「じゃあ『師走の先』のギルド本部に向かいましょうか」
一旦危機は回避できたので強くなるために次のダンジョンに潜るのかと思ったが違うらしい。
「ダンジョンじゃなくてか?」
健太も同じことを考えていたようで、驚いた表情で杏奈さんに聞いていた。
「ええ。私たちを殺しに来たあの男が一日経っても帰ってこないってなると不自然でしょう?相手はあの男の方が強いと思っている上に占い師として私たちの居場所を把握していたのよ」
「確かに……」
俺たちのレベルがモーリス達の想定通りであれば1日どころか半日もかからずに俺たちを倒して戻ってくると思うだろう。それがずっと帰ってこないとなれば不審に思うのは当然かもしれない。
「それに私たちの居場所を常に把握できているのが一人とは限らないわ。もしそうであればモーリスが倒されたことに気づいた『BRAVED』は『ガーディアン』や『魔術師の楽園』を壊滅させた時と同じレベルの戦力を送ってきてもおかしくないわ。そうなると私たち5人ではどうにもならないわ。だから戦力がまだ残っている『師走の先』のところに向かうのよ」
「『師走の先』の人たちが食い止めている間に各個撃破していこうってこと?」
「そうよ、弥生」
「オッケー、頑張ろう!」
「というわけで頼むわよ、健太」
「おう」
俺たちは『BRAVED』を倒すべく今も交戦中であろう『師走の先』の本部に向かうことにした。
「そういや地神教はどうなっているんだ?俺たちの行動が筒抜けだったってことはあいつらがこっちの味方だとバレているだろ?」
その道中、健太がそんなことを言った。言われてみれば俺たちの行動が筒抜けであったのなら地神教がこちら側だとバレていて今後狙われたとしてもおかしくない。
「それに関しては問題ないわ。地神教の本部に居る人たちは最初から全員『師走の先』の本部に避難しているわ」
「そうなんだ」
「地神教は大きいだけで戦力的には頼りないから。狙われる可能性を考慮して最初から避難していたのよ」
「知らなかった……」
「別に言う必要は無いもの。だから今本部に居るのは教祖の相田彰彦さんだけね」
「相田さん残ってるんだ」
「一応宗教の体裁は保っておく必要があるから。突如もぬけの殻になったとなれば世間が不審がるから」
「一人だけだったとしても不審に思う気がするんだけど……」
あんな超巨大な建物に出入りする人が一人しかいないだなんて違和感以外の何物でもないだろう。
「そこを突かれた場合は二つのギルドが何者かから襲撃を受けた事を考慮して本部に来ないように指示していたとか適当な理由でも説明するんじゃないかしら」
「なら問題ないか」
「そういうことよ」
と健太は納得していたが、それで本当に説明になるのかは甚だ疑問である。
まあ信者は事情を全て知っているから地神教的にはそこまで問題は無いか。
「バチバチに戦闘中だね……」
「とりあえずはまだ全滅していないようで良かった」
それから1時間後、俺たちは『師走の先』のギルド本部近くに辿り着いていた。
近くとは言っても戦地から1㎞は離れている筈なのに爆音が聞こえてくるくらい戦闘は激しいようだった。
「一旦車での移動はここまでね。適当なところに駐車してから中までは歩いて行きましょう」
「分かった」
「オッケー」
流石に車で中まで行くと目立ってしまうため、ここからは徒歩での移動となった。
「人が居ないね」
「うん。皆引き籠っているってよりはそもそも家の中に居ないって感じ」
ギルド本部へ向かう道中結構な数の民家があったのだが、そのどれにも人が居るようには見えなかった。
「ここら一帯は『師走の先』関係者がほとんどだから今は避難しているか戦闘中じゃないのかしら」
「いくら日本だけに特化したとは言っても化け物みたいな規模だな。俺が知る限りそんなギルド世界的に見てもねえぞ」
「基本はどこにダンジョンが現れても挑めるように各地に拠点を作るものね。まっとうな感覚が無ければこんなことはしないわ」
「そうなんだ……」
俺がちゃんと訪れたことがあるギルドが『師走の先』だけだったので知らなかったけれど、ここまで異常な広さを持つギルドって『師走の先』だけなんだ。
「その全ては妹の為だなんてお姉さん凄まじい執念だね……」
「そろそろ敵に遭遇する可能性がある。気を引き締めてくれ」
「「「「了解」」」」
と気楽に談笑していたが、イザベルさんの言葉で皆集中し始めた。
ほぼ確実に爆音の中心である敷地内で一番大きな建物に全員が集結しているとは思うのだが、蓮見さんのスキルに関する研究結果を強奪したり金品を探している敵に遭遇しないとは限らないので細心の注意を払って移動する。
「全員集結しているっぽいね」
結局道中で『BRAVED』のギルドメンバーに出くわすことは無いまま戦地に辿り着いた。
「数では勝っている!!その優位は絶対に崩すなよ!!!」
「「「「うおおおおおお!!!!」」」」
戦地では麗奈さん率いる『師走の先』が巨大な建物を守るような形で戦っていた。
『行くわよ。狙いは背後の魔法使い』
杏奈さんが小声で指示したので、何も言わず皆で魔法使いに向かって攻撃を仕掛け始めた。
イザベルさんは弓、弥生は氷の矢を放ち、俺と杏奈さんは二つの攻撃の着弾後にそれぞれ拳と剣での攻撃を出来るように接近した。
『甘いですね。その程度で私が倒せるとでも?』
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