夜を狩るもの 終末のディストピアⅡ meaning hidden

人類の終焉に死神が人類側に味方した物語
主道 学
主道 学

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公開日時: 2024年2月28日(水) 07:21
更新日時: 2024年8月7日(水) 15:20
文字数:1,688

 次々とゾンビの首が飛び。

 汚れた血が辺りに凄惨に舞った。


 と、その時。


「モート! そのゾンビはもう死んでるけど殺しちゃダメよ!!」


 モートが振り向くと、平屋建ての小窓からシンクレアが怯えた顔を出していた。どうやら、この平屋建てがシンクレアの家らしい。初めてそのことを知ったモートは、きっと、この平屋建ての中には、今もシンクレアの姉弟がたくさん住んでいるのだろうと考えた。勿論、ミリーもいるはずだ。その証拠にミリーが姿を現した。


「向かいの優しいお爺さんだったの!! 部下にもそう命令しているの!! きっと、今はひどい状態だけど、この現象が治ると元に戻るんだわ。きっと、そう。そうよねモート」


 シンクレアの顔は血の気が引いているが、その更に年下のミリーは裏の組織を牛耳っているだけあって、忽然としていた。


「……わかった」


 モートは、ゾンビ化しているので、誰が誰だかわからなかった。なので、お爺さんの服装や身長をしているゾンビだけを狩ることを止めた。

 

「ああ! モート! ゾンビだからわからないのよね! 私の部下には向いのお爺さんはわかるから、そのゾンビだけ残して、どうでもいいゾンビじいさんは撃たせているわ! だから、モートは他を退治して!」


 黒いスーツの男たちのトンプソンマシンガンの弾丸は、当然モートの身体を貫通していく。弾が体内を通っていってもモートは平然として、ゾンビを狩ることに専念した。


 やがて、一体のゾンビだけ残して、汚れた血と肉塊だけが残った。


 未だ空から赤黒い雹が地面へ降り続け、幾本もの落雷がホワイトシティの至る所へと落ちていった。空も地も血の臭いを乗せた赤黒い風が舞っている。


「ああ、あなたはモートよね! 幻なんかじゃないわよね! それなら本当に良かったわ! 突然、赤黒い雹が降って、アリスの無事も確認できぬまま。もうこのままだと、私たち駄目かと思っちゃってたのよ。死んだら、そこらのゾンビと一緒に、イーストタウンをアリスと一緒に買った服がボロボロになるまで、さんざ歩き回るんじゃないかと思ってたわ」


 平屋建てのベランダまで、もう安全だと思ったのか、シンクレアが飛び出してきた。


「ねえ、モート……アリスは無事? 無事よね? そうよね!」

「ああ……」


 モートは少し、元気そうなシンクレアを見ていると嬉しくなった。


「シット! 姉さん! 静かにして……まだゾンビがスラム街から歩いてくる音よ」


 さすがにミリーは、ベランダへ出ても辺りを警戒して、聞き耳を立てていた。


「シンクレアとミリー……。 早くノブレス・オブリージュ美術館へ行ってくれ! その人達も連れていっていいと思うから。ヘレンには後で言っておくよ」


 モートはこちらをトンプソンマシンガンを構えて、慎重に伺っていた真っ黒なサングラスをしている黒いスーツの男たちに、コクリと頷いてやった。


「では、ミリーお嬢様。ノブレス・オブリージュ美術館まで行きましょうか」


 黒いスーツの男の一人が言うと、他の男たちもぞろぞろと、一人。また一人と、平屋建てへ戻り出した。


 その時。突然、平屋建ての屋根に空から何かが下りて来た。

 それは、赤き巨大な馬に乗った男だった。

 男は、跨っている興奮気味の馬をを窘めながら、モートに向き合い。


 こう言った……。


「あっちの方角に聖痕の少女がいる。もうすぐ始まるんだ。その時が……。だから、急いだ方がいい」


 そう言い残して、赤い馬に乗った男は再び空へと飛び上がった。

 透き通った声だった。

 モートは誰だろうかと考えた。


 その姿が、天から降りしきる無数の赤黒い雹の中へと完全に消えると、モートは首をその男が示した方角へ向けた。


「誰かしら? あれ? モートの知り合い?」


 ミリーが、いつまでも赤い馬と共に空へと消えた男の方を見上げていると、


「ミリーお嬢様。恐らくあれは黙示録に登場する。世界の終わりに現れるアポカリプスの四騎士の一人ではないかと……さあ、行きましょう。ノブレス・オブリージュ美術館へは、ここから数ブロック先のバスを使いましょう」

 

 黒いスーツの男の一人が先導し、無事にシンクレアとミリーは、ノブレス・オブリージュ美術館に向かうことができるだろう。


 と、モートは思った。


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