正義の代償

真実は少女の夢を見るか?
夜乃 凛
夜乃 凛

魔の孤島へ③

公開日時: 2021年9月27日(月) 17:50
文字数:2,276

喫茶店を出て、すぐ船乗り場へ向かった。

天候こそ曇りであるが、海はどこまでも続いているようで、綺麗だ。

港に白いボートが五台ほど、ぷかぷか浮かんでいる。人気は少ない。

綺麗な海が見える。晴天だったら、きっと輝いて見えただろう。



五台あるボートの、どれが白良島行きか、わからなかった。

とりあえず、船の人間に尋ねてみることにした加羅達。

加羅達がで五台のボートの中の一つ、白いボートに近づくと、

日焼けした、恰幅の良い男性が船の前に居たので、平川が声をかけた。



「すみません、白良島行きの船に乗りたいのですが、どの船かご存じですか?」



「この船は、白良島行きだよ。アンタ、随分怖い恰好だね。白良島がどうした?」



「そこへ招待されました。三人。船で送ってくれるとのことで」



平川は鞄から白い招待状を出し、男に見せた。

後ろにいる加羅と刀利も、招待状を見せる。



「ああ、お嬢様の言っていた、お客さんか……乗りなさい乗りなさい。案内する」



日焼けした男は笑顔になり、船に乗り込んだ。

平川を先頭に、三人で白い船に乗った。そこそこ大きい。



「お嬢様って、誰?」



刀利は不思議そうだ。刀利は事情を何も知らないのだ。



「多分……白良島にいる、大富豪。年は十五くらい。高校生ぐらいだな」



加羅は知っていた。平川から聞いたのだ。



「その年で大富豪なの?」



「両親が大富豪だったんたが、事故で亡くなった。遺産が入ったわけだな」



「あ……そうなんだ……」



刀利が、あまり見せない暗い表情を見せた。

境遇が似ている。刀利はそう思った。

きっと、心細かったんだろうな、と刀利は想像した。



「会って話してみるといい」



加羅は刀利の心中を察してか、穏やかだった。



「うん。お嬢様……どんな子かな」





三人が白い船に乗り込んでから、すぐには出発出来なかった。

日焼けした男の話によると、まだ来ていない乗客がいるらしかった。

二人。男が一人と、女が一人。

加羅と平川は煙草を吸いながら待っていた。

刀利はすることが無いので、スマートフォンをいじっていた。

パズルゲームをしている。

余りにも手の動きが速いので、加羅から阿修羅と呼ばれたことがある。

刀利は阿修羅の存在を知らなかったが、なんとなく褒められているようで嬉しかった。

実際には加羅は少し引き気味だった。知らないほうが良いこともある。



「くらえ!十二連鎖!決まった!」



刀利は笑顔で何か叫んでいる。子供だろうか。



十五分ほど経って、男が一人現れた。

長い銀髪。日焼け止めはしているのだろうかと心配になるほど、白い肌。

白いシャツに、紺色のジーンズを穿いている。



「リッキー、お待たせ」



銀髪の男は、日焼けした男に話しかけた。

日焼けした男が、リッキーだろう。あだ名だろうか。



「おお、坊ちゃん。先客がいらっしゃってます」



「ああ、招待された人が他にもいるんだ」



「そうです」



その会話は、加羅達にも聞こえていた。

銀髪の男は船に乗り込み、先頭付近にいる加羅達に話しかけた。



「初めまして。僕は、七雄といいます」



「あ、初めまして。加羅です。よろしくお願いします」



加羅は急いで煙草を揉み消し、軽く頭を下げた。



「消さなくて結構ですよ」



七雄は笑った。



「私は刀利といいます!」



「僕は平川といいます。刑事です」



皆が挨拶をした。

平川が刑事と言ったとき、少し七雄の表情が動いたように見えた。



「みなさんは、何をしに白良島へ?」



七雄が尋ねる。既に表情はコントロールされている。



「リゾートです!」



笑顔の刀利。



「えっと、招待されたんですよ。事故死があったようで」



加羅が刀利の頭を叩きながら答える。



「事故死、ですか……」



「そうです。しかし、それほど深刻に考える必要は無さそうです」



「アイドルが死んだんですよね?」



七雄がそう口にすると、平川は少し表情が険しくなった。



「何故、知っているのですか?」



「なんでだと思いますか?」



七雄は受け流している。

日焼けした男、リッキーと呼ばれた男は、皆の様子を確認している。



「事件関係者の中に、七雄さんの知人がいたんですね?その人から聞いたんじゃないですか?」



刀利がすらすらと言葉を口にした。



「その通りです。そう、この前……事件の話を聞きました」



「自殺と他殺、どちらだと思いますか?」



刀利は止まらない。頭が回転し続けている。

彼女の悪い癖だ。殺人とまではいかなくても、

何か事件性のあることが発生すると、冷静に事象を分析しようとする。

それが、冷たい、と言われたことがある刀利。



「他殺です」



「え?でも……」



「アリバイがあるっていう話ですよね。簡単な話です。白良島に、未知の人物が隠れていた。

その人物が、アイドル……北央七瀬を崖から突き落とした」



七雄は、アイドルを七瀬と呼んだ。少なくとも、何かの情報を知っている。



「そうは思えません。警察の捜査で、船で出入りした人間は調査済みですが、怪しい人物は発見されていません」



平川が口を出した。刑事としては、少々迂闊だろう。情報を漏らしている。



「だから、僕は白良島に行きたいんですよ」



七雄の意味深な言葉。



「まだ島に犯人が残っていると思っているのですね?」



聞いていた加羅はゆっくりと話した。余裕がある。



「その通りです。出入りが怪しくなければ、当然、住人が怪しくなります」



「あなたは、色々と事情がありそうですね」



「はい、まあ……お嬢にも、面識がありますしね」



ここでも、またお嬢様。白良島の顔のようなものか。



「まあ、白良島は、安全ではあると思います。事件は事件。

殺される動機が無いものが襲われる道理もありません。楽しみましょう」



七雄はそう言って笑った。

自然な笑いなのか、作り笑いなのか、わからなかった。

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