喫茶店を出て、すぐ船乗り場へ向かった。
天候こそ曇りであるが、海はどこまでも続いているようで、綺麗だ。
港に白いボートが五台ほど、ぷかぷか浮かんでいる。人気は少ない。
綺麗な海が見える。晴天だったら、きっと輝いて見えただろう。
五台あるボートの、どれが白良島行きか、わからなかった。
とりあえず、船の人間に尋ねてみることにした加羅達。
加羅達がで五台のボートの中の一つ、白いボートに近づくと、
日焼けした、恰幅の良い男性が船の前に居たので、平川が声をかけた。
「すみません、白良島行きの船に乗りたいのですが、どの船かご存じですか?」
「この船は、白良島行きだよ。アンタ、随分怖い恰好だね。白良島がどうした?」
「そこへ招待されました。三人。船で送ってくれるとのことで」
平川は鞄から白い招待状を出し、男に見せた。
後ろにいる加羅と刀利も、招待状を見せる。
「ああ、お嬢様の言っていた、お客さんか……乗りなさい乗りなさい。案内する」
日焼けした男は笑顔になり、船に乗り込んだ。
平川を先頭に、三人で白い船に乗った。そこそこ大きい。
「お嬢様って、誰?」
刀利は不思議そうだ。刀利は事情を何も知らないのだ。
「多分……白良島にいる、大富豪。年は十五くらい。高校生ぐらいだな」
加羅は知っていた。平川から聞いたのだ。
「その年で大富豪なの?」
「両親が大富豪だったんたが、事故で亡くなった。遺産が入ったわけだな」
「あ……そうなんだ……」
刀利が、あまり見せない暗い表情を見せた。
境遇が似ている。刀利はそう思った。
きっと、心細かったんだろうな、と刀利は想像した。
「会って話してみるといい」
加羅は刀利の心中を察してか、穏やかだった。
「うん。お嬢様……どんな子かな」
三人が白い船に乗り込んでから、すぐには出発出来なかった。
日焼けした男の話によると、まだ来ていない乗客がいるらしかった。
二人。男が一人と、女が一人。
加羅と平川は煙草を吸いながら待っていた。
刀利はすることが無いので、スマートフォンをいじっていた。
パズルゲームをしている。
余りにも手の動きが速いので、加羅から阿修羅と呼ばれたことがある。
刀利は阿修羅の存在を知らなかったが、なんとなく褒められているようで嬉しかった。
実際には加羅は少し引き気味だった。知らないほうが良いこともある。
「くらえ!十二連鎖!決まった!」
刀利は笑顔で何か叫んでいる。子供だろうか。
十五分ほど経って、男が一人現れた。
長い銀髪。日焼け止めはしているのだろうかと心配になるほど、白い肌。
白いシャツに、紺色のジーンズを穿いている。
「リッキー、お待たせ」
銀髪の男は、日焼けした男に話しかけた。
日焼けした男が、リッキーだろう。あだ名だろうか。
「おお、坊ちゃん。先客がいらっしゃってます」
「ああ、招待された人が他にもいるんだ」
「そうです」
その会話は、加羅達にも聞こえていた。
銀髪の男は船に乗り込み、先頭付近にいる加羅達に話しかけた。
「初めまして。僕は、七雄といいます」
「あ、初めまして。加羅です。よろしくお願いします」
加羅は急いで煙草を揉み消し、軽く頭を下げた。
「消さなくて結構ですよ」
七雄は笑った。
「私は刀利といいます!」
「僕は平川といいます。刑事です」
皆が挨拶をした。
平川が刑事と言ったとき、少し七雄の表情が動いたように見えた。
「みなさんは、何をしに白良島へ?」
七雄が尋ねる。既に表情はコントロールされている。
「リゾートです!」
笑顔の刀利。
「えっと、招待されたんですよ。事故死があったようで」
加羅が刀利の頭を叩きながら答える。
「事故死、ですか……」
「そうです。しかし、それほど深刻に考える必要は無さそうです」
「アイドルが死んだんですよね?」
七雄がそう口にすると、平川は少し表情が険しくなった。
「何故、知っているのですか?」
「なんでだと思いますか?」
七雄は受け流している。
日焼けした男、リッキーと呼ばれた男は、皆の様子を確認している。
「事件関係者の中に、七雄さんの知人がいたんですね?その人から聞いたんじゃないですか?」
刀利がすらすらと言葉を口にした。
「その通りです。そう、この前……事件の話を聞きました」
「自殺と他殺、どちらだと思いますか?」
刀利は止まらない。頭が回転し続けている。
彼女の悪い癖だ。殺人とまではいかなくても、
何か事件性のあることが発生すると、冷静に事象を分析しようとする。
それが、冷たい、と言われたことがある刀利。
「他殺です」
「え?でも……」
「アリバイがあるっていう話ですよね。簡単な話です。白良島に、未知の人物が隠れていた。
その人物が、アイドル……北央七瀬を崖から突き落とした」
七雄は、アイドルを七瀬と呼んだ。少なくとも、何かの情報を知っている。
「そうは思えません。警察の捜査で、船で出入りした人間は調査済みですが、怪しい人物は発見されていません」
平川が口を出した。刑事としては、少々迂闊だろう。情報を漏らしている。
「だから、僕は白良島に行きたいんですよ」
七雄の意味深な言葉。
「まだ島に犯人が残っていると思っているのですね?」
聞いていた加羅はゆっくりと話した。余裕がある。
「その通りです。出入りが怪しくなければ、当然、住人が怪しくなります」
「あなたは、色々と事情がありそうですね」
「はい、まあ……お嬢にも、面識がありますしね」
ここでも、またお嬢様。白良島の顔のようなものか。
「まあ、白良島は、安全ではあると思います。事件は事件。
殺される動機が無いものが襲われる道理もありません。楽しみましょう」
七雄はそう言って笑った。
自然な笑いなのか、作り笑いなのか、わからなかった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!