「さあ――最後の演目よ。約束通り、解体ショーを見せてあげるわ……!」
ミーティアの瞳に、醜く歪んだ笑顔と、ゆっくりと振り上げられた刃が映った。
「そんな……ミーティアっ――!」
悲鳴のようなメテオラの声が森を震わせた。
プラーネが狂喜に震え、腕を降り降ろす。濃緑の光がミーティアに迫る――
「――!?」
と同時、薄紫の砲弾のような光がプラーネに向かって飛来する。
手を返し、咄嗟に刃でそれを防ぐ。
「ぐっ……ぐぐぐぐっ……!!」
砲弾の威力に押され、刃を持つ手が震える。
「……はあっ!」
腕を払い、プラーネはどうにかそれを弾きそらす。軌道を外れた魔力弾が森へと進み――爆音と共に木々を粉砕した。
「ミーティアっ!」
その間に白金の法器に乗ったシホが疾走する。プラーネとの間に入り、ミーティアに向かって手を伸ばす。
「シホっ……!」
ミーティアも手を伸ばし、二人の手が繋がる。勢いそのままに宙を舞い――ミーティアがシホの法器後部に跨った。
それを確認すると、シホはグリップを強く捻り、加速。轟音を撒きながら法器が大きく円を描く。距離をとるとシホは片足を地に着けて法器を止め、プラーネに向き直る。
そのシホの姿にプラーネが目を開き、驚愕する。
「馬鹿な……その法器は……!」
星の魔女、一等星級。星雲長ステラ専用に造られた特注の魔女の法器。
通称――‘スター・バスター’
白金色の光沢を放つボディを持ち、マニュアル型でありながら、幅広い魔法術式に対応。三角を描くように配置された三基のハイパワーエンジン。その凄まじい出力と重量ゆえ、高度な操縦テクニックが要求される。この規格外の法器を乗りこなせる魔女はステラのみとされてきた。
しかし――
しかし、今。こうしてそれを乗りこなす二人目の星の魔女が誕生した。
「もう……もうこれ以上、あなたに何も奪わせない……!!」
シホは母から受け継いだ新たな法器を強く握りしめる。
ミーティアが飛び降り、本体のみとなった自分の法器を抜く。
「いくぞ……今こそあたしたちで、ヴィエラの、ベネットの敵を……!!」
ミーティアの言葉に、シホが力強く頷く。
「覚悟して、プラーネ!」
「覚悟しろ、プラーネ!」
二人は法器に乗り、プラーネへと疾走する。
「ほざけ……! この死にぞこない共がッ!」
プラーネの握る刃が強く光り輝き――
「無能なゴミに心をとらわれ、本質を見失う馬鹿どもに……私が遅れなどとるものかッ!」
濃緑の斬撃を放つ。
ミーティアとシホが左右に展開し、斬撃を避け――プラーネを中心に周囲を旋回する。
「くッ、小癪な真似をッ……!」
散開され、的を絞りきれないプラーネが斬撃を周囲にばら撒き続ける。
しかし、凶刃は空を斬り――周囲の木々を斬り倒すのみだ。
そして、ミーティアが僅かに頷くのを確認し――シホが、急速に動きを変える。
スロットルグリップを握り直し、更に魔力燃料を燃焼させ高速で周回し――
制動領域を展開する。エンジンノズルがすさまじい蒼炎を吐き――
軌道を保ったまま、法器の先端がプラーネを捉え――
魔法陣が展開。射出口に光が集い――
渾身の魔力砲弾を放出する。
「おのれ……ッ!」
正面から迫る砲弾にプラーネが斬撃を放つが――砲弾が斬撃を粉砕し、突き進む。
「!? ……おおおおおおーッ――!」
プラーネが刃を立てて両手で構え、自らを圧壊せんと迫る魔力を受け止める。
踏みしめる両の足が地を削り、身体が押し込まれていく。
「ゆ……許さん……ここまで私をコケに……! 貴様ら……必ず、必ず……!!」
鬼の形相を浮かべ、なんとか踏みとどまりながら呪言を吐くプラーネ。
「必ず――どうするってんだ?」
――!
背後で――紫炎の刃が宿り、空気を震わせる音が聞こえた。
「――解体ショーは好みじゃないんだがな……汚れ役も道化の領分と――諦めるぜ!」
紫炎の熱線が閃き――
プラーネの右腕が力なく、重力に引かれ――
斥力を失った魔法弾が加速し――
悪魔を打ち砕く!
「ご……があぁぁぁぁぁっ……!!」
熱を帯びた砲弾が胸骨を砕き、臓物を圧壊し、体躯を弾き飛ばしていく。
プラーネは鮮血を吐きながら岩肌へと激突し――
ついに――地へと伏した。
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