アンリー・サルギスは、ノブレス・オブリージュ美術館まで命からがら走っていた。呼吸がとても苦しかったが、アンリーは内心これでもう安心だと思いたかった。
何故なら。あの、喉から手が出るほど欲しかった一枚の絵画から本当に死神がでてきたのだと思ったからだ。
ドタドタと大きな足音を鳴らして、後ろから銃を持った非常にガラの悪い男たちが追ってきても、アンリーは息を切らせて全速力でノブレス・オブリージュ美術館へと一直線に突っ走た。突然、アンリーの通った歩道にさっきの銀髪の男が現れた。
「な、なんだてめえはー!」
「ひっこんで……うげっ!」
「ひっ!!」
ザンッ!
鈍い音と共に、ガラの悪い男たちの首が次々とあらぬ方向へ飛んでいく。
シンシンと雪の降る街は通行人の悲鳴や、辺りに飛び散る血液で溢れ返った。ガラの悪い男たちは狂気の目で目標を変えざるを得ず。銀髪の男を囲んで各々の銃を向ける。だが、銀髪の男が銀の大鎌を構えて男たちに飛び込むと、首と胴体が繋がっているものは一人もいなくなった。
アンリー・サルギスは、ガラの悪い男たちの血液で赤くなった雪の積もる歩道で、何度も足を滑らせては転んだ。突然、激しい銃声が後ろからした。そして、銃弾は、近くの店のショーウインドーをバラバラに砕いた。振り向くと、銀髪の男が狩り損ねた一人の男がトンプソンマシンガンを撃っていたのだ。
歩道の脇の電信柱で新聞を読んでいた一人の金髪の男がアンリー・サルギスの傍へ寄って来た。その男が、アンリーの傍に微笑みながら寄ると。すると、不思議とけたたましいトンプソンマシンガンの発砲音はするのに、アンリー・サルギスには一発も弾が当たらなくなった。
「もう大丈夫ですよ。探しましたよ。あなたがアンリー・サルギスさんですね。決して銃弾はあなたには当たりません。あ、これは失礼しました。私はオーゼム・バーマインタムという者です。それと、ノブレス・オブリージュ美術館でヘレンさんがお待ちですよ」
礼儀正しいその男は、何故か神々しい雰囲気を醸し出している。さっきの銀髪の男は後ろで、こちらに手を振っていた。
掠ることすらもない嵐のような銃弾が飛ぶ中。真っ白な雪の積もる歩道をしばらく駆けていると、アンリー・サルギスの目の前にやっとノブレス・オブリージュ美術館の正門が見えてきた。
雪を被った正門には、さっき会ったヘレンという人が厚着をして待っていた。
「アンリーさん。早くこの建物の中へ。そして、ようこそノブレス・オブリージュ美術館へ」
そこで、ヘレンという人は白い息を吐いてウインクをした。
「正式に私が招待したということにして、あなたが欲しがっていた絵画のあるサロンへ行きましょうね。もう館内は自由に出入りしてもいいわ。後、あなたにどうしても聞きたいことがあるのよ。さあ、詳しいお話はさっきのサロンでね」
「モートもくるの?」
「ええ。あの人もくるわよ」
「ラッキー! そこで、モートにおばあちゃんから聞いたこと全部話すわ」
「ふう……これで少しはジョンが何をしようとしているのかがわかるかもしれないわね」
ヘレンという人に案内されて、アンリーは館内へ入ると、さっきまでいたサロンへと向かう。
館内は外の吹雪とは違い。とても暖かかった。
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