悪役令嬢の侍女頭は策士でございます

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緊急会議

公開日時: 2020年10月21日(水) 16:31
更新日時: 2020年10月21日(水) 16:35
文字数:2,409

本来ならば9人いるメンバーですが、朝の忙しい時間もあり集めきるのは難しい状況です。


特に料理長のシルファ、衣装係のセルビリアは朝が一番忙しい部署の人間。


この時間は手が離せないでしょうから仕方がありません。


「こんな時間に召集だもんなぁ。あと一時間でお嬢のお目覚めだろ?何があったんだレイさん」


朝の騒動を知らないロミアが、不思議そうに呟きながら、湯気のたつ熱いコーヒーに口をつけてました。


どうやら彼は、朝の騒動を知らないようです。


見ると皆同じような反応をしています。


どうやら朝の騒動は、まだ使用人達の耳に入っていないのでしょう。


「あのぉ、もしかして……文化祭のことじゃないですかぁ?」


挙手をしながら発言したリーリアは、少し不安そうな顔をしていました。どうやら、彼女には心当たりがあるようですね。


そのような報告は、受けておりませんでしたが。


「えぇ、朝早くに起きられて、旦那様に直談判すると騒ぎになりました。」


事のあらましを話した途端に、彼女は大きく肩を落とし、机に突っ伏しました。


「やっぱりぃ……。猛反対してましたが、まさか即行動に出るなんてぇ……っ」


お嬢様の行動を予測できなかったことにひどく落胆している様子。


それもそのはず、リーリアは誰よりも、お嬢様のことをよく理解していますから。


彼女はお嬢様の侍女……つまり私の部下に当たります。


特殊な事情があり、齢16歳とお嬢様と同じ歳ではありますが、立派に侍女を勤めています。


……作法にやや、問題はありますが。


「すみませんレイさぁん……今日の定例会議で報告しようと思ってたんですぅ……。」


半泣きの震え声で弁明を図っている辺り、報告の遅れを反省しているようです。


起こってしまったことは仕方がありません。侍女歴は長くはありませんが、彼女の洞察力は素晴らしいものです。


いつもお嬢様の傍らで、お嬢様の思考をトレースし、先回りして奉仕する。


その能力は私以上のものです。

そんな彼女ですら、件の騒動を予測できなかったのですから、誰も想定はできないでしょう。


「リーリア、学園での出来事を報告してください」


本来、学園には寮生活の者以外、侍女をつけることはできません。もちろん、学舎に入ることは許されませんので、寮で待機しています。


しかし、ある条件を満たせば侍女も学舎へ入ることができます。


その条件とは、16歳以上で魔力を発現した者……、つまり学園入学条件をクリアしていれば、問題がないのです。


魔力は殆どの場合、10歳までの間に発現します。お嬢様も5歳のときに魔力が開花しておられました。


しかし魔力の発現は貴族など、身分の高いものに多く現れる傾向があり、家柄によって魔力保有の差が生まれます。


ごく稀にですが平民から魔力保有者があられることもありますので、一概には言えません。


現にリーリアは平民出身ですが、魔力を持っています。


ですので侍女の立場のまま、学園入学を果たしてお嬢様のお側にお仕えしているのです。


こればかりは、私にはできないことですから。学園内のお嬢様の行動は、リーリアに把握してもらっています。


「はぁい、実は昨日、学園祭の出し物候補が上がったんですぅ……。」


突っ伏した顔をようやくあげ、リーリアの報告に耳を傾けました。


事の発端は昨日。学園祭の出し物をクラスで相談する時間があったそうです。


クラス委員の指揮の下、クラスで上がった様々な候補が開示され、10つの出し物候補が上がりました。


そこからは挙手制で候補希望が多い順に5つに絞り、一次候補としてクラス案を提出すたそうですが……。


「断トツで本喫茶が人気なんですぅ。クラスの殆どが挙手しましたしぃ……。」


クラスの状況を話していたリーリアは落胆したように、声のトーンをさらに落としました。


なるほど、だからお嬢様は早い段階で直談判に踏み切ったのでしょう。


今回はクラスの大半、ですから。このままいけば出し物は本喫茶に決まりですね。


リーリアの報告では、その時のお嬢様の荒れようは、朝の非ではなかったようです。


『なぜ貴族の私が奉仕なんてしないといけないの!?この私を侮辱しているのですか!!』


『絶対に本喫茶なんて認めません!即刻、候補案から消しなさい!』


『私に歯向かうおつもり?この学園にいられなくしてやるわよ!』


聞いて部屋にいた皆が頭を抱えました。


お嬢様は学園でも強い権力をお方なのです。


旦那様……つまりお嬢様のお父様は学園への援助金をなさっておられます。それもかなりの金額です。


そのうえ学園長様とも旧友の中で、世間では第二の学園長、とまで言われるほどの影響力をお持ちの方。


そんな方の娘ですから、皆さん扱いにはほとほと、困ってらっしゃることでしょう。


「お嬢のわががまっぷりは本当にすごいなぁ。リーリアお前……宥めるの大変だったろ?」


「そうよぉ……もぉ、機嫌なおったと思ったのにぃ……」


大抵はリーリアがなだめられるのですが、今回は相当、反発しておられる様子。


これは色々、根回しが必要ですね。


「わかりました。もうすぐお嬢様の起床時間ですので、対策はいつものように定例会議で行います。」


懐中時計が指定の時間を指し、私につられて皆も席を立ちます。


「サーニャ、あなたはお嬢様のお気に入りの紅茶を淹れて持っていってちょうだい。ご機嫌はかなり悪いと思いますので、刺激しないように。」


「はい!」


「リーリアはお嬢様の反発をできるだけ押さえておいて。それから、本喫茶の次にあがった候補と、学園内で“ブックカフェができる以前に”流行していたもの、あるいは流行の兆しがあったものをリサーチしてちょうだい」


「はぁい……調べものもですかぁ…。はぁ、今日もいっぱい働きまぁす。」


私の指示に勢いよく駆け出していくサーニャと、ゆっくりと部屋を出ていくリーリア。


思った以上に状況は芳しくありません。


しかしお嬢様の願いを叶えるのが、私の勤め。


それでは今日も、お嬢様の為に働くといたしましょう。

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