「勇者と魔王……？」

　こちらの世界で得られるスキルじゃなくて、職業スキルの勇者と魔王ってことは……

「ああ、この世界のゲーム等に登場する勇者と魔王と概ね同じだと思ってもらっても良い」

「なら敵対しているべきじゃないんですか？」

　魔王と勇者は敵対して最後の最後まで争うってのが一般的な認識だ。

「アスカの言う通り歴代の勇者と魔王は敵対していたんだがな。この代の魔王と勇者に限っては幼馴染ということもあり敵対することは無かったんだ」

「そうなんですね」

「それだけなら争いが無くて良かったというだけで終わるのだが、その勇者と魔王は職業スキルによって得た強大な力を持って国を乗っ取り、圧政を敷いてしまったのだ」

「それじゃあ勇者と魔王じゃなくて両方とも魔王じゃねえか……」

「ああ。私は別の国に住んでいたので被害は無かったが、それはもう悲惨だったと聞いている。数年前からその話を聞かなくなっていたが、地球にやってきているとは思わなかったな」

　確かにそんな魔王と勇者だったら既得権益を守るために異世界人を襲撃していてもおかしくない。

「でもそれなら大統領にでもなって世界を表から牛耳ってしまいそうなものだけど」

「恐らく二人が目立つと異世界人が完全に雲隠れしてしまうからだろうな。あいつらに目をつけられたら終わりだからな」

「二人が気づく前に強くなられたら対処できないからってことね」

「ああ、だからまさか今回二人が直々に襲撃してくるとは思わなかった」

「ねえ、そんな奴らが襲撃してきたってことは『師走の先』もヤバくない！？」

「そうね。麗奈姉がいくら強いとは言っても二つのギルドを壊滅させた相手を対処できるかといえば怪しいわね」

「なら行かないと！」

「そうしたいのは山々だけれど、私たちの今の実力では確実に勝てないわ。イザベルさん、そうでしょう？」

「ああ。こちらに来る前の段階でレベル２００相当だった。それから数年経っているからレベル３００相当あったとしてもおかしくはない」

「３００……」

　つまり今の俺の二倍強いということになる。

「そんなのどうやっても勝てないじゃん……」

　と弥生が自信なさげに言う。

「何なら幹部にも異世界人が居るようだからな。アスカだけ対等になったとしても勝てるとは断言できない」

　既に絶望的だったのに、イザベルさんは更に絶望的な情報を追加した。

「「「……」」」

　あまりにも絶望的な状況すぎるため、車内の全員が沈黙してしまった。

「結局私たちは麗奈姉が出来る限りの時間稼ぎをしてくれると信じて強くなるしかないわ。健太、さっさとSSSランクダンジョンに向かいなさい」

「わ、分かった」

　絶望的な空気が流れていたが、杏奈さんは一切を無視して次の目的地に向かわせた。

「はあっ！！！」

「せいっ！！」

「とうっ！！！！」

　俺たちはダンジョンの外で起こっている事を忘れるためか、いつも以上に力強い声をあげながらモンスターを狩っていた。

「健太！もう少し下がって！！危ないわ！！！」

「弥生、敵を集めすぎよ！！もう少し抑えて！！」

「飛鳥、弥生の援護をしなさい！！！」

「イザベルさん、弥生の援護をお願い！！！」

「皆、もう少し安全に狩りをする意識をして頂戴。あまりにも危険すぎるわ」

「ごめん、つい焦っちゃって」

「ついさっさと倒さないとって意識がな……」

　連携自体が崩れているわけではなかったのだが、全員が全員さっさと敵を倒して強くなろうという意識が向きすぎていて危機的な状況が何度か発生していた。

「気持ちは分かるわ。でも死んでしまったら元も子も無いのよ」

「そうだな。勇者と魔王に挑む時に残っていたのは一人だけだった、なんてことになったら洒落にならないからな」

「ただ、もう少し急いだ方が良いのは事実。というわけで次のダンジョンからエリクサー入り飲料の使用頻度を上げましょう。そして普通のエリクサーも予備として２０本用意するわ。これなら四肢が欠損する程度の怪我までなら気にせず戦い続けられるわ」

「四肢欠損程度って……」

　四肢欠損ってダンジョン探索中に起きる最大の怪我だよ。それ以上は基本的に死んじゃうんだから。

「四肢欠損まで意識してやれとは言っていないわ。最低限致命傷になるような怪我だけ避ける意識だけ持って戦えば良いって言っているだけよ」

「とりあえず次のダンジョンからだな。今は目の前のダンジョンを安全に攻略することを意識すりゃあ良いんだな？」

「そういうこと」

「オッケー」

　話し合いを経て一旦冷静になった俺たちは、先ほどのような危機的状況に陥ることはなく普通にダンジョンを攻略した。

　そして戦闘方針が変わった次のダンジョンにて。

「健太！これから１００頭来るから守ってね！！！」

「１００！？分かった！！！」

「飛鳥と敵の中心に突っ込むからイザベルさんは外側の敵を狙って！！」

「了解」

　相手にしているのは最強の狼系モンスターのフェンリルなのだが、気付いたら一度に２００頭以上と戦うことになっていた。

　一応伝説のモンスターっぽいんだけどなあ……

　まあ弥生がダンジョンの端から端まで索敵した上で雑に攻撃してかき集めているから仕方ないと言えばそうなんだけどね。

「集中しなさい！まだまだ増えるのよ！！」

「う、うん」

　そんなことを考えている暇なんて無かった。とにかく敵を倒さないと。