男はスマホを閉じた。
501号室の四隅に陣取る死神がこう問うた。
「女は何と言ってるのか」と
男はプロセスは言わずにこう答えた。
「同じ時刻に来る。」と
男も女と同様に「何故」と言う自問の答えを考えていた。
「俺はアイツをどうしたいんだ?
抱きたいのか?
痛ぶり、貶し、それでも悶えるアイツに感じるのか?
アイツの身体が欲しいのか?
そうではない…」と
男は実は分かっていた。
過去を無視して、今とその先のみに答えを出すことの矛盾に…
「アイツは俺の女だ。
俺だけのものだ。
アイツの全てを知り尽くしている人類は俺のみなのだ。
だから…
俺がアイツを1番感じさせられるのだ!
俺は感じない。感じなくても良いのだ。
アイツが他の奴に見せない、露わな、卑猥な、淫靡な姿を俺だけに見せる。
アイツが自由に飛べば、俺は満足する。」
死神が言った。
「何故、お前は、女の姿見を性的なものに求めるのか?」と
男は深い質問に良い答えを出すため、煙草に火を着けた。
そして、深く深く煙を一筋も空中に出すことなく、肺細胞に吸収させた。
暫し、沈黙の後、こう答えた。
「心が求める。アイツの白く麗しい裸体を心が求める。
決して、踏み荒らされてない雪道を歩くよう、俺はアイツの白い身体を踏み締める。
仮に、誰かが、奴の純白の操を汚しているならば、俺はそれを白く染め直す。
俺のもので、アイツを他に汚されぬよう、白く白く塗り直す。
俺はそれを求めている。
アイツを感じさせ、逝かせることにより、アイツは潤う。
その汚れの無い、俺が築き上げた潤いの泉に、俺の精魂を放出する。
そこには誰も侵犯できない。
俺だけの領域
それを求め、アイツを逝かす。」と
死神は、今度は角度を変えて、こう問うた。
「ならばだ!お前はあの女を利用するとした。
『怒り』を増幅させるために、利用するとした。
お前が女を逝かしている光景は、正にそのとおりである。
お前を裏切った雌犬を後悔させるべく、最高の餌である性欲の吐口を与え、取り上げ、そして、また与え、いわば、拷問による調教を施していることがよく窺われる。
その行為ならばだ、裏切り者の改心が、過去の法滅、お前の「無」となった35年間の犠牲を意味無きものに蔑める、そのことに対する『怒り』、怨念に満ちた『怒り』に向上させると理解できる。
しかしだ!
今のお前の答え、実のところの本意は、怨念よりも遥かに及ばない、脆弱な嫉妬、それを拭う自己顕示欲、安堵感に過ぎずだ!
しからば、お前はあの女をどうしたい?
その脆弱な念を持って、何も成し遂げるつもりなのか?」と
男は即答した。
「過去という時間を台無しにし、今更、俺のものを貪りあさる雌犬の愚かさに対する『怒り』よりもだ、
俺は主に許可なく無断使用した 客の無礼に対して憤りを感じるのだ。
いいか!
何度も言う。
アイツの身体を跨ぐのは俺1人だ!
これからも俺1人だ!
それを侵害しようとする輩に、俺は「憤慨」するのだ!」と
死神が核心たる問いを投げかけた。
「しからば、お前の『怒り』の矛先は確定したということだな。」と
男は煙草を口から離し、龍の如く、紫煙を吐き、答えた。
「そうだ!
アイツを抱いた男を殺す!
アイツの夫を殺す!」と
死神は男にスッと近づき、さらに、さらに、こう問うた。
「お前は死ぬのか?」と
男は死神の底知れぬ黒い龍眼を睨みこう言った。
「言ったはずだ。これから先もアイツを犯すのは俺だけだと。
今世において、アイツを犯す輩は許さない。
ならばだ!
死を持って、この運命の双子は幕を閉じるまでだ!」と
501号室に沈黙の空気が重く冷たく支配した。
死神は天井の四隅に戻り、大きく大きく青白い炎を、重く冷たい空気を溶かすように吹き捲り、そして、四隅の一点に消えて行った。
男は死神を見送ると、スマホを取り、女のLINEを開き、そして、こうコメントを書き込み、送信した。
「お前は俺だけの女だ。お前は俺だけに抱かれる。お前は俺だけに感じる。この先も」と
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