永遠の箒星(とわ の ほうきぼし)

― star witch’s story ―
破魔 恭行
破魔 恭行

★第三章★ 予期せぬ再会(8)

公開日時: 2020年9月30日(水) 10:37
文字数:2,117

 夜の肌寒い潮風と共に、さざなみの静かな音が届く。

 海沿いの駐車場。ミーティアから渡された通信魔法陣で連絡を取り、再会を果たしたこの場所で待ち合わせる事に決めた。

 色々なことがありすぎて、あの時はあまり話も出来なかった。

 シホは敷地の中央あたりに建つ街灯に背を預け、友との逢瀬、その時を待つ。

 やがて――

「約束通り一人で来てくれて嬉しいぜ。あたしもメテオラは置いてきた」

 静かな靴音を闇に響かせ、ミーティアが姿を現す。

「ミーティア。見て、わたしも星の魔女になれたよ。久しぶりに会えて、報告もできて嬉しい――けど……」

 街灯から離れ、シホはミーティアに向かい合う。

「けど……どうしてこんな事になってるの……?」

 トーンを下げ、そう言うとシホは悲しげに顔を伏せる。

「それは……追々、な。ともかく今はお前が来てくれさえすれば、あたしはそれでいい。……協力してくれるな?」

 そんなシホを気遣うように、ミーティアは静かに言った。

「それって、わたしにヴィエラやベネットを……星の魔女を裏切れってことだよね」

「…………」

 ぽつりと言ったシホの言葉に、ミーティアは沈黙で答える。

「……違うの。わたしがここに来たのは……そんな事の為じゃないの。……ミーティア、お願い。わたしと一緒に来て。星群に……星の魔女に戻って」

 ミーティアの目を見つめてシホは言った。

「逆に説得しに来たってわけか。……今更戻れるわけないだろ。あたしがタダでは済まない事くらい、シホにもわかってるはずだぜ」

 ミーティアは溜息交じりに言い、軽く首を傾げて見せた。

「わたしちゃんと……一生懸命、お願いしてきたんだよ。星女王さまに。それでチャンスをもらったの。ミーティアさえ素直に戻れば……今なら不問にするって」

「不問……? はっ、冗談よせよ、シホ。そんな話、信じられるわけないだろ?」

 ミーティアは呆れた様子で一笑する。

「違うよ! わたしは必死に……本当に必死にお願いしてきたの! ミーティアの為に!」

 シホは思わず声を荒げ――

「確かに……他の人は反対してた。けど星女王さまは認めてくれたの。わたしのお母さんだって、きっと――そう言うに違いないって」

 ミーティアの驚いた顔が目に入り、少しトーンを落とす。感情が――うまく抑えきれない。

「仮にそうだとしても――無理な話だ。あたしは戻るわけにはいかない。目的を果たす為に」

 ミーティアは言う。その声色に迷いは感じられない。

「ミーティアの目的って……何なの? オールトの雲を滅ぼすとか、魔女には消えてもらうとか言ってたけど、嘘……だよね?」

「…………」

 ミーティアは黙ったままだ。

「ミーティア……? 黙ってちゃ……わからないよ……」

 口を堅く結んだままのミーティアにシホが詰め寄る。

「それは――言えない。でも……本当にオールトの雲が消えちまうなら、いっそそれでも構わないと思ってる」

「そんな……! 嘘――でしょ……何を言ってるの……ミーティア……」

 信じていた。本当は違うんだと。いつものように意地を張って、つい口から出たでまかせなんだと。シホはそう思っていた。だから――

「どんな願いなのか――わたしに言えないのはいい! でも……でも、他の人を犠牲にしてまで叶えるなんて……! そんな願いがいいわけない! ミーティアは――間違ってる!」

 限界だった。これ以上親友が間違っていくのを見ていられなかった。むき出しの感情がそのまま口をついて出る。

「間違ってる――だって? あたしは……あたしは覚悟を決めたんだ! 星の魔女を辞めて、自分の正しいと思ったことをやるってな!」

 シホの言葉に、ミーティアが初めて感情を露わにする。

「それが宇宙を……オールトの雲を危機に晒す事だっていうの!? ふざけないで!」

 風が……変わった。ミーティアの影が揺らぐ。何か――おかしなことが起こり始めている。こんなはずじゃ、なかった。

「…………」

「…………」

 それ以上、言葉は出なかった。重苦しい沈黙だけが二人の前に横たわる。

「話は、終わりだ。……星の魔女は辞めろ。せめてこれ以上……あたしの邪魔をしないでくれ」

 そう言うとミーティアは背を向け歩き出す。

 ――――。

「……ミーティア」

 振り返ったミーティアの頬を魔力の矢が掠める。

「シホ……!? お前……!!」

 射出口に魔法陣を宿した法器を構え、シホが言う。

「ミーティアはいつもそうだよね……。勝手に決めて、どんどん先に進んじゃう。わたしはいつも――後ろからついていくだけ」

 ――嫌だ。どんどん間違えて進んでいく。

「でもね、それでも良かった。ミーティアはちゃんとわたしを見てくれていたから。ちゃんと向き合ってくれてたから」

 このままでは――大好きだった友達が歪な何かに変わってしまう。

「だけど……もう違うんだね。こんなに頑張っても、わたしの気持ちはミーティアには届かない。わたしは、きっと……ただの邪魔者なんだね」

 止めるんだ――止めなきゃいけない。

「何を言ってるんだ……シホ……!!」

「後ろからついていくのはもう……嫌。ミーティアがどうしても願いを叶えるっていうのなら、わたしもそうするよ。例え――どんな手を使ってでも」

 シホは地を蹴り、法器へと飛び乗る。

 スロットルグリップを絞り、ミーティアに向かって疾走する――

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