翌日、俺たちは杏奈さんの提案により見知らぬ森の中に来ていた。
「本当に良いの?」
「ええ、許されないわけがないわ」
「確かにそうだけどさ、結構被害出そうじゃない?」
「それでも問題ないわ」
「確かに問題ないかもしれないけどさ……」
その見知らぬ森の持ち主は当然のように杏奈さんの姉である麗奈さんである。
森であればいざという時に逃げやすいし、森の中は若干暗いため少々変装したら助っ人が地神教の人間だと絶対に気取られないという理由も理解は出来る。
だけど、人の土地だよここ。相手の戦法次第では使い物にならなくなる可能性があるんだよ。
「それに、ここでないといけない理由も一つあるのよ」
「ここじゃないといけない理由?」
「ええ、後々分かるわ」
「そっか……」
言い方的に麗奈さんが助っ人で戦ってくれることはほぼ確定だとして、何かこの森だからこその戦法が別にあるのだろうか。
「居場所は分かるようにしてあるから、後10分くらいで着くわ。準備をしておきなさい」
「うん」
たった3人の居場所なんて特定しようがないので隠れ続けることも実は可能なのだが、もし隠れた場合家を破壊するという脅しがあったので仕方なく戦闘場所を用意する羽目になった。
一応あちら側が用意した場所で戦うという選択肢もあったのだが、誰がどうみても罠だらけだしあちらに有利な戦場だったので却下となり、SNS経由で大々的に戦闘場所を知らせることにしていた。
「来ましたよ」
各々が強敵との戦いに備え、入念な準備をしていると、森の中に入ってくる大量の人影を確認した。
「では私が先手を取る。遠距離攻撃が出来る奴は手伝ってくれ」
「はい!!」
襲撃者相手にわざわざ正々堂々と戦う必要もないので、森に入ってきた瞬間にイザベルさんと地神教の数人が遠距離攻撃を仕掛けることにした。
しかし奇襲をされることは当然予期されていたらしく、遠距離攻撃の大半は防ぎ切られてしまった。
そして同時に居場所がバレてしまったので、全員こちらに向かってきた。
「背後からは来ていないようね。正面だけに集中しなさい!」
人数の利を生かして多方向から向かってくると想定していたが、敵は全員固まって正面から向かってきた。
そのため、左側に地神教、右側に俺たちという布陣で敵に備えた。
「------!!」
まずは移動速度が速い軽装の探索者たちが先陣を切って突っ込んできた。全員言葉が分からないので、地球人のようだ。
「------!!!」
俺の正面にやってきたのは小型ダガーを二つ持った男だった。顔にはタトゥーがびっしりと彫られており、舌を出して狂った笑みを浮かべている。
そんな男は二つのダガーで俺の急所以外を目掛けて攻撃を仕掛けてくる。男の楽しそうな表情をみるに、意図的に急所を外すことで俺を甚振ろうと考えているのだろう。
人数有利でほぼ勝ちみたいな戦いだと思っているから余裕があるのだろう。
「はあっ!!!!」
俺は反撃しようと何度も攻撃を仕掛けるが、男は戦闘能力が非常に高く俺の攻撃を全て紙一重で全て避けている。
身体能力自体はこちらの方が上だとは思うが、完全に通用していない。
「------?」
そして一方的に攻撃を受け続ける。急所は一切狙われていないのでまだ大丈夫だが、このままではそう長くはもたない。
他の戦闘状況はどうだろうと思い周囲を見渡すと、他の前衛の人たちは正面の敵とほぼ互角の戦いをしていた。
一方でイザベルさんが居る後衛は優位に立ち回っており、遠距離から相手の後衛の攻撃を叩き落としながら数を減らしてくれていた。
耐え続ける事が出来ればイザベルさんの手で目の前の敵も片付けてくれそうだが、それまで耐えるのは無理だ。
かといってイザベルさんに助っ人をしてもらおうとすると、相手の後衛の攻撃を叩き落とせる人が居なくなり、前衛が集中砲火を受けてしまう。
つまり、俺は正面の敵を自力で倒さなければならない。
「------!!」
と一人戦況を確認していると、突然目の前の男が急所を狙ってきた。今までのような狂った笑みではなく怒りの表情を見せているところを見るに、無視されていたことにキレたのだろう。
それから目、鳩尾、首、心臓と狂ったようにひたすら人間の急所を目掛けて攻撃してきたため絶体絶命かと思ったが、急所を外している時よりも攻撃が単調になっていたので容易に防御が出来た。
だからといって反撃が出来るかといえばそうではなく、ただ攻撃を防げるだけだった。
「------!」
急所を守り続けて数十秒後、ちゃんと自身に集中してくれて満足したのか再び笑顔に戻り急所を避けた攻撃を始めてきた。
「っ!」
やはり急所を避けた攻撃の方が防御しにくかった。
やっぱり……
「もう仕方ないよね」
俺は男の攻撃を防御することを完全に諦め、相打ち狙いの戦法に切り替えることにした。
「------!!」
ただひたすら相手が攻撃を仕掛けた瞬間に合わせて攻撃を撃ち込む。
それでも尚攻撃は避けられ続けたが、先ほどまでとは違い紙一重で避けるような余裕はないらしく攻撃を一旦止めてから背後に大きく飛んで避けていた。
「一発だけ当てればいいんだ。一発……」
俺の攻撃力があれば一発でも当たりさえすれば倒せるはず。そうでなかったとしても優位にはなれる。
だから一発一発、どのタイミングで攻撃するのが最適かを考えながら精度を上げていく。
「今だ!!!」
「!!!」
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