永遠の箒星(とわ の ほうきぼし)

― star witch’s story ―
破魔 恭行
破魔 恭行

★第八章★ 永遠の箒星(3)

公開日時: 2020年10月27日(火) 19:01
文字数:1,394

 巨人の表面が蠢き、湧き出すように白妙の獣が現れる。

 白磁のように光を照り返す皮膚に、尖った鼻先、牙を備えた大きく裂けた口。

 正円の紅い瞳は理性や知性を一切感じさせず、残虐さのみを宿す事を物語っていた。

 巨体を支える槌のような足で、もがくように宇宙へと這い出し、翼を広げる。

「ハレイ版のクーヴァってところか! ステラさんのと違って可愛げはないがな!」

 正面に広がる白き獣の群れを前に、ミーティアが小型法器を抜く。

「いくら出てこようと無駄! どいてっ!」

 二人の魔女が群がる巨体をすり抜け、暗黒を射抜く薄紫と紅の魔力線が次々と獣を駆逐する。しかし――

 獣が吼え、砕けた身体を再生させ、あるいは別の個体へと分裂し、魔女を狩らんと殺到する。

「くそっ、こんな雑魚に構ってるヒマはない――ここはあたしに任せてシホは行けっ!」

「わかった! ミーティアも気をつけて!」

 砲弾を撃ち、グリップを捻る。はだかる獣を破り抜き、突き抜け、シホが疾走する。

 ミーティアが法器を両手に構え、周囲に群がる魔獣を撃ち続ける。

「これなら間に合う――もう少しっ!」

 一直線に目標へと疾るシホの目に、だんだんとハレイの顔が見えてきた。

「ほう――あの軍勢を突破してくるとは」

 ハレイが呟く。

 巨人の顔――闇の中――に光が生まれた。

 そして眩いほどの輝きを放ち――

「――!?」

「シホ……避けろッ!」

 咄嗟にシホが機首を下げ、重心を傾けて天地を入れ替える。

 直後、足元を衝撃と――むしろ凍てつくような熱波が通り過ぎる。

「ウソ――で、しょ……」

 極大の熱線が闇を切り――蒼星の衛星に突き刺さった。

「――マジ……かよ」

 月の端が穿たれ――ごつごつとした表面をばら撒きながら、ゆるやかに球体が崩壊する。

「――シホ! また来るぞ!」

 シホが振り返ると――

 熱線を発したままの巨人が首を振り、闇を照らし上げていく。

「そんな……! あれを連発できるって言うの!?」

 滂沱の如く放出される死の光を、シホは法器を駆り、回転し、躍動し、疾走し――避ける。

 突き抜けた光は分子を震わせながら進み――彼方に宿る輝きを不規則な形に変える。

 このままでは――数多の星が犠牲になる。首が向かない死角は――

「――あそこなら……!」

 シホは一旦迂回すると、白き巨人の足元へと向かって飛ぶ。

「シホ、こっちだ!」

 ミーティアも同じポイントに向かい、二人は巨人の真下で合流する。

 眼下には蒼星、そして右手の方角には本来のバランスを崩し、軌道を変え始めた月が見える。

「ミーティア、正面から向かうのはもう無理だよ!」

「ああ。それにあたしらは避けれたとしても被害がデカすぎるぜ……!」

「うん。そうなると……」

「ああ、気は進まないが――ここを進むしかないな」

 そう言って二人は上を見上げる。

 視界に広がるのは数多の白き獣が蠢く、大地のような巨人の体躯。

 そして――その先に座しているであろう星女王ハレイ。

「ここを突破して――ヤツ本体を叩く。接近してあたしらの最大の魔法をかませば勝機はあるはずだ」

「わたしたちの最大の魔法――」

 シホは白金の法器を強く握りしめ――ミーティアを見て、頷く。

 ミーティアも頷くと小型法器を抜き――紫炎の刃を宿す。

「行くぞ――最悪、どちらかがヤツまで辿り着くしかない。もうお互いかばうのは無しだ」

「うん――必ずわたしたちでハレイを倒して宇宙を救おう! 行こう、ミーティア!」

 エンジンノズルが火を吹き――白き大地を疾走する。

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