巨人の表面が蠢き、湧き出すように白妙の獣が現れる。
白磁のように光を照り返す皮膚に、尖った鼻先、牙を備えた大きく裂けた口。
正円の紅い瞳は理性や知性を一切感じさせず、残虐さのみを宿す事を物語っていた。
巨体を支える槌のような足で、もがくように宇宙へと這い出し、翼を広げる。
「ハレイ版のクーヴァってところか! ステラさんのと違って可愛げはないがな!」
正面に広がる白き獣の群れを前に、ミーティアが小型法器を抜く。
「いくら出てこようと無駄! どいてっ!」
二人の魔女が群がる巨体をすり抜け、暗黒を射抜く薄紫と紅の魔力線が次々と獣を駆逐する。しかし――
獣が吼え、砕けた身体を再生させ、あるいは別の個体へと分裂し、魔女を狩らんと殺到する。
「くそっ、こんな雑魚に構ってるヒマはない――ここはあたしに任せてシホは行けっ!」
「わかった! ミーティアも気をつけて!」
砲弾を撃ち、グリップを捻る。はだかる獣を破り抜き、突き抜け、シホが疾走する。
ミーティアが法器を両手に構え、周囲に群がる魔獣を撃ち続ける。
「これなら間に合う――もう少しっ!」
一直線に目標へと疾るシホの目に、だんだんとハレイの顔が見えてきた。
「ほう――あの軍勢を突破してくるとは」
ハレイが呟く。
巨人の顔――闇の中――に光が生まれた。
そして眩いほどの輝きを放ち――
「――!?」
「シホ……避けろッ!」
咄嗟にシホが機首を下げ、重心を傾けて天地を入れ替える。
直後、足元を衝撃と――むしろ凍てつくような熱波が通り過ぎる。
「ウソ――で、しょ……」
極大の熱線が闇を切り――蒼星の衛星に突き刺さった。
「――マジ……かよ」
月の端が穿たれ――ごつごつとした表面をばら撒きながら、ゆるやかに球体が崩壊する。
「――シホ! また来るぞ!」
シホが振り返ると――
熱線を発したままの巨人が首を振り、闇を照らし上げていく。
「そんな……! あれを連発できるって言うの!?」
滂沱の如く放出される死の光を、シホは法器を駆り、回転し、躍動し、疾走し――避ける。
突き抜けた光は分子を震わせながら進み――彼方に宿る輝きを不規則な形に変える。
このままでは――数多の星が犠牲になる。首が向かない死角は――
「――あそこなら……!」
シホは一旦迂回すると、白き巨人の足元へと向かって飛ぶ。
「シホ、こっちだ!」
ミーティアも同じポイントに向かい、二人は巨人の真下で合流する。
眼下には蒼星、そして右手の方角には本来のバランスを崩し、軌道を変え始めた月が見える。
「ミーティア、正面から向かうのはもう無理だよ!」
「ああ。それにあたしらは避けれたとしても被害がデカすぎるぜ……!」
「うん。そうなると……」
「ああ、気は進まないが――ここを進むしかないな」
そう言って二人は上を見上げる。
視界に広がるのは数多の白き獣が蠢く、大地のような巨人の体躯。
そして――その先に座しているであろう星女王ハレイ。
「ここを突破して――ヤツ本体を叩く。接近してあたしらの最大の魔法をかませば勝機はあるはずだ」
「わたしたちの最大の魔法――」
シホは白金の法器を強く握りしめ――ミーティアを見て、頷く。
ミーティアも頷くと小型法器を抜き――紫炎の刃を宿す。
「行くぞ――最悪、どちらかがヤツまで辿り着くしかない。もうお互いかばうのは無しだ」
「うん――必ずわたしたちでハレイを倒して宇宙を救おう! 行こう、ミーティア!」
エンジンノズルが火を吹き――白き大地を疾走する。
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