変死体サン・ジルドレという人物の不吉な名前が、ヘレンの頭に浮かび上がった。サンは、何年も前にノブレス・オブリージュ美術館のVIPクラスにいた人物で、それからしばらくして、サン自身の屋敷内で不可解な変死体で発見されたという報道がされている。
「確か……あなたは……(書斎で変死体で発見されて、警察ではホワイトシティで今世紀最大の迷宮入り事件とされていたのでは? なんでも、新聞では死因がとある血の飲み過ぎと書かれていたわね)」
「そうですよ! 私は一度、変死体という形となってこの世から抹殺されていまして。それでも、ここにこうしているのにはわけがあります」
赤黒い雹が一際激しくなった。
ヘレンは震えながら、大き目の傘の柄を両手で掴んだ。
「わけ? というのは?」
「ふっふっふっ……意図的なんですよ。いや、儀式的産物なんですよ」
「あの。もったいぶらないでくださいませんか?」
「はっはっはっ」
その時、轟音と共に大きな落雷が近くのブルータル建築の住宅地へと落ちていった。
サンの笑い顔の横面が、一瞬白く映えた。
「時にリッチーというものを、存在をご存知ですか? ヘレンさん? 死の王。この世の生あるものの絶大なる敵対者。そう死の天敵ですよ」
「リッチー? って、え? 一体何の話をしているのでしょう?」
「……私は儀式によって、この身体を得たのです。私自身の血と肉と命を捨ててまでね。そう……死の王として君臨するためにね。私はもはやこの世界の死でもあるんです」
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