「大丈夫か!?」
裕人のすぐそばで倒れた大きい本棚は、見事に彼の覆いかぶさった。その威力は凄まじいもので、見えていた彼の上半身は一瞬で沈んだ。
政宗は鎧をつけたまま裕人に駆け寄ってきた。棚はカウンターに引っかかって屋根のようになっている。
大量の本の中から、頭を押さえた裕人を見つけた。政宗は、それを迷わず引きずり出し、床に座らせた。
「痛った……」
どうにか意識はあるようだったが、その表情は険しかった。本棚が崩れたのは偶然だとしか言いようがないが、かなり良くないところに当たっている。
「すみません、大丈夫です」
だいぶ痛そうにしていたが、裕人は立ち上がった。すると、一冊の本を踏んで足を滑らせ、体勢を大きく後ろに倒してしまった。
「危ない!」
政宗がそう叫ぶよりも前に、彼は裕人の腕を掴み、一瞬で引き上げた。しかし、その弾みで政宗の方にもたれかかった。そして、二人ともそのまま姿勢を下にした。
「ごめんなさい……。というか、大丈夫ですか?」
裕人は政宗に被さるまま言った。
「ああ……。俺は兜つけてるから」
その声とともに、二人はゆっくりと立ち上がる。
「すまないな、多分俺のせいで」
「いや、本棚が崩れたからこうなってるんです。こっちの方が杜撰でした」
裕人はまた少し頭を下げると、そのまま自分が足を滑らせた本を拾おうとした。そして、その本に目線を合わせると、彼は「んっ」と、小さくも驚きの声をあげた。
『全国戦国武将大百科(布教用)』
大胆な筆字を印刷した表紙には紙が貼ってあり、少し雑な文字で『(布教用)』と書かれてある。これは、家以外では専ら内気であった裕人の父が、自分の趣味を人に言うことのできない証拠だった。
表紙はあいにく靴で踏んでしまったため、すんごいことになっているが、埃っぽかった棚の中で、中身はキレイに保存されていた。
「どうした?」
裕人がそれに見入っているところに、政宗は言葉を刺した。
「あ、いや。なんでもないです」
彼はすぐに一歩下がり、本棚を立て直し始めた。別に力に自信があるわけでもないので、裕人はてこの原理のフル活用でそれを済ませた。
(これ地震来たら全滅だな……)
そんなことを考えながら、彼はバラバラになった本をかき集め始めた。この棚は総記本の集まりなので、とてつもなく重いものばかりだ。
「手伝おうか」
ふと、後ろから声が聞こえた。裕人は振り返ろうとすると、すでに数冊を手にとった政宗が視界に入った。
「あ、ありがとうございます」
彼はそれ以外の言葉が浮かばなかった。そしてそのあと、別に会話が続くわけでもなく、二人は黙々と重量級の本たちを回収した。
「よし、ひとまずこれで全部だな」
政宗は両腰に手を当てて棚を見上げていた。その隣では、裕人が先程よりもまた強く『布教用』を握っていた。この本屋には父の遺品が多すぎる。この本も、あの本も、少し古びた本棚だって、その遺品なのである。
しかし。今はまず伊達政宗の処理が一番である。
「なあ」
「あ、はい」
「ここって本屋だよな」
「そうですね」
「じゃあさ、本買っていっていいか?」
彼は、そう言い切る前に裕人の手をとった。
「はい。好きな本をご自由に取ってもらって大丈夫です」
正しい答えであるかはわからないが、裕人はそう言ってみた。すると、政宗は目を光らせて言った。
「お、いいのか! じゃあな……ファッション誌ってあるか?」
彼は取る手を両手に変えた。伊達政宗はオシャレに目がないと聞いている。その熱量に圧されて、『戦国時代のファッション』とか言うものを全くわからない中、裕人はただ、「はい」と言ってしまった。
「そうか! じゃ、その本はどこにあるんだ?」
「あ……」
裕人は言葉をつまらせた。ファッション誌? ファッション誌って何よ。そんなことが、彼の頭によぎっていた。しかし、張り巡らせた彼の脳内回線に、あるアイデアが浮かんだ。
そして、彼はその本のある場所へ、彼を案内した。
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