『邪の者から地球を守るべく活動してきていたのですが、残念ながら地球にその邪の者が侵入していた事が判明しました。その種族は人間、私たちと同じ人間でした』
「えっ……!?」
「一旦最後まで聞きましょう」
「うん」
既に嫌な予感しかしていないけれど、まだ100%そうだと決まったわけではない。
『その者は赤子の状態でダンジョンに現れ、外に出たところを孤児院に拾われたらしいです。顔も見た目も普通の赤子と変わらないため、何の疑いも持ちようが無かったのでしょう。そしてその子供は育ち、現在18歳で探索者として活動しています。彼はダンジョンから現れたモンスターと同様にレベルが上がらないという特徴を持つ代わりに、スキルを無制限に獲得できるという特徴を持ちます』
「俺じゃん……一体誰が?」
この話を知っているのは弥生と健太、杏奈さんと相羽さんと杉内さんのたった5人。
弥生と健太、そして杏奈さんが誰かに言いふらすことは当然無いし、相羽さんと杉内さんも社会人であり、そこで得た情報を外に漏らすことは懲戒ものだからありえないはず。
「確実に杉内ね」
「杉内さん?」
「あの時途中でどこかに出ていったのは調査結果を地神教に伝えるためだったのよ。もしかすると、ステータスの調査が強制だったのは嘘で、強者のレベルを地神教に伝えるためだったのかもしれないわね」
「そんなことある?」
「でも実際に起こっているわ。もう一人の容疑者である相羽さんはあの秘密を誰かに話す性格には見えないわ。誰かに話すよりも情報を独占して、自ら研究をするタイプの人間よ」
「そっか……」
確かに相羽さんの説明に関しては納得がいった。となると本当に杉内さんしか該当者が居ないことになる。
それからもしばらく俺の特徴と、その強さについて話し続けた。
『現状はこの世界に仇をなす様子は見られませんが、ただ隠しているだけという可能性が非常に高い。彼がそこそこの探索者としての強さに留まるのであれば私共で経過観察をするだけで良いという判断を下していたでしょう。しかし、彼をこのまま放置してしまえば確実に誰にも手が付けられなくなるほど強くなってしまう。だから私は彼を今のうちに地球から排除してしまうべきだと考えます』
教祖がそう言い切ると、会場がどよめいていた。
「俺を、排除……?」
しかし、それどころではない。俺は今排除されそうになっているのだから。
「大丈夫、安心しなさい。まだそう決まったわけじゃないから。教祖がわざわざ公で話をしたということは、国民の同意が取れるまでは動けないはず」
杏奈さんはそんな俺を安心させようとしてくれていた。
「ありがとう」
「それに、いざという時は麗奈姉が口出しをしてくるはずだから」
「そうだね」
妹愛で生きている姉なら妹の相方が危機に陥っていると聞いたら絶対助けてくれると思う。多分きっと。
『その肝心の彼が今どこにいるかと言いますと、こちらの映像を見てください』
心を落ち着かせた瞬間、衝撃的な映像が現れて落ち着いた心が再び暴れだした。
『ここは、彼が在籍するギルドのリーダーと共に暮らしている家となります』
そう、テレビ画面に映っていたのは俺と杏奈さんが生活している家だったのだ。
『彼が所属しているギルドは彼を含めてたった二人のギルドです。だからこそこんな一見普通の家に住んでいるわけですね。では、早速モンスターに出てきてもらいましょう。皆さん、よろしくお願いします』
教祖がそう指示すると、家のチャイムが鳴った。
「どうする……?」
「無視に決まっているじゃない。ここで出たところで一切の得が無いわ」
「それもそうだね」
ここで出ることこそ相手の思う壺なので何度も鳴るチャイムを無視し、時が過ぎ去るのを待つことにした。
俺が出ていかなければ、モンスターであるという話も全て立証することが不可能になる。
『予想はしていましたが、流石に出てきてくれませんね。もし出てきてくれるのであればそのタイミングで情報公開を行いたかったので名前などを伏せていたのですが、もう公表してしまいましょう。そのモンスターのこの世界での名前は如月飛鳥。孤児院出身のAランク探索者で先日の特殊なタイプのダンジョン発生にて孤児院の人たちを全員生存させた立役者です』
教祖はそう言うと、俺の顔写真がテレビに表示されていた。
『肖像権などを心配される方が居るかもしれませんが、彼はダンジョンから産まれたモンスターで本来は人権などないので問題ありません。それに、彼の顔と名前はどの道ダンジョン発生関連のニュースで世間に広く知られる予定だったのでタイミングが少々早くなっただけです』
「問題ないじゃないわよ。あなたを誹謗中傷した上で、私たちのギルドの評判に大きな傷をつけてそれが当然みたいな顔をしないでくれるかしら。良い評判と悪い評判どちらで知られるかで大きく価値が変わるのよ」
教祖の滅茶苦茶な理論を聞いて杏奈さんはブチギレていた。
「ちょっと出てくるわ。あなたはここに居なさい」
杏奈さんはそのまま立ち上がり、外に出ていった。
すると間もなく、テレビに杏奈さんの姿が映った。
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