サンはそういうと、ニッコリ笑って赤黒い雹の中で、傘も差さずに一人ヒルズタウンの方へと歩き出してしまった。
更に、こちらに手を振りこう言うのだ。
「あ! そういえば、モート君によろしくと伝えて下さい。あなたなら、何とかなるんじゃないのかな?」
ヘレンはフラついて傘を手から、落としてしまうほどに混乱してしまった。
「何故? そんなことを私に言うのですか?」
「知ってますよ。あのモート君とはお知り合いなのでしょう。ヘレンさん。さて、近々ノブレス・オブリージュ美術館とは盛大にご厄介になりそうですよ。その時は、どうかできるだけの歓迎をして下さいね。それでは……また……」
ヘレンは真顔で首を傾げたが。
少ししてから、ヘレンはこう考えることにした。サンは、命の大切さは、とうに全て捨てているものの発言をしているのだと。
だが、ヘレンは呆れることをせずに、代わりにとてつもない恐怖を感じた。
人間が、こうも容易く貴重な生命を自ら手放すものだろうか?
サンの姿がロマネスク様式の建造物の間で、完全に見えなくなってきたころには、赤黒い雹は、更に猛烈に降りだしてきていた。
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