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東方不敗(ひがしかた・まさる)
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人狼将棋セット【パンケーキと木星コーヒー】

公開日時: 2020年11月30日(月) 21:56
更新日時: 2021年1月25日(月) 16:11
文字数:3,056

人狼はましろさんさんに描いていただきました。

転載禁止。


「まだ使ってない古将棋の駒ある?」


「『神僧』ぐらいだな」

「それ強いの?」


「弱い。ただ『聖燈』に成ると、五路以内にいる高道の成り駒『五里霧』を高道に戻すことができる。拡大解釈するなら『成り駒を元に戻す』能力だな」


「四天王や火鬼が元の駒に戻るんですか?」

「はい」



●□●□●

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●□神□●

□□□□□

●□●□●


神僧の移動範囲


特殊な駒で『神僧以外の駒は取れない』。

ただし移動した後なら、自分の周囲八マスにいる駒を一つ取ることができる。



『聖燈』に成ると、一手で神僧の動きが二回できるようになる。

しかも一手目と二手目の両方で、移動した後に自分の周囲八マスにいる駒を一つ取れる。



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●●●●●聖●●●●●

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聖域の範囲内にいる成り駒は全て元の駒に戻る。



「聖燈の能力を活かすのなら、強い駒を勢ぞろいさせる必要がありますね」

「なにその地獄」

 獅子・四天王・天狗・太子などを加えてデッキを組まないといけない。

 悲惨なゲームになりそうだ。

「モチーフは『人狼ゲーム』の役職にしよう」

 イメージに合わせてイラストを描いていく。



人狼 玉


村人(市民) 歩


占い師(預言者) 聖燈

 成り駒を元に戻す(2回行動はできない)


霊能者(霊媒師) 四天王

 幽体離脱してあらゆる駒を飛び越える


狩人(騎士・護衛・用心棒) 獅子

 一手で2回動ける


双子(恋人) 天網・地網

 2枚1組の駒

 片方が成るともう片方の駒も成る

 片方が死ぬともう片方も死ぬ


狂人(多重人格・裏切者) 太子と天狗

 裏切者 太子 玉(人狼)を取られても負けにならない

 狂人 天狗 角の動きを2回できる(相手の駒を取ったらそこで動きは止まる)



「初期配置ではすべての駒を村人にしてもいいな。成らないと能力は発揮できない」


「どこに人狼がいるか、どの駒が何の役職なのか推理する必要があるわけですね」

「はい。もちろん占い師の能力を使えば『範囲内にいる村人の駒の裏を見て役職を確認する』ことができます」

「玉である人狼が成ることはまずない。つまり人狼を取りたいのなら、占い師に成るのがほぼ必須というわけですね」

「想像してたのより人狼っぽいかも」

 将棋なので持ち駒制度ありだ。

 ただし相手の駒を持ち駒にしても、駒の裏を確認することはできない。

 つまり成るまで駒の正体はわからないのだ。


「狂人は別名『多重人格』。だからプレイヤーは裏切者の太子に成るか、狂人の天狗に成るか選択できる」


「天狗に成ったら『相手の駒を取ると弱体化する』の?」

「ああ」

 狂人は相手の駒を取ると人格が切り替わって村人に戻るイメージだ。

 多重人格だからこそできる使い方である。

「じゃあ今日は人狼将棋で賭けるか。なに食う?」

「私が作る!」

「……お前が?」

「なによ、その目」

「別に」


 不安しかない。

「まあ、作りたいなら作れ。……で、メニューは?」

「パンケーキよ」

「無難ですね」

「自分で作るのに冒険なんてしないわよ」

 瑞穂が材料を混ぜ、フライパンで焼き始める。

「……ちょっと待て」

「なに?」

「膨らんでるじゃねえか」


 火を通したパンケーキがふっくらと膨らみ始めていた。


「パンケーキなんだから当たり前でしょ」

「……パンケーキでこんなに膨らし粉は使わん」

 膨らし粉はベーキングパウダーのことだ。

「そうなの?」

「こんなに膨らませたら積みにくいだろ。1枚1枚にボリュームがありすぎる」

「あ」


「薄く焼いて積め。うちでは厚いのがホットケーキ、薄いのがパンケーキだ」


「はーい。じゃあこれ、あんたのね」

「……お前な」

 分厚く焼き上がったホットケーキを渡される。

 仕方なくホットケーキを薄く切ってパンケーキっぽくする。

 そしてフォークで刺し、バケツ一杯のガムシロップにくぐらせた。

「……胸焼けしそうですね」

「一度やってみたかった食い方です。それにガムシロは砂糖を水分で薄めたやつですから、見た目ほど甘くないですよ」

「串カツをソースにくぐらせる感覚ね」

 言い得て妙だ。

 コーヒーにもガムシロとミルクをぶちこんでかき混ぜる。


「あ、木星コーヒー!」


 白と黒が混じりあい、まるで木星のようになった。

 やはり棋士とパンケーキといえばこの食い方だろう。


 将棋漫画『ハチワンダイビング』ではこういう風に糖分を補給し、脳をフル稼働させて盤上に宇宙を見ていた。


「コケモモのジャムはありますか?」

「ありますよ」

「私も『スプーンなおばさん』やりたい!」

 薄く焼いたパンケーキを座布団のように何段も重ね、コケモモのジャムを塗る。


 『機嫌の悪い男にはパンケーキにコケモモのジャムを付けてやればいい』というのもうなずける味だ。


「ふふ、それなら私はこれよ!」

 先生と同じく座布団のように何段も重ね、たっぷりのハチミツを垂らし、頂上にバターを置いた。

「『漫画でよく出るホットケーキ』っていう名前で漫画に出てくるのよ」

「メタなホットケーキだな」

「そして最後はこう!」

「人形?」

 スプーンで作ったらしき、小さなパンケーキの人形を焼く。


「『大草原の小さな家』に出てきたでしょ。食べる時は手、足、お腹、頭の順番でね。こっちのそば粉のパンケーキは『あしながおじさん』にもちょっと出てたわね」


 ハチミツでもガムシロでもなく、メープルシロップをかけていた。

 よくあるスイーツなだけにバリエーションも豊富。

「んー、泡みたいに軽くて、ブラウンシュガーがたっぷり染み込んでる!」

「……お前、自分のだけ相当気合入れて作ったな?」

「な、なんのことかしら?」

「罰として1枚没収な」

「あー、私のパンケーキ!?」

「では先生も」

「ああー!?」

 自業自得だ。

「さて……」

 腹ごしらえも済んだところで賭け将棋だ。

 全員で無駄にパンケーキを高く積んだから、そこそこの値段になっている。

 是が非でも勝たねばならない。


「よし、双子ゲット!」


「え、2枚同時に取られるの!?」

「片方が死んだらもう片方も死ぬからな。ちなみにこういうこともできる」

 瑞穂から奪った双子を将棋盤に打ち、次の一手で成る。

 すると、


「最大で四つ子に成る」


「ええ!?」

 4枚の駒を同時に裏返した。

 双子は片方が成るともう片方も成る駒。

 なので相手の双子を持ち駒にした場合、最大で4枚の駒が同時に成るのだ。

 双子おそるべし。


「村人を霊能者にする」


「甘いわね、こっちは占い師よ!」

 すかさずこちらの成り駒を元に戻した。

「じゃあ元に戻った村人をもう一回霊能者にする」

「はあ!?」


「敵陣にいる駒だぞ。そりゃ元に戻されたら、次の一手でもう一度成るだろ」


「ならもう一回元に戻すまでよ!」

「かかったな」

「へ?」

 霊能者と一緒に歩をひっくり返す。


「くくく、元に戻るのは強い駒だけじゃない。相手の駒を取って弱体化していた狂人も元に戻るんだ!」


「ぎゃー!?」

 将棋には『成ると弱体化する駒』がいくつかある。

 うかつに元に戻すと自爆してしまうのだ。

「これで詰みだな」

 狂人で人狼を取る。

「こ、こっちにはまだ裏切者がいるんだから!」

「アホか、何で先に人狼を取ったと思ってる」

「え」

「ここで占い師」

 村人が占い師に成った。

「あああ!? 裏切者が村人に戻った!?」

 『人狼の跡を継ぐ』のは裏切者の固有能力。


 占い師の能力で村人に戻れば、当然その能力も失われてしまうのだ。


「あー、もう何で勝てないのよ!」

「コケモモのパンケーキでも食べて落ち着け」

「私のお金でしょ!」


 機嫌の悪い女にはコケモモのジャムも効果がないらしい。


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