そんな攻防が続くこと10回、遂に俺は一発食らわせることに成功した。
ギリギリのタイミングまで粘ったため、ダガーが一本腹に突き刺さってはいるが男は凄い勢いで後方へと吹き飛ばされていた。
「よし!」
ダメージはかなり負ってしまったけど、倒すことが出来た。
他の人たちはまだ戦っているから助けないと。
俺はまず杏奈さんと戦っている敵を倒すべく近づこうとした。
「っ!!」
しかし、それは遠くまで吹き飛ばされていたはずの男の手によって防がれてしまった。
「------?」
「どうして!?」
吹き飛ばされ方的に本来ならばかなりのダメージを負っているはず。しかしこの男は痛みに苦しむどころか一切傷が無いようにすら見える。
「------!!」
そんな男の繰り出す攻撃は先ほどと遜色ないレベルで素早い上、相打ち狙いの攻撃すら当たらなくなっていた。
「こんなのどうすれば……」
相打ちが通用しなくなってしまった上に、相打ちで攻撃を入れたところで効果的なダメージが与えられるかすら分からない。
「------!!」
なんてことをしている隙に相手側の援軍がやってきていた。
これにより、同じ程度の人数だった前衛の均衡が崩れてしまった。
俺たちは1対1で互角だったのに、今度からは2人同時に相手しなければならなくなった。
ただ、これ自体が大きな問題というわけではない。
目の前の敵を倒せなかったとしても、時間を稼ぐ事が出来れば優位な後衛が相手の後衛を全滅させた後俺たちの援護をしてくれるという分かりやすい勝ち筋が残っていたから。
しかし、後衛も人数が増えてしまったことによりそちらの優位性も消え去っており、時間が解決してくれるかもしれないという期待は持てなくなっていた。
こうなってしまうと完全にジリ貧だ。徐々に押し切られ、ぎりぎり互角だった後衛すらも崩壊して全滅だ。
「何か打開する術を見つけないと……」
「------!」
しかし、まずは目の前の相手を考えないと。援軍が来たことにより、ダガーを二本持ちした男に加えて3m程度の槍を持った男が加わった。
こちらに関してはダガーの男とは違って紳士的な見た目をしており、ある程度常識的な印象だ。
「------!」
ただ、ずっと喋っている内容が分からないためそこらへんは分からない。そもそもダガーの男と仲良さそうにしている時点で怪しい所がある。
なんて人間性の判断なんてどうでも良いんだ。今はどうやってこの現状を打破するかだ。
俺には魔法も、特殊なスキルや異能も持っていない。ただこの世に存在する職業スキル以外のスキルを獲得できるだけだ。
「------!!」
だから突然全てを解決してくれるような特別な何かは存在しない。今ある強さが自分の今出し切れる全てである。
となると何かを解決できるとすれば突飛な作戦なのだろうが、人数差に加えて近距離で戦闘中である時点で講じられる策などたかがしれている。
「キサラギ、これを使え!」
と困り果てていると、イザベルさんが俺に向けて何かを投げてきた。
敵二人から距離を取ってそれをキャッチすると、それはミノタウロスの角だった。
「何に使うのさ!」
「いいからそれを使って戦え!私を信じろ!」
全く意図が掴めないが、何か策があるのだろうと信じてひとまずこの角を使って二人を相手取ることになった。
「------?」
「------!!」
「っ!」
言われるがままにミノタウロスの角を使って数分戦ったが、別に何かが好転するということは無かった。強いていえばミノタウロスがAランクのモンスターなだけあって角は非常に丈夫で、かなり無茶な戦い方をしても破損しないことが分かっただけだ。
「キサラギ!!!!」
ミノタウロスの角についての理解がある程度深まったタイミングで、イザベルさんはまた別の物を投げてきた。
「歯……?」
次に渡されたのは何か巨大なモンスターの歯だった。
「同時に使って戦うんだ!」
「う、うん」
今度はミノタウロスの角とモンスターの刃の二刀流で戦わなければならないらしい。
その後も、数分戦うたびにモンスターの素材をイザベルさんから渡され続けた。
一応どれもかなり丈夫な部位で、無茶をしたところで破損するようなことは無かったのだが、これといって戦況が好転するわけもなく。
「ぐはっ!!」
そんなことをしている間に地神教の一人が敵にやられてしまった。
「ぐっ!!」
こちら側の一人がやられてしまったことにより、その人を相手していた二人が別の地神教の教徒に襲い掛かっていた。
「キサラギ!次はこれだ!!!」
そんな様子を見ている筈なのにイザベルさんは次々とモンスターの素材を俺に渡してくる。
「イザベルさん!危機的状況なんですよ!!!」
「分かっている!だからこそそれを使って戦うんだ!」
「ちゃんとした武器じゃないのに勝てるわけないでしょ!」
「それも分かっている!だからこそそれだ!!」
「飛鳥!イザベルさんの指示に従いなさい!」
俺とイザベルさんが別々の敵と戦いながら口論をしていると、杏奈さんもイザベルさんに同調していた。
「……分かったよ!」
そこまで強く言われてしまったら従わざるを得ない。
「------?」
「------!」
俺は襲い掛かってくる男二人相手にモンスターの素材を使って敗北しないように立ち回り続けた。
「ぐはっ!!」
「うっ!!」
そんなことをしている間にも地神教の方々はどんどんと倒され続け、前衛に残っていたのは俺と杏奈さんとあと一人という状況になってしまった。
「イザベルさん!流石にもう無理だよ!!!」
今はまだ二人としか戦っていないためぎりぎりのところで助かっているが、三人以上となるとモンスターの素材を武器代わりにした状態で勝ちきれるとは到底思えない。
「分かった、キサラギ、私の後ろまで下がれ!!」
「え!?」
「早く!!!」
「前衛いなくなるよ!?」
「私とウヅキがどうにかする!!!」
「……分かった!」
ここまでイザベルさんの策に付き合ってしまったんだ。もう最後まで従うしかない。
俺は言われるがままイザベルさんの後ろまで引いた。
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