「なら次は……！！！」

　次に狙うのは侍、ではなく後衛の魔法使いと弓使いを狙う。今までは余裕があったので味方に攻撃が当たらないように比較的控えめに援護をしていたのだが、ブロウが失った今、味方もろとも超火力で吹き飛ばそうと考えてしまう恐れがあるからだ。

　そうなった場合、いくらイザベルさんと弥生の腕が良くても防ぎきれない。

　だから俺は魔法使いと弓使いが居る場所へと突っ込んだ。

『来たわ！他は無視して全力で迎撃するわよ！！』

『そうしましょう。シドーは一人でも頑張ってくれるでしょう。そんなことよりも私たちの命です』

　すると二人は援護射撃を止め、全ての攻撃を俺だけに向けて放ってきた。弓使いは１００本を超える無数の弓を、魔法使いは巨大な氷の弾丸を。

「はっ！！！」

　俺はその攻撃を避けることはせず、拳で薙ぎ払った。

　実体がなく、触れただけで影響が生じるビームは無理だが、弓も氷も実体のあるただの物体だ。ならば圧倒的攻撃力で全て粉砕出来る。

『馬鹿な！防御力は無い筈じゃないの！？』

『圧倒的な攻撃力で攻撃を破壊したんですよ！シルトさん、エネルギー系の魔法を撃ってください！！！』

　弓使いは冷静に状況を判断し、適切な対処法をシルトと呼ばれた魔法使いに指示していたが、魔法使いの方は完全に焦っている様子だった。

『早く！！！』

『わ、わかった』「遅いです」

　魔法使いがようやく指示を聞き、有効な魔法を使おうとしていたが遅かった。俺は魔法の準備が終わる前に魔法使いをぶん殴り、そのままの流れで弓使いも殴った。

　接近戦なんてできないであろう二人は、避けるどころか反応することすら出来ず攻撃を受けて吹き飛ばされていった。

「後は侍だけ！」

　二人の状況は見ていないが、ブロウよりも防御力があるわけの無い二人が戦闘不能になっていないわけがないと判断し、杏奈さんの元へ向かう。

『全員やられたのか……まだ戦っていたかったが残念だ』

　侍は反抗することも逃げることもせず、あっさりと俺の攻撃を受けて吹き飛ばされた。

「よくやったわ。後は麗奈姉たちと戦っている３人だけれど……」

「終わったぞ！」

「そりゃあそうよね。私が善戦できているんだから、倒せない道理はないわね」

　麗奈さんと『師走の先』の人たちも丁度戦闘が終わったらしく、元気に手を振っていた。

「一旦麗奈姉の元に行くわよ」

「そうだね」

「……分かった」

「おう！」

「オッケー」

「いや、あのトレーニングの支援をしたのは私たちだが、まさかあそこまで強くなっているとはな！」

　麗奈さんは強くなった俺たちを見て楽しそうに笑っていた。

「それでもまだ麗奈姉には届かないけれど。一体何レベルなのよ」

「それは言えないな。言ったら絶対に私を超えるまでやるだろう？」

「勿論よ」

「だからだ。まだ私は強い姉でありたいからな！！」

「杏奈さんの体を心配しているわけじゃないんですね……」

「妹に教えたエリクサートレーニングはいくらやろうと問題は無いからな。むしろ健康に良いくらいだから止める理由は無い」

「確かにそうですけど……」

　ダンジョンに潜る回数が増えるから命の危機に瀕する機会が増えるからやめてほしいとかあるでしょ。杏奈さんなら自分の実力は把握しているだろうから大丈夫だけどさ。

「で、無事に今の戦闘を終えた私たちだが、まだ元凶を倒せたわけではない。そこのダークエルフは分かっているようだが——」

　と麗奈さんが話している最中、目の前で爆音が鳴り響いた。

「麗奈さん！？！？」

　そして、爆音と同時に麗奈さんの姿が消え去っていた。

『まさか全滅しているとは思わなかったな』

『強い奴らで固めたとは言っても私たちには遠く及びませんからね。まだこの方々を相手するには早かったということですね』

　声がした方向を見てみると、そこにはやたら豪華な装飾で彩られた剣と盾を持った男と、禍々しい杖を持った女が空に浮いていた。

　恐らくだが、麗奈さんを消し去ったのはこの二人だ。

「何者だ！」

『私たちですか？私はギルド【BRAVED】のギルドマスターのアーサー・フリードリヒ。魔王です』

『そして私が【BRAVED】の副ギルドマスターのイブリース・キング。勇者だ』

「あの中に勇者は居なかったのか……」

　確かに違和感はあった。５人の中に突出して強い人はいなかったし、『師走の先』と戦っていた３人も遠目から見えた限りではこの５人と大差なかった。

　この世界に来て一般スキルを大量に獲得したから強さに差は狭まっていたとしても、こいつが勇者、こいつが魔王だと断言できる位には差が出来てしかるべきだった。

『当然だ。あの程度の実力で勇者や魔王等、片腹痛いわ』

「あれより強い……？」

『無論だ。部下８人を相手にしながら一歩も引かなかった卯月麗奈が一瞬で消失し、死んだ事が何よりの証拠だろうに』

「そんなまさか……！」

　麗奈さんはどこかに転送されたわけでも、視界を奪われていた間に吹き飛ばされたわけでもない……！？

　そんな馬鹿な。麗奈さんは俺並み、いや俺以上に強いのに……

『卯月麗奈が居た場所を見てみるがいい』

「っ……！！」

　麗奈さんが居た場所を改めて見てみると、麗奈さんが着ていたはずの装備が全て落ちていた。

『サービスだ。もっと見せてやろう』

　そして再び爆音が鳴り響いた。すると、今度は師走の先の人たちが消えており、居たはずの場所に装備だけが残されていた。

「お前！！！！！！」

『我々の利益を害する者を消して何が悪い。この世は弱肉強食だ』

「だけど、殺すことは無いだろ！！」

『勇者と魔王がこの世の全てであり、法だからな。だからどこで何をしようが我々の自由だ。同郷の貴様なら理解できるだろう？』

「理解できるわけないだろ！」

『ふん、分からぬとほざくか。ならばやはり死んでもらうほか無いようだな。久々に見込みのある同郷の者が現れたと思ったのだが。残念だ』