夜を狩るもの 終末のディストピアⅡ meaning hidden

人類の終焉に死神が人類側に味方した物語
主道 学
主道 学

Sweat (汗)

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公開日時: 2023年8月25日(金) 04:52
文字数:1,513

  アリスの今日は、珍しく陽の光が差し晴れたホワイトシティで、シンクレアとクリフタウンの有名洋服店「グレード・キャリオン」に少し寄ってから、聖パッセンジャー・ビジョン大学付属古代図書館へ勉強をしに行くことになっていた。何故なら単位認定試験の日が差し迫っていたからだ。


 だが、アリスにとっては、シンクレアには悪いが単位認定試験もグレード・キャリオンの洋服もそっちのけで自分に浮き出た聖痕のことを調べたい気持ちだった。


 アリスは極力見えない焦燥感が募るが、シンクレアの手前なので普通に楽しくしていこうと決め。シンクレアと路面バスでセントラル駅へと向かった。駅からクリフタウンへと向かうのだ。


 激しい雑踏の中の改札口で、ちょっとしたアクシデントがあった。

 アリスは袖の長いカジュアル服を着ていたのだが、一人の少女にぶつかり袖が引っ張られ、聖痕が周囲の人に見られてしまったのだ。周囲の人の中で一人。こちらを鋭い目で見る男がいた。異様な男で顔が真っ白で肌の色も灰色に近い。その男は、すぐに人混みに紛れてしまった。 


「あら?」

「ぶつかって、ごめんなさい。あれ!? お姉さんのその傷……私と同じなのね……」

「あ……ねえ!」


 ぶつかった少女は何か急いでいるのだろう速足で混雑している改札口を抜けてしまった。今の時間はラッシュアワーではないが、乗客は多い方だった。

 

 アリスは少女を見失ってしまった。


「ねえ、アリス。その傷は……? 何かあったらモートにちゃんといわないとダメよ」


 シンクレアがショルダーバックを開け、綺麗な刺繍のしてあるハンカチを取り出した。それをアリスの右手首に巻いていく。


 アリスはシンクレアの気遣いに嬉しくなると同時にぶつかった少女を探したかった。

 雑踏が激しくなって来た。時刻12時45分を指した頃にセントラル駅がラッシュアワーとなった。


 アリスは混雑した人混みの中でポニーテイルの金髪の少女を探した。背丈はアリスよりは少し低い方だ。


 アリスはセントラル駅でクリフタウン行きの切符を買ってから、改札口でシンクレアに「グレード・キャリオン」には行けないけど聖パッセンジャー・ビジョン大学付属古代図書館には行くからと告げ頭を下げて、ぶつかった少女を探していた。


 しばらくすると少女は見つかった。白線の内側に一人ポツんと立っていた。アリスが少女に行き交う人々を避けて近づくと、ヒルズタウン行きのローカル線が来てしまった。


 少女が乗車したので、アリスも急いで乗った。


「ちょっと待ってーーー! アリス!!」

 

 ローカル線の中にシンクレアが駆け込み乗車をしてきた。車内で周囲の人の心配そうな視線が即座に向いた。だが、その中で一人だけ真っ白な顔の男は訝しむ目をしていた。

 

「さっき、この駅にモートがいたの」

 シンクレアは荒い息を整えながらアリスに言った。


「そしたら、ここは危険だからアリスの傍にいてくれって……狩りの時間だって」 

「あら。そうなの……私は今、さっきぶつかった少女を探しているの」


 ガタンッと、ローカル線が発進した。


「ええ、そんなことはわかるわよ。この駅の車掌に兄のケビンがいるから聞いたのよ。きっと、その少女はヒルズタウンの観光名所に行こうとしているんじゃないかって」

「うん。それなら、きっと景色が良い窓際にいるわね」


 アリスはシンクレアの話から推理した。

 観光目当てなら景色を見るはずだし、それならば窓際にいるはずだ。 


「あら?」


 一人だけ真っ白な顔の男がアリスへと音もなく近づいてくる。不思議な事にその男の周りだけこのすし詰め状態の中で乗客がいなかった。いや、円を描くようにその男の周りに人が入れない空間があるのだ。と、突然。


 黒き巨大な馬がローカル線の床を突き抜けて現れた。


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