モートはアリスとオーゼムが帰った後に、狩りの前にこの広大なサロンの片隅の質素な椅子に座り。一人でこれらの事象を少し考えることにした。
聖パッセンジャービジョン大学でモートは聖痕現象に関しての本を読んだ。それにはただイエス・キリストが磔刑《たつけい》となった時の傷が身体に浮き出る現象。または、科学的には原因不明の現象で似たような傷が身体に浮き出ると書かれてあるだけだった。
一番この事象に詳しそうなはずのオーゼムは、残念ながら上層部に聞かないとわからないと言っていた。
モートは血の雨は何故降るのかよりも、アリスに浮き出た聖痕現象のことを優先的に考えたかった。
ただ血の雨が止んだのは、ウエストタウンの地下で少女を守るため悪漢を三人狩った日のことだ。同じウエストタウンにいるその背後にいたリーダー的存在がゾンビだったのだ。つまりはアンデッドだ。モートがその人物を狩ると途端に血の雨は止んだ。血の雨と聖痕と少女。そして、アリス。それらは一体何を意味しているのだろうか?
考えてもさっぱりわからない。
モートは諦めて狩りに行った。
ここノブレス・オブリージュ美術館の屋上に立つと、真夜中の空は晴れているようで、ありありとした白い月が浮かんでいた。
モートは人の魂の色が見える。モート自身体験的に分かったことだった。赤が危険。青が普通。黄色は喜び。黒が罪。白は善意だった。
ここホワイトシティは、昼間は平和だが夜になるとその風貌が一変する。麻薬、殺人、強盗などのありとあらゆる犯罪が遠い国から流れてきていた。
だから、モートは黒い魂が関与している時には、狩るということをしていた。
「モート……。アリスさんとオーゼムさんはもう帰ったようね。今日は気をつけなさい。なんだか嫌な感じがするのよ」
モートはここノブレス・オブリージュ美術館のオーナーのヘレンの方を見た。ヘレンはモートの良き理解者でもあった。丁度、モートの後ろにあるサロンからの屋上へ通じる両開き窓からこちらを心配そうに覗いている。
「嫌な……感じ……? ヘレン? どうしたんだい?」
「モート。きっと、今日は……とにかく気をつけて行ってきなさい」
「わかった」
モートは屋上から飛翔した。
霜の降りたノブレス・オブリージュ美術館の近辺にあるちょっとお洒落な喫茶店「ポット・カフェ」を見下ろし、銀世界の三角屋根やロマネスク調やゴシック様式の建造物をモートは幾つも飛び跳ねながら黒い魂を探していた。
しばらくして、ここホワイトシティで唯一のダンスフロアがあるパラバラムクラブが見えてきた。モートはウエストタウンに再び到着していた。何故かここには黒い魂が集まるようだ。
夜の凍てつく空気に包まれたホワイトシティは、深夜から早朝にかけて、たまにダイヤモンドダストが街を襲う時があった。
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