夜を狩るもの 終末のディストピアⅡ meaning hidden

人類の終焉に死神が人類側に味方した物語
主道 学
主道 学

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公開日時: 2023年9月24日(日) 00:40
更新日時: 2023年9月24日(日) 00:43
文字数:1,794

  鳥の正体は所々、肉体が欠損したカラスの群れだった。

 血の雨は激しさを増し天変地異を思わすかのような豪雨となった。


 モートが走り出すと同時に後方からも激しい羽音が追ってきていたが、モートは気にせずに何色にも見えない魂が乗る車両へと走り続けた。


 滝のような雨となった空からの血液によって、全てが赤い色に染まる。


―――


 アリスは目をつぶり両耳に手を当てた。バサバサと何もかもを覆いつくすかのような鳥の群れの羽音が近づいてきていた。


「このままここで非難していましょう。さあ、賭けの時間です。モートくんに全てを賭けるのです」

「ちょっと、オーゼムさん? 賭けって何のこと?」

「……」 


 更に大きな音になる羽音を恐怖したシンクレアが震える声を発したが、隣で目をつぶるアリスは不気味な羽音がすぐに消えることを信じていた。

 

 アリスの耳に次第に凄まじい羽音が聞こえなくなって来た。

 車窓から外を見ると、バラバラと無数の鳥の肉片が無残に落ちていく。


 その時、ドタドタと連結部分のドアから一人のサラリーマンが大勢のゾンビを連れて速足で歩いてくるのが見えた。

 オーゼムはそれを見て、オールバックを整えて呟いた。

 

「ふふっ、またもや死者ですか……リッチーですね」


 アリスとシンクレアは小さな悲鳴を上げる。


「死者? リッチー? あのサラリーマンの人がですか?」

「そうです。アリスさん。人の形に騙されないでください。れっきとした死者ですよ。それも儀式によってなり果てた強力なアンデッドなのです」


 サラリーマンと死者の群れがこの車両に着くと同時に、天井から体中を真っ赤に染めたモートが床に着地した。


 すぐさまモートは、ゾンビを連れたサラリーマンの元へと突っ込んでいった。


 巨大な馬によって割れた車窓からは、豪雨のような血の雨が車内へと入ってきていた。車内の床や壁。全てが真っ赤になる。


 それが、モートの狩るゾンビの残骸によって、濁った血で真っ黒に汚れた。


「ここは、モートくんに任せて! 後ろの車両へと行きましょう! 聖痕のある少女も探して守るのです!! この騒ぎですから、人の集まった場所に非難していることでしょう!」

 

 アリスはオーゼムの一言で、シンクレアの手を取り、他の乗客と共に後ろの車両へと雪崩れ込んだ。そして、少女はもう窓際にはいないはずなので、恐怖する乗客でごった返す車両の中でポニーテイルの金髪の女の子を探した。 

 

「ほら、あそこにいますよ」


 いつの間にかアリスの隣に立つオーゼムが指差した。

 オーゼムが指差す方には、ポニーテイルの少女が人混みに紛れて見え隠れしていた。


 アリスはここでやっと自分と同じ聖痕を持つ少女を見つけられた。

 

 更に後ろの車両へと逃げようとするポニーテイルの少女が、何気なくこちらに振り向いた。その血色の良い顔にアリスは心底ホッとした。


 周りの乗客もこちらでモートがリッチーの連れたゾンビの群れと戦っているのを見ると、どうやら安心感がでたのだろう恐怖が薄らいできたようだ。


 だが、リッチーはこのどさくさに紛れて前の車両へと逃げ出してしまった。モートの幾度も振る銀の大鎌でゾンビの群れはバラバラの肉片へと分解されていく。


「これは、やっかいですねえ。リッチーは元は自らの儀式によってアンデッドとなった高位魔術師なんですよ。なので、高い社会的地位もありますし、知能もかなり高いんです。断言します。リッチーはアンデッドのリーダー的存在ですね。このまま逃げおおせてしまうでしょう」


 アリスの隣で、話しながらオーゼムは屈んで少女と向き合った。


「あ、それはそうとそちらのお嬢さん。私はオーゼム・バーマインタムという名前です。あなたは何て名前なのでしょう?」


 オーゼムが少女に丁寧にお辞儀をした。ポニーテイルの少女は未だに震えていたが、アリスには、その震えがモートの戦いや周りの徐々に悲惨になっていくゾンビたちの汚れた血液による壁や床によるものではなく。初めて家の外へ出てきて、広大な世界を興味津々に見回しているといった時に、突然の不幸に見舞われたかのような未知に対する恐怖なのだろうと思えた。いや、そう、感じたのだ。


「わ、私の名はテアテラ……」

「あなたを守りに来たんですよ」


 やっとのことで、言葉を発した少女の唇はこれ以上ないほど震えていたので、オーゼムは優しい言葉で告げた。


 モートの狩りによって、激しい血の雨と溢れかえるゾンビの肉片によって床も壁も真っ黒に汚れていた。


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