「終わったか」
侑希は炎龍イグニオスの遺体を見て感慨にふける。大きな達成感とこれからの期待を感じているのだ。
「貴様、いや、侑希だったか?」
「ヴァプール」と侑希は話しかけてきた者の名前を呼んだ。
「此度、炎龍を見事倒したことに感謝する」
「例には及ばないさ。龍の尾で酒を作るために倒した。人助けはついでのようなものだ」
「そうか。人間は悪しき者でもないようだ。それにいて、貴様らのような人間は面白い。そう学ばされた。掟も変わる時なのかもしれないな」
「こんな大したことのない人間に学ぶことはないと思う。それよりも」
エルバの方を、侑希はチラリと見る。視線を向けられた草の妖精は顔を真っ赤に染め、下を向いた。
「龍のところまで、連れて行ってくれただけじゃなく、倒すためのキーパーソンになってくれたエルバに感謝したい」
侑希は頬を赤く染めるエルバに近寄る。立膝になり、しっかりと彼女の顔を見つめた。
「ありがとう。君のおかげで俺たちの夢も果たせたし、湖の危機も救えた。本当に、見違えるほどに強くなったよ」
優しい口調で、侑希はエルバは声をかける。
「うん」とエルバは声が小さいも返事をする。しっかりと侑希の微笑む表情を、彼の穏やかな瞳を覗きこむように顔を上げた。
「侑希君!龍の尻尾を持ち帰らないの?」
「待ってくれ。今行く」
舞の一言を聞き、侑希はスッと立ち上がる。龍の死体の周りにいる舞とアリサのところへと向かおうと妖精に背を向ける。
「待て」
突き刺すような声でヴァプールは侑希の歩みを止めた。両足を石のようにして、歩みを止める。背筋を伸ばし、振り向く。
「本来、妖精の森のものは死体であろうと我ら妖精の所有物というのが掟だ。しかし、龍を倒し、妖精の森を救った貴様らであれば、龍の死体を持ち帰っても良い。他の妖精も許してくれよう。さぁ、戦利品を持ち、胸を張って貴様らの住まう場所へ帰るが良い」
「ありがとうございます」
両足を揃え、侑希はしっかりと深々とお辞儀をする。「まだなの?」と舞に急かされたので、「今度こそ行く」と返事をして、巨大な龍を運搬する準備をしている舞たちのところへ向かって行った。
「エルバ。人間は面白くも頼もしい存在だな」
「はい!ヴァプール様。人間は素晴らしく、私たちと一緒に共存できる存在だと思います」
胸を張って、エルバはヴァプールに想いを伝えた。そんな彼女たちの視界には、和気あいあいと龍を運搬する準備をする3人の姿があった。水晶に言葉を吹きかけ、どこかへ飛ばすアリサ。各パーツにドラゴンの亡骸を分解するのは、侑希と舞だ。
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