「というわけで、私たちのギルドに入ってくれないかしら?」
「私ですか?」
「ええ、あなた。如月美月さんよ」
「私、全く強くないですよ……?」
隣の部屋に居た交渉相手とは美月のことだった。
それもそうである。俺が強かったのだから似た系統の特徴を持つ美月が将来有望でない理由がない。
「確かに今のあなたは強くない。むしろ弱いと言っても良いわ」
しかし、そんな事情を知らない美月は自分がなぜ誘われているのかを理解できていない。
「ではなぜ……?」
「あなたには才能があるからよ。ここに居る飛鳥と同じ、いや、似ているけれど少し異なる才能が」
「『聖者』の事ですか?」
「ええ。私たちのギルドには今回復魔法が使える人間が居ないわ。だから、あなたにはその『聖者』を強化してもらって、私たちの回復役として頑張ってもらいたいの」
「回復役ですか?」
「そうよ。待遇は完璧なものを保証するわ。少なくとも、『師走の先』よりは素晴らしい条件を提示できる自信があるわ」
「どうしてそこまで……?」
「私が可能性を感じたからよ。結論は今すぐにとは言わないわ。今人生の決断をさせるのは酷だからね。高校受験後でも、高校卒業後でも、好きな時に連絡しなさい。いつでも私は応じるから」
「わ、分かりました……」
「それじゃあまたね」
「はい……」
杏奈さんはそれだけを伝えて、部屋から出た。
「じゃあ帰ろうかしら。明日は早い気がするから」
「そうだね」
俺たちは全員の無事を確認したのち、家に帰った。
そして翌日、予想通り俺たちは探索者本部に呼び出された。
「本日呼び出された卯月と如月ですけれども」
「はい、卯月様と如月様ですね。今から案内いたします」
本部の受付の人に話しかけると、話が既に通っていたようで、そのまま本部の応接室に連れてこられた。
「ああ、こんにちは。今日は昨日発生したダンジョンの詳細について伺うために来ていただきました。お忙しい所をわざわざありがとうございます」
そして部屋に入ると、先日話しかけられた水野さんではなく別の人に出迎えられた。
この間の水野さんは見た目年齢が30代くらいだったのに対し、この人は50代くらいなので多分上司なのだろう。
「いえ。孤児院の方がホテルでお世話になっているのでこちらこそ感謝しています」
「そう言っていただけると幸いです。まずは自己紹介からですね。私はダンジョン探索省の杉内武史と申します。本日はよろしくお願いします」
「『Oct』の卯月杏奈です。本日はよろしくお願いします」
「如月飛鳥です。よろしくお願いします」
「はい。では早速質問なのですが、本当に出口は存在しなかったのでしょうか?」
「そうですね。少なくとも人間が通れるような出口は存在しなかったと思われます。これに関しては他の方に聞いてもらっても同じ答えが返ってくると思います」
「失礼しました。脱出した方法から分かってはいたのですが、念のため確認させていただきました。では次の質問なのですが——」
それから約1時間、ダンジョンについての詳細を事細かに聞かれた。
「では、ダンジョンについての質問は以上です。それでは事情聴取を行っていた方全員にお願いしていることなのですがステータスの測定をしてはいただきます」
そして質問は終わり、無事に解放されるかと思いきやそんなことを言われた。
「断ることは可能ですか?」
俺の強さの原因を秘匿している都合上、相手が国であろうとステータスの測定は都合が悪かった。
だから俺が言うまでもなく杏奈さんはそんなことを聞いた。
「調査としての信頼度を上げるため、規則によって断ることは出来ないようになっております」
しかし、当然のように断られた。
誇張を防ぐためにステータスの測定が必要だということは分かっているのだが、俺にとってはあまりにも都合が悪すぎた。
「ではステータスの測定をしてもらいたくないので、今回の調査は全て無かったことにしてください」
だがはいそうですかと受け入れるわけにはいかないので、杏奈さんは食い下がった。
「ダメです。新系統のダンジョンが発生した場合、当事者となった探索者が調査を受けることは義務となっております。断った場合、探索者としての資格を剥奪することになります」
「……分かりました」
しかし、探索者資格の剥奪まで持ち出されると断ることは出来なかった。
「ありがとうございます。それではついてきてください」
「最悪ね……
杉内さんに連れられている途中、杏奈さんは苦々し気な表情でそういった。
「まあ、ある程度は大丈夫だと思うよ。悪いこと自体はしていないし」
あくまで俺が他の人と異なるだけで、別に何か罪を犯したわけではない。
「それもそうね、杞憂よね」
「そうだよ。それに俺たちはかなり強くなったわけだし。最悪何かに狙われることになってもどうにか出来ると思うよ」
流石に麗奈さんみたいな圧倒的強者に狙われたらひとたまりもないけれど、この世の大半の人間には勝てる自信がある。
「到着しました。検査は順番に行いますので先に卯月さんからベッドの上にうつ伏せに寝そべってください」
「分かりました」
まずは杏奈さんからの調査となった。
杉内さんは部屋の端にある機械を操作すると、天井に吊るされていた謎の箱から赤い光が杏奈さんに対して照射され始めた。
「では終了です」
丁寧に頭からつま先まで光が照射され、調査が終了した。どうやらあの光で身体能力をスキャンしているらしい。
「では次、如月さんも同様にお願いします」
「はい」
俺も杏奈さんと同じようにベッドにうつ伏せで寝ころんだ。
普通の人とは違い、スキルの数が異常なまでに多いので機械の方で色々とバグが起きて破壊しそうな気もしたが、見た感じ凄い機械だし何かイレギュラーが起こったとしても大丈夫だと思う。
それに何か起こったとしても税金で賄われている装置だからね。今年の税金は尋常じゃない額になりそうだからそれで許して欲しい。
「終わりました。これから結果を係に渡して数値化いたしますので、先ほどの部屋で10分ほど待っていていただけますか?」
なんてことを考えていると、無事に終了したらしい。
「「分かりました」」
俺たちは応接室に戻り、椅子に座って待っていた。
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