夜を狩るもの 終末のディストピアⅡ meaning hidden

人類の終焉に死神が人類側に味方した物語
主道 学
主道 学

03

公開日時: 2023年7月6日(木) 20:47
文字数:686

  アリスは底知れぬ不安からオーゼムに少し詰問気味に言ってしまった。

 オーゼムは気にする風もなく。オールバックを整えながら、このサロンの壁画などを見回しながら。


「今のところまだわかりません……恐らくは……あ! この女性の絵だけ他の絵よりも高価そうですね!」


 アリスの肩にモートが優しく手を置いて抑揚のない声で言った。


「アリス。何も心配しなくていいだよ」

「……ええ、わかりました。ちょっとわからないところが多すぎますけど。モートがそう言ってくれるなら……」

 

 オーゼムはアリスに向かって真顔で急にしんみりと言いだした。

 パチリっとこのサロンの暖炉が弾けた。


「これは聖痕現象ですよ。新約聖書のガラテヤの手紙で聖パウロが聖痕をイエスの焼印と言われています。恐らくこれから何か大きなことが起きる前触れでしょうね。モート君。今日は失礼して私はもう帰ります。いやはや、かなり疲れましたねえ」

「ああ。ぼくは今夜は狩りをしてくるよ」

「そういえば、アリスさん。ここまでモート君があなたを運んでくれたのですよ。死人を狩り終えてから早々にあなたを探してね。聖パッセンジャービジョン大学中をくまなく探してから。あなたは石階段の傍のベンチで横になっているのを発見しました。ご友人のシンクレアさんが介抱してくれていたんだそうです」 


 それを聞いてアリスはサロンの暖かさも相まって頬と目頭が熱くなった。


「本当にありがとう。モート。もうなんともないです。私も今日は帰りますね」

「それは良かったよアリス……お休み」

 モートは抑揚のない声で言うと。

「これから忙しくなるな……」

 暖房の行き届いたサロンで、モートは独り言を呟いていた。


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