「モート……アーネストが……ああ、アーネストが……」
うわごとのようにそう言い続けるヘレンは、絶えず涙を流してばかりだった。地の底から聞こえてくるかのような、呻き声や複数の引き摺るような足音からすると、この館内には、未だゾンビがうじゃうじゃと徘徊しているのだろう。
「ヘレン? 一体、どうしたんだい?」
「ああ、なんてことなの……アーネストが……アーネストが……死んでしまったの」
「なんだって?」
「でも、生きてもいるわ。きっと、私が来るのが、遅かったのが悪かったんだわ。アーネストは、私が来た時にはすでに、そこらを徘徊するゾンビの一人になってしまってたのよ」
「……ヘレン。早くここから逃げるんだ。ぼくは最後の聖痕の少女を探しに行かないといけない。それと、レメゲドンも探すよ。オーゼムが言うには、レメゲドンにはゾンビを蘇生させる魔術もあると言っているから……」
ヘレンは無言になった。それから、しばらくすると力強く涙を拭き出してから顔を上げた。
「……モート。希望はあるってことね」
「ああ」
ふと、モートはこの館内を徘徊するゾンビたちが、今までと少し違うことに気が付いた。普段の墓地や住民がゾンビアポカリプスによって、歩き出したゾンビではなく……。
と、その時。
とてつもない巨大な馬が、この館内の大階段から現れた。不思議な事に巨大な馬は大階段の壁にぶつかっているのだが、階段の壁などを擦れることも壊すこともなかった。
モートは自然に銀の大鎌を握り直した。
だが、馬に乗った黄色い騎士は、モートたちに優しい声を投げる。
「そこの黒い服の男よ。そう身構えないでほしい。もう、始まったんだよ。その時が。今やこの世界は悪霊に満ち溢れ、やがて草木も海や川も不死となるだろう。全ては生命はもう終わったんだよ」
「……いや、まだだよ」
「???」
「君に危険はないようだね。ぼくは行かないといけない」
モートはそう言い残すと、素早くガラス窓へ向かって飛び込んだ。
ヘレンは黄色い騎士に、ただ、恐怖して震えている。そんなヘレンに黄色い騎士は、また優しく言った。
「さあ、こっちへ。この大階段を降りていけば、無事に帰れるから。だけど、気を付けるんだよ。今じゃ、世界そのものが生命にとっては非常に危険なのだから」
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