夜を狩るもの 終末のディストピアⅡ meaning hidden

人類の終焉に死神が人類側に味方した物語
主道 学
主道 学

blood (出血)

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公開日時: 2023年7月19日(水) 22:21
文字数:1,619

  モートの今朝は、アリスが来る時間までノブレス・オブリージュ美術館の正門を押しつぶしてしまうかのような大雪を取り除くことから始まった。深夜からここホワイトシティでも記録的な雪が降り続けたせいだ。正門の前を行き交う通行人は、皆、モートに挨拶をしていた。


「やあ、モート君。今朝もよく働くね」

「ああ……いってらっしゃい」


 いつも挨拶をする通勤途中の配管工にモートは、軽く手を振った。配管工は今夜も記録的な大雪が降るのではとも言っていた。そんないつもの日常がモートには嬉しかった。モートはせっせと青銅の正門の隙間を埋めてしまった氷をスコップで丹念に削ったりしていた。ノブレス・オブリージュ美術館の使用人たちは、ヘレンが率先して広い館内の大掃除であった。

 道路はすでに雪が固まっていて、交通が滞っていた。エンストを起こす車が目立っている。


 午前9時過ぎになると路面バスが停まり。アリスが反対側の道路から歩いて来た。珍しくオーゼムと一緒だった。


「モートくん。アリスさんについた聖痕現象の意味がわかりましたよ。聖痕と血の雨との関係はまだよくわかりませんが……」

「オーゼム……? それは本当かい?」

「ええ、はい。恐らくは聖痕がついた人たちは全部で七人いるはずなんです。何故かと言うと、今まで助けた少女たちの名前がエペソとスミルナという変わった名前だったからです。これはヨハネの黙示録の七つの教会へのメッセージです」

「???」

 モートは首をかしげたが、アリスは深々と白い息を吐いて少しだけ頷いた。どうやら、アリスはヨハネの黙示録を知っているようだった。だが、モートは知らなかった。

 行き交う人々も吐く息は白い。

 空からシンシンと降る雪と共に風も出てきた。


「恐らく、後はペルガモとテアテラ。サルギス。フィラデルフィア。ラオデルキヤという名前をしているでしょうね。いずれにしても、終末で起こる前触れなんでしょうね」

「オーゼム? それと……どうしてアリスに……聖痕が?」


 モートは考えようとした。

 だが、突然。

 空から真っ赤な雨が降りだした。


「多分ですが……七人の人物たちは何かを封印しているのでしょうね。全員が少女の可能性もあります。さあ、モートくん出番ですよ。行ってください! その七人を守るのです!!」

「ああ……わかった」

 モートは激しく降りだした血の雨の中で、シルバー・ハイネスト・ポールへと走った。

 美術館から数十ブロックもモートは様々なものを通り過ぎる。シルバー・ハイネスト・ポールは石造りのホワイトシティでもっとも高い塔で、おおよそ400年前にホワイト・シティの統治者が建立した歴史的な建造物の一つだ。今では大勢の観光客が年に二回は訪れる場所だった。猛スピードで辿り着いたモートは、立ち入り禁止の扉を通り抜け、石階段を頂上まで行くと赤い魂を探した。

 シルバー・ハイネスト・ポールの頂上からは、血の雨が降り注ぐホワイトシティの真っ赤な全容が見え。モートが目を凝らすと、その中で赤い魂は幾つも見えるが、またしてもウエストタウンに小さい。だが、非常に激しく光る赤い魂が一つあった。


「また、ウエストタウンかきっと、あそこだ!」


 モートはここから遥か西にあるウエストタウンへと飛翔した。

 銀髪とロングコートから赤い水滴を零しながら宙を飛翔していると、しばらくすると、ウエストタウンの真っ赤に染まった林立する建造物が見えてきた。すでに真っ白な雪の姿は無い。道路へとモートが着地する頃には、真っ赤に染まった行き交う人々は皆、肌の苦痛を訴えていた。

 モートは何も感じないが、どうやら、血の雨は人間には有害なのだろう。血の流れる道端で、せっせと水掻きをしていた老人が苦痛に顔を歪めて急に倒れだした。


「だ、大丈夫か?」


 モートが駆け寄ると、老人は急にのろりと立ち上がった。具合が悪いのだろうとモートが肩に手を置いた。だが、何故か老人は何が可笑しいのかカラカラと笑いだした。

 

 老人がモートの方へと振り向くと……。


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