そして遂に侍に攻撃を命中させられそうになった瞬間、杏奈さんと戦っていた筈の武闘家が俺を殴り飛ばした。
「どうして!?まさか!!……え?」
俺が攻撃を当てられていない間に杏奈さんが倒されたのかと思ったが、杏奈さんは普通に無事だった。
『ブロウ、お前あの女と戦っていただろう』
『ああ。だがこっちを相手する方が楽しそうだと思ってな』
『それならせめてあいつを倒してから来い』
『あいつなあ。レベルは低いが技術だけは無駄に高くて時間がかかるんだよ』
『地球人な上にあの若さで凄腕の剣士だったか。興味深い』
『ってことで任せたぞ』
『ああ』
『というわけで俺はブロウ!職業スキルは見ての通り【武闘家】だ。同じ拳だけで戦う者として勝負を挑みたい』
どうやらブロウと呼ばれたこの男は俺と戦いたくて来たらしい。
「誰が来ても殴り倒すだけです。やりましょう」
『ああ、正々堂々戦おうぜ!!!』
ブロウは楽しそうに笑いながらこちらへ殴りかかってきた。
「っ!!」
筋骨隆々の大男だったためパワータイプの武闘家だと思っていたが、想像以上にスピードが速い。
『これを避けたか。大抵の奴は避けられないんだがな。あの女共々良い目をしているな』
「それはどうも。じゃあ今度はこちらから!」
俺は反撃としてブロウの腹に殴りかかった。
『流石に当たるわけにはいかねえな』
しかし、ブロウはサイドステップで俺の攻撃を避けてきた。
『ふっ!』
「っ!」
そしてブロウは攻撃を外した俺に対して左でパンチを撃ってきた。
攻撃の勢いが残ったままだったため、避けられずモロに食らってしまう。
『もういっちょ!!』
一旦攻撃を避けるために俺は下がったのだが、ブロウは距離を詰めて再びパンチを繰り出した。
「ぐっ!!」
『っと。一旦はここまでみたいだな』
ほぼノーガードで二発食らったものの、どちらも威力自体は大したことが無かったのでどうにか体勢を元に戻すことが出来た。
「なるほど、ボクサーだったのか」
そして改めてブロウを見ると、ファイティングポーズをしていた。
荒っぽい口調の割に避けてからの攻撃の流れが手慣れているなと思ったが、そういうことか。
『ほら、かかってこいよ』
ブロウは俺に攻撃してこいと手招きして挑発してくる。恐らく俺の攻撃を全て回避するつもりらしい。
ボクサーとなると、現状の俺の技術では真っ当な方法で攻撃を当てるのは難しいと考えるべきか。
色んな武術系のスキルはもっているけれど、補正がかかっているだけで武術をしっかりと学んでいるわけじゃないからね。
しかし、攻撃手段は体だけだ。
となると、反撃覚悟で攻撃するか、反撃を受けないように隙の無い攻撃だけをするかの二択か。
一番楽なのは反撃覚悟、相打ち覚悟での戦い方をすること。ジャブの威力が弱すぎたことを考えるに全力のパンチでも一瞬で戦闘不能になるとは考えにくいからね。
でも、その相打ち覚悟の攻撃すら避けられた時のリスクが大きすぎる。まだ相手の能力が分かり切っていないタイミングでやる行動じゃない。
だから隙の無い攻撃を繰り返した方が良い気がする。
「はっ!」
『ほう、そう来るか。まあそうだよな。お前の防御力は大したことないだろうしな!』
「でもリスクが高すぎて反撃できませんよね!!!!!」
『ははは、今はそうだな。だが、いつまでその無茶な攻撃を続けられるんだ?』
どうやら俺が疲れて攻撃が続けられなくなるまで避け続けるらしい。
「いつまででしょうね?」
ブロウは俺が全てを破壊できる勢いの攻撃を続けているからって体力がすぐに切れるだろうと予想しているが、そんなことはない。
元々体力関連のスキルはいくつか取っていたので体力には自信があったのに加え、ここ最近のエリクサー漬け生活によって体力向上、体力回復系のスキルは攻撃力が上がるスキル並みに取得している。
だから俺は続けようと思えば10時間でも100時間でも一撃でレベル200越えの相手を倒せるレベルの攻撃を続けられる。
しかし、そんな悠長な戦い方をしていたら皆が持たない。
「はあ、はあ、はっ!!!!」
というわけで一芝居打つことにした。体力が切れかけているフリをして攻撃速度を少しずつ落としていく。
『思ったより早かったな。まあ、当然か。あんな化け物みたいな攻撃力は何かしらの代償だろうしな』
「まだ、俺は、攻撃できる!!!!」
威力自体は変えないまま、攻撃の速度を最初の半分以下まで遅くして強がるふりをした。
『おうおう、もうヘロヘロじゃねえか。最初はおもしれえ相手だなって思っていたんだがな。後先考えられない馬鹿だったか。いや、後先考えて馬鹿な行動してもなお俺に届かなかっただけか』
と完全に勝ち誇った様子で俺の攻撃を避け続けるブロウ。
『ってわけでそろそろ決着をつけるか。あばよ』
俺の攻撃を紙一重で避けたブロウは、俺の腹目掛けて全力のパンチを放とうとした。
その瞬間俺は全力で踏み込み、ブロウへ体当たりをした。
『何っ!!』
全く予想が出来なかったのか、ブロウは無防備な状態で体当たりを食らい、宙へ吹き飛ばされた。
「今やらないと!!」
一応攻撃に成功はしたものの、パンチ自体は思いっきり食らっていた。かなりのダメージが入ってしまっているが、ここを逃せば勝機は無い。
俺は痛みをこらえ、宙に舞うブロウの元へ跳んだ。
『完全にやっちまった!くそっ!!!!』
「とどめだ!!!」
空を飛ぶスキルを持っていないブロウは攻撃を避けることは出来ない。だから俺は素直に全力でパンチを放った。
パンチを受けたブロウはドン、という鈍い音と共に遠くへ吹き飛ばされていった。
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