ワルキューレとは、北欧神話に伝わる主神の遣いだ。
専ら女性の姿をとり、鎧兜を身に着け、天馬を駆ると伝えられる。
彼女らの役目とは、“戦士の霊魂”を集めること。
戦場に現れては、武芸に優れた男たちを見繕うと、その魂を「ヴァルハラ」と呼ばれる戦士の館に導く。もちろんこれは、“死後の世界”に他ならない。
そうして集めてきた戦士の魂を、ワルキューレたちは歓待し、訓練に励ませ、いずれ訪れる神々の最終戦争――――「ラグナロク」に備えるという。
主たる神族を、“巨人”の魔の手から守るために。
主に古ノルド語で語られたこれらの伝承が、どの程度真実を語り伝えているかは定かでない。名前の残るワルキューレが実際に人類に接触したという歴史的事実は確認されていないし、「ヴァルハラ」なる場所の所在が考古学的に特定された、という話も聞かない。
そもそも、今となっては“神”なるものをどれほど信じていいかも怪しくなってきた。
ただ……ただ、である。
神話が全くの出鱈目、とは言い切れない。
少なくとも、私が“宇宙で”見聞きしたことは真実である、と自信を持って言える。
「平行世界に発生した種族が、なぜか私たちの北欧神話とほぼ同一の伝承を古くから信仰し、自分たちこそが『ワルキューレ』であると対外的に名乗り、“葬式工学”なる学問を駆使して、死者の魂を集めている――――」
…………悪い冗談のようだが、話を聞くに、どうもそういうことらしい。
我々の神話が彼女らによってもたらされたのか、それとも我々が彼女らに神話を伝えてしまったのか。
神話が先か、戦乙女が先か。
はたまた数奇な偶然か。
確かめる術は、「ワルキューレ」たち自身ですら、持っていないのかもしれない。
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