れたのは純日本人……ではなく褐色肌の女性だった。
これだけなら日本を拠点にしている外国人と考えられたのだが、彼は耳が尖っていたのだ。
それはまるでエルフのようだった。
『なんだ、私の事を人間だと思っていたのか?』
「そりゃそうですよ。日本語で話しかけてきたんですから」
『残念だったな。私はダークエルフだ』
「ダークエルフ?なら何で……?」
ダンジョンのモンスターとは、相手がたとえ人間並みの知性を持っていたとしても言葉を交わすことは不可能だとされている。
理由は単純で、相手が地球の言語を知らないからだ。
しかし、今目の前に居るダークエルフはこちらの言葉を完全に理解している。
『それは……そうか、なるほど。いや、そうだな。恐らくお前が魔法に対する耐性が低かった事が原因だろう』
「耐性が低い……?」
確かに低いけどさ。魔法に関連するスキルは全く持っていないから。でも何の関係が……?
『ああ。私は話すときは常に言語魔法という、お互いの言語が分からなくても意思疎通が可能になる魔法を使用している。しかし人間は無意識に私の魔法に抵抗しているから効かないのだ。だが、お前は魔法に対する抵抗力がここに来る人間にしては異常に低かった。だから魔法が通じ、意思疎通が出来たのだ』
「そうなんですか。ということは他の人も抵抗を抑えれば意思疎通が出来るってことですか?」
『いや、無理だ。いくら抑えてもお前レベルの抵抗力まで抑えることは出来ないからな』
「そんなに低いんですか……」
『ああ。一般的な赤子レベルだ』
いくらスキルで強化していないと言っても、そんなことある?
『まあ、そんなことはどうでも良い。とりあえずここから出て行ってくれ。私はゆっくりしたいんだ』
「と言われましても。突然森のど真ん中に飛ばされたのでどこに行けばいいのか分かんないんですよ」
恐らくここだろうという当てはあるし、どこかにまっすぐ進めば出られることはしっている。
しかし、どうせ追い出されるならどの方面に進めば下の階層にすぐ降りられるか聞いておいた方が得だよね。
『どうして分からないんだ。自身で扉を開いてあちら側から入ってきたのではないのか?』
ダークエルフは困惑した様子で俺の後ろを指さしていた。
「扉ってなんですか?ここ第2層ですよね?」
このダンジョンはボスの階層含めて6階層で出来ているのだが、森があるのは第2層と第6層のボス部屋のみ。
ランダムダンジョンでボス部屋に飛ばされることは無いので、今いるのは第2層というわけだ。扉なんてあるわけがない。
『何を言っているんだ。ここは第6層。ダンジョンボスの部屋だぞ』
「え?」
『ん?』
「ってことは……?」
『私がこのダンジョンのボスだ』
「えええええ!?!?!?」
今話しているこの人ってダンジョンボスなんですか!?!?!?
『本当にボス部屋だとは気づいていなかったらしいな』
「えっと、そうですね」
『なるほどな、でどうするんだ?』
「ダンジョンボスを倒して素材を持って帰るってのが目的だったんですけど、流石に……」
最初は弓矢で攻撃されていたとはいえ、今の今まで仲良く談笑していた相手を殺すのは流石に気が引ける。
『そうか、確かに私もお前を殺すのは嫌だな。私としても久々に話すことが出来た人型の生物だからな。というわけで少し待っていろ』
そういってダークエルフはどこかに去っていった。
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