夜を狩るもの 終末のディストピアⅡ meaning hidden

人類の終焉に死神が人類側に味方した物語
主道 学
主道 学

Spear of Longinus (ロンギヌスの槍) アリス編

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公開日時: 2024年1月29日(月) 19:52
文字数:963

  シンシンと静かに降り積もる雪の日だった。アリスは、聖パッセンジャー・ビジョン大学付属古代図書館の一階で、様々な本に囲まれながらシンクレアと単位認定試験の勉強をしていた。試験まで後、二日しかないという現実がアリスの頭を悩ましていた。


 無音とまではいかないが、静寂の図書館には、同じ聖パッセンジャー・ビジョン大学の学生もちらほらと見える。アリスは皆、同じなのだろうと思うと、少し滑稽な気持ちになって来た。


 広いテーブルに座るアリスは、無造作に本の山を作っていた。調べることが多すぎるのだ。その本の山の上に、同じ大学にいるシンクレアの兄の一人ロイが、笑いながら、もう一冊を置いていった。


「アリス。これ読んでみろよ。面白いぜ」

「まあ! ロイ! あっち行って!」

 

 アリスの隣で、勉強をしているシンクレアが激昂した。

 アリスはシンクレアも単位認定試験への調べものの多さに、ストレスが溜まっているのだろうと思えた。


「……ロイさん。今は見て分かる通り。私も勉強中なのですよ」


 ロイをシンクレアがシッシっと手で追いやると、アリスは静かに本の山とノートの世界へと再び入っていった。


 パチリっと暖炉の薪が弾ける音で、アリスは気がついた。ポーン、ポーン。っと、本棚の隙間に設置された柱時計も鳴り渡り。19時を指している。シンクレアの方を向くと、隣で同じように夢中で勉強をしていた。


「あら! もうこんな時間?! ねえ、シンクレア! 夜よ!」


 シンクレアが顔を上げた。アリスはその時、ここ聖パッセンジャー・ビジョン大学付属古代図書館には、他の人たちがいないことに焦り出した。皆、帰ったのだろう。本来ならアーネストが様子を見るはずなのに、そのアーネストが来なかったせいで、この有様だ。ホワイトシティの夜は危険で、寒さが尋常ではなかった。当然、命の危険もある。


 窓の外は、漆黒が覆いつくしガタガタと木枠を激しく鳴らす強風が吹いている。

 バタン!

 バタンッ!

 

 唐突に、図書館の正門のドアが開いたような大きな音がしていた。その次はドタドタと大勢の靴音がしてきた。アリスに緊急を要する危機感が芽生えてきた。シンクレアは自分の本やノートを片付けながら、こちらに目配せしている。アリスも自分の本などを素早く片付けた。


「モート……」


 アリスは本をバックに入れながら、とてもか細い声でいつの間にか呟いた。


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