目を覚ましたらそこは真っ白な部屋でした。
(なんだここ?俺の貧乏賃貸は?)
周りを見てもオール白。天井も床も全て同じ色で境界線も分からない。
「あなたはガス漏れによる中毒死で亡くなりました」
「うぉっ!?」
いきなり目の前に現れたのは身長高めのハリウッド女優みたいにグラマラスボディな超ド級の美女。
そんな美女に突然の死亡宣告をされてしまった。
「しかし、幸運にもあなたの生前の善行によりその魂を我が世界へ引き取る事に——」
長くなりそうな説明を聴き流しながら谷間ガン開きのコスチュームから見える美しい二つの半球を凝視する。
「——魑魅魍魎が蔓延る我が世界に安寧と秩序をもたらす為、あなたが望む力を与えましょう」
そんなスゴいのもらえるの?
「え、じゃあド〇クエの主人公の力が欲しい」
「よいでしょう。今あなたが望んだ力を与えました。これから先の前途多難な道のりが少しでも楽に乗り越えていけるよう幸運を祈ります」
そう言うとハリウッド美女は手に持った杖を天井に掲げた。
「……っ!」
そのポーズの変化でちょっと谷間が片寄ったのを逃さず見ていたら俺の全身と視界が光に包まれて消えていき……。
「これ大丈夫?成仏させられてない?」
俺の意識はそこで途絶えた。
「女神様はIカップぅ!!…………あれ?」
我ながら最低な寝言を飛ばしたものだと思いつつ起きたがコレは……。
「アタマ痛っ!!っていうかガス臭っ!!そんでもってココ俺の貧乏賃貸っ!!!!」
異世界転生ならず。
「しかも窓ガラス割れてるし……なんだコレ?野球ボール?」
床に散乱するガラスの破片と窓に空いた穴から察するに、どこぞのガキンチョが俺の家にホームランをキメてくれたらしい。
「いやまぁそのおかげで命拾いしたんだけど、俺の異世界転生が……」
馬鹿げたことを言いつつも頭をポリポリと掻きながらガスの元栓を締めに行く。
「っていうかガス漏れも窓も大家さんに電話しないとな」
掃除機を引っぱり出してガラスの破片を片付ける。
大きな破片は拾ってチラシで包み、細かい破片を掃除機で吸う。
「あ〜、でもワンチャン異世界あったのはヤバいな。月曜のテンションいつもよりめっちゃ下がるだろうなぁ」
窓の穴からいつもよりクリアに聞こえるセミの声。
机の上のタバコの箱から一本取り出して口に咥える。
「はぁ一服一服……」
ライターでタバコに火を着けようとしたその時。
ピンポーン
玄関のチャイムが鳴った。
「タツオ兄ちゃんごめーん!ボール飛ばしちゃったからちょーだーい!」
この声は……。
「飛ばしちゃった〜じゃねぇっつの!駐車場でティーバッティングするなって散々言われてるだろ!」
ドアを開けたら日焼けした肌に地元球団の野球帽を被る見知ったクソガキがニコニコしながら立っていた。
「ホントごめん!昨日のテレビでやってた満塁ホームランを打ちたくて」
「満塁ホームランは一人じゃ無理だろ……ってお前汗だくだくじゃねーか。水とアイスやるからちょっと上がってけ」
「わーい!」
俺をタツオ兄ちゃんと呼ぶこのクソガキは大家さんの孫のユウキだ。
たまに入居者の家に突撃訪問をカマしてくるが俺以外の入居者からは評判が良いらしい。
さっきはちょっと怒鳴ったがぶっちゃけ命の恩人なので水分補給とアイスを食わせるくらいはしてやろう。
「タツオ兄ちゃんテレビつけっぱだけどゲームしてたん?ド〇クエっぽいけど知ってるやつと全然ちが〜う」
換気扇を回して冷蔵庫を漁る。ア〇エリとガ〇ガリ君をくれてやろう。
「それ、お前が産まれる前のやつだぞ。俺が小学生の時に発売されたくらい古いレトロゲー」
あの頃はゲームハードも初代だったのに今やシリーズを重ねて最新機種は五代目なんだもんな。
「やってみても良い〜?」
ガ〇ガリ君を食べながらユウキが聞いてくる。
「良いぞ。ちょっと電話するから静かにしててな」
「はーい」
ガス漏れと窓の件を連絡して……ユウキがウチに居るおかげで話も早そうだな。
セミの声が響く中、俺はスマホを鳴らした。
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