チート勇者候補達は酒場にて

魔王を倒す使命を無視したチート能力者たちは女神からもらった大金で酒場を中心としたスローライフを満喫しています
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第5話 炎龍イグニオス(龍酒に関するバーテンダーのお話)

公開日時: 2021年1月29日(金) 21:00
文字数:2,863

「……あぁ。冒険者の中で噂になっているわね」


 思い出したかのように、舞は相づちを打つ。話についていけない侑希だけが渋い顔で女性2人の会話を聞いていた。


「イグニオス?そんな龍が近くにいるんだな」


「院では話題にならないんだ?」


「舞さん。魔法学校は街に一つある。その中で、最もランクの高い学校となれば、一般的な社会を知らない貴族の子息が多い。だから、そんな龍が出た出ないの情報を学院生は知ってないし、俺の耳にも入ってこない」


「そうなんだ」と舞はケニヒ・ボルーヌを一口飲む。


「まぁ、つまりはイグニオスを倒せば良いわけだ」


 会話の中でさらりと龍を倒せると豪語した侑希。舞はステーキを口にした後、侑希の方を振り向いた。


「でも、単純なことじゃないわよ?ベテランの冒険者ですら最近、精霊の森に入りたがらないみたいね」


「それほど強いわけか。でも、女神から貰った特典やらをうまく使えば難しくない」


 舞が懸念を示すが、侑希はチート能力で勝てると踏んだらしい。


「そもそも、勇者として呼ばれたはずだ。勝てるはず。違うかな?」


 侑希は真顔で語ると、舞はブワッも笑い出した。よほどツボにハマったらしく、一時は肩を震わせ、机に突っ伏した。


「まさか。そこで力を誇示するなんて」


 舞の笑いが止まらない。そんな彼女に、侑希は照れ笑いを浮かべ、ケニヒ・ボヌールを味わいつつも、飲み干した。


「もらった力は有効活用しないと。与えられたモノを正しく使わないともったいない」


「冷静なのに、アクティブね」


「よく言われるよ」


 淡々とリアクションをしつつも、侑希もグラスの中のお酒を飲む。


「アリサ。エールを頼めるかな?」


「元の世界でいうビールですか。もちろん。お出ししますよ」


 アリサはジョッキを持ち、大きなタルに備え付けられた蛇口をひねる。黒いエールが出てくる。最初はジョッキを斜めに倒し、泡が出ないように注ぐ。4分の3以上注ぐことができたら、今度はジョッキを立てる。泡が立ち、絵に描いたような程よい泡と飲料の比率で構成されたエールが完成する。大体、10対1だろうか。


「お待たせしました」


 侑希の席の上にエールが置かれる。早速、彼は取手を掴み、持ち上げる。そして、勢いよく飲んだ。再び、カウンターの上にジョッキを置くと、エールは半分に減っていた。


「さてと、明後日の休日は龍を倒しに行くか」


「何言ってるのよ?」


 話は関連しているが、飛躍している。完全に、侑希は酔っているようだ。淡白ではあるが、ツッコミを入れた。


「飲みたいでしょ?肉と最高に合うお酒」


「そうだけど……」


「動かないと。何もしないならゼロだけど、何かすればイチは得られるはずだ。それはアンタも分かっているでしょ?」


「そうね。まさか、年下の侑希君に説教されるなんて」


 クスクスと舞は笑う。目には少しながら涙が溜まっている。


「良いわ。明後日、武器を持ってきて討伐しにいきましょう。難敵・ドラゴンを」


「決まりだな。明後日、このお店の前に集合しよう」


 侑希は手を叩く。これで話が終わった、かと思えば、そうではない。


「アリサもどうかな?冒険してみないか?」


 真剣な表情で、侑希はアリサに話しかける。グラスを洗っていたアリサは驚きのあまり、動かした手を止める。彼女は侑希の赤く火照った顔を、目を丸にして凝視する。


「わ、私ですか?」


「そう。せっかくだから、誘ってみようかな、って思ってさ」


「し、しかし……。仕事が……」


 口説く侑希。まさに、ナンパの要領で冒険の仲間を増やしていく。今宵の彼はからみ酒だ。


 困惑した様子で、アリサはグラスをふき取る。このまま、侑希がさらにプッシュしても、誰かが止めてくれる。そんな算段が、彼女にはあった。


「アリサ、明後日は特別休暇だ。店は俺一人で十分だよ」


「えっ?お義父さん?」


「アリサにとって、久しぶりの冒険になるな。楽しんでこい」


 アリサの義父は義娘の方を向き、サムズアップする。心なしか、彼の白い歯が輝いている。


「嘘でしょ」とアリサはつぶやき、苦笑いするが、「まぁ、久しぶりなら」と言葉を発する。満更ではないようだ。


「さて……」


 一本の透明なボトルを棚から取り出す。ボトルを開け、150ミリリットルほどまで注げるグラスに8分目まで注ぐ。その数は2杯。


「景気づけだ。熱モイ酒『ダイキンセイ』だ」


 トン、とカウンターの上にいっぱいのお酒を置いた。


「いただきます」


 早速、舞はお酒を口にする。


「アリサ。これは、元の世界では何のお酒なんだ?」


「焼酎ですね」


 隣で舞が艶のある声を発しながら、悶絶する。その光景を見た侑希はちびちびとダイキンセイを飲んだ。


「確かに、香りはいいし、この喉に来る感触は焼酎だ」と侑希は感想を言えば、「大丈夫?」と舞を心配した。


「だ、大丈夫……」


 むせながらも、なんとか舞は自分の無事であることを伝えた。


「焼酎だから、一気に飲むものではない」


「お客様のような飲み方をされるのは、初めてですよ?」


「はい?」


 侑希は知っている知識をひけらかすと、アリサの義父が横槍を入れる。カルチャーショックを受け、目を丸にしている。


「普段、冒険者は一気飲みしておりまして……」


「ここの人たちって、相当お酒が強いんだな」


 腕を組み、侑希は感心したように相づちを打つ。余裕そうにしているが、額には冷や汗。


「でも、景気付けになったわね」


「強いお酒だから、目も覚める」


 互いに、侑希と舞は赤く染まった顔を見つめ合う。先に根負けしたのは舞。そのまま、下を向いてしまった。


「俺にそんな意識はないよ?」


「失礼ね。そういう意味じゃないのよ!」


 内心、舞は侑希を殴ろうとした。その前に、持っていた空のグラスを強くおき、怒りを別のところに発散させた。


「すまなかった。そういう意味じゃないんだ。アンタにだって魅力はある」


 すかさず、侑希はフォローを入れる。結論から言えば、舞に対して効果的面だ。


「本当に?例えば?」


 侑希の発言を、舞は深く掘り下げようとする。彼女の目はキラキラと輝いている。


「チャレンジ精神旺盛で社交的。しかも、臨機応援に対応できるところ、そして……」


「そして?続きは?侑希君?」


 舞のもう一つの長所を探そうと、侑希はジロジロと彼女の体を見る。少しすると、たわわに実った胸に視線が入った。


「プロポーション……。かな?」


 この侑希の発言。場が凍りついた。言われた本人である舞は侑希を睨みつける。時さえ凍りついているのではないかと思えるほど、彼女は黙ったまま何もしない。


「まずったか」と誰にも聞こえない声をつぶやく。表情も青ざめており、口をぎゅっと結んでいる。


「良いね!褒めるの上手ね!」


 明快な声で、舞は侑希を褒め称える。場の雰囲気は一転。一瞬で和やかなものになった。


「良かったぁ」とほっと胸をなでおろす。ニヤリと白い歯を見せながら、残りのエールを飲み切る。


「この3人で冒険かぁ。楽しみだな」


 侑希は舞とアリサに視線を行ったり来たりさせる。彼は明後日に冒険に出る仲間の顔を酒の肴にしようと、もう1杯エールを注文。サーブされると、明後日の冒険を心待ちにしながら飲んだ。

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