こうして星群のメンバーで揃って任務にあたるのはいつ以来だろうか。
シホたちは三人で街の上空を飛び、依頼人を探す。
二十分ほど付近を周回し……ビー玉ほどの大きさの光を胸に宿す、二十代前半の女性が目に入った。ヴィエラとベネットが彼女の元へと降下していくが――
あんな小さな願いじゃ、大した成果にはなりそうにないな。そう思いつつ、シホは後に続いた。
…………
紛失した自宅の鍵を無事に見つけ、女性はシホたちに何度かお辞儀をして去っていった。
「シホ……どうしたんだ? 具合でも悪いのか?」
戦闘中、いつもと違う様子だったシホに、ヴィエラが心配そうに声をかけた。
シホは軽く首を振る。
「違うよ。ただ……ちょっとやる気が出なかっただけ」
「……?」
シホの言葉に、ヴィエラが顔をしかめる。
「だってそうじゃない? 結構な時間もかかって……得られたのはこれだけ」
そういってシホはヴィエラの手からビー玉大のヘクセリウムをつまみ上げる。
「何……だって……?」
「……大した見返りも得られないとわかっているのに、わたしたち三人の時間と労力を費やすのは……ちょっと違うんじゃないかなって思う」
シホはヘクセリウムをヴィエラに返しながら、ベネットに向き直って言った。
「だってそうでしょ? わたしたちには大きくて立派な使命があるんだよ? ボランティアでやってるわけじゃない」
「シホ……? 何を……何を言ってますの……? 多くの人の願いを叶えることが……それこそがわたくしたちの共通の想い、理想だったんじゃありませんの!?」
シホの言葉に耳を疑ったベネットが動揺を隠し、訊ねるように言う。
「それはそうだけど……正直いって、依頼人たちがこの程度の願いを叶えられないのは、自分の力不足だからじゃない?」
「ちっ……違いますわ! わたくしはそうは思わないですの! 他人から見ればどんな些細なことでも、本人にとっては大きくて困難な……でも、だからこそ大切な願いですわ!」
顔を赤くしてベネットが言葉を吐き出す。しかしシホは冷めた眼で返す。
「ああ、そっか……。そんなだからベネットは未だに理想に届いてないんだね。宇宙を救えるような立派な魔女に少しも近づけないままで」
「なっ…………」
ベネットはもう声も出せなかった。
喉の奥が熱くて、痛い。歯を食いしばり、込み上げてくるものを必死に堪えている。
「シホ……!! お前……何を言ってるのかわかってるのか……!」
ヴィエラが肩を震わせる。
「どうしたのヴィエラ? わたし、何かおかしなこと言ってる?」
そう言ってヴィエラを見つめ――シホは溜息をもらした。
「もう……ヴィエラたちは大きな願いを叶えなくていいよ。わたしが引き受けるから。二人はさっきみたいな小さな仕事だけやりなよ。そのほうがラクでいいでしょ? わたしもより強くなれるし、お互い損はないと思わない?」
――ぱんっ……!
乾いた音が響いた。
「シホ……! 見損なったぞ……!!」
シホの頬を平手で打ったヴィエラが声を震わせる。その目は激情に潤み、揺らいでいた。
「お前は理想の為に……力をつける為に、いろんなものを犠牲にしてでも頑張る決意をした……そう思った」
腹の奥から……熱い何かが湧き上がってくる――
「だからアタシは応援して、そんなシホを見守ることにした……!」
奥から奥からやってくるそれは次第に詰まり、胸を焼き――
「ミーティアの件も踏まえて……二度とあんな事が無いように努めてきたつもりだ……だが……!」
関を切ったように溢れ続け、やがて全身を包み込み――
「……だが間違いだった! アタシの責任だ……無理やりにでも、こんなお前になる前に止めるべきだった……!!」
そして熱い雫となり――とめどなく溢れ出した。
泣いていた。ヴィエラは泣いていた。
「何……? 何なの? それって……嫉妬? そっか……ミーティアもそれで星群を離れて行ったのかな……。今なら少し、わかる気がするよ」
シホが言い終わる前に、背を向けて駆け出していた。
もう――もうこれ以上聞いては……いられない……!! ヴィエラは法器を跨ぎ、めいっぱいにグリップを絞る。
「……シホっ! あんまりですわっ! ヴィエラは……」
ベネットは声を絞りだし、なにかを言いかけたが……、涙を溜め、シホを見つめたあと、ヴィエラを追うように飛び去っていった。
…………
シホは顔に手を当てる。
頬は赤みを帯びていたが……何も感じなかった。
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