人狼はましろさんさんに描いていただきました。
転載禁止。
「まだ使ってない古将棋の駒ある?」
「『神僧』ぐらいだな」
「それ強いの?」
「弱い。ただ『聖燈』に成ると、五路以内にいる高道の成り駒『五里霧』を高道に戻すことができる。拡大解釈するなら『成り駒を元に戻す』能力だな」
「四天王や火鬼が元の駒に戻るんですか?」
「はい」
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神僧の移動範囲
特殊な駒で『神僧以外の駒は取れない』。
ただし移動した後なら、自分の周囲八マスにいる駒を一つ取ることができる。
『聖燈』に成ると、一手で神僧の動きが二回できるようになる。
しかも一手目と二手目の両方で、移動した後に自分の周囲八マスにいる駒を一つ取れる。
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聖域の範囲内にいる成り駒は全て元の駒に戻る。
「聖燈の能力を活かすのなら、強い駒を勢ぞろいさせる必要がありますね」
「なにその地獄」
獅子・四天王・天狗・太子などを加えてデッキを組まないといけない。
悲惨なゲームになりそうだ。
「モチーフは『人狼ゲーム』の役職にしよう」
イメージに合わせてイラストを描いていく。
人狼 玉
村人(市民) 歩
占い師(預言者) 聖燈
成り駒を元に戻す(2回行動はできない)
霊能者(霊媒師) 四天王
幽体離脱してあらゆる駒を飛び越える
狩人(騎士・護衛・用心棒) 獅子
一手で2回動ける
双子(恋人) 天網・地網
2枚1組の駒
片方が成るともう片方の駒も成る
片方が死ぬともう片方も死ぬ
狂人(多重人格・裏切者) 太子と天狗
裏切者 太子 玉(人狼)を取られても負けにならない
狂人 天狗 角の動きを2回できる(相手の駒を取ったらそこで動きは止まる)
「初期配置ではすべての駒を村人にしてもいいな。成らないと能力は発揮できない」
「どこに人狼がいるか、どの駒が何の役職なのか推理する必要があるわけですね」
「はい。もちろん占い師の能力を使えば『範囲内にいる村人の駒の裏を見て役職を確認する』ことができます」
「玉である人狼が成ることはまずない。つまり人狼を取りたいのなら、占い師に成るのがほぼ必須というわけですね」
「想像してたのより人狼っぽいかも」
将棋なので持ち駒制度ありだ。
ただし相手の駒を持ち駒にしても、駒の裏を確認することはできない。
つまり成るまで駒の正体はわからないのだ。
「狂人は別名『多重人格』。だからプレイヤーは裏切者の太子に成るか、狂人の天狗に成るか選択できる」
「天狗に成ったら『相手の駒を取ると弱体化する』の?」
「ああ」
狂人は相手の駒を取ると人格が切り替わって村人に戻るイメージだ。
多重人格だからこそできる使い方である。
「じゃあ今日は人狼将棋で賭けるか。なに食う?」
「私が作る!」
「……お前が?」
「なによ、その目」
「別に」
不安しかない。
「まあ、作りたいなら作れ。……で、メニューは?」
「パンケーキよ」
「無難ですね」
「自分で作るのに冒険なんてしないわよ」
瑞穂が材料を混ぜ、フライパンで焼き始める。
「……ちょっと待て」
「なに?」
「膨らんでるじゃねえか」
火を通したパンケーキがふっくらと膨らみ始めていた。
「パンケーキなんだから当たり前でしょ」
「……パンケーキでこんなに膨らし粉は使わん」
膨らし粉はベーキングパウダーのことだ。
「そうなの?」
「こんなに膨らませたら積みにくいだろ。1枚1枚にボリュームがありすぎる」
「あ」
「薄く焼いて積め。うちでは厚いのがホットケーキ、薄いのがパンケーキだ」
「はーい。じゃあこれ、あんたのね」
「……お前な」
分厚く焼き上がったホットケーキを渡される。
仕方なくホットケーキを薄く切ってパンケーキっぽくする。
そしてフォークで刺し、バケツ一杯のガムシロップにくぐらせた。
「……胸焼けしそうですね」
「一度やってみたかった食い方です。それにガムシロは砂糖を水分で薄めたやつですから、見た目ほど甘くないですよ」
「串カツをソースにくぐらせる感覚ね」
言い得て妙だ。
コーヒーにもガムシロとミルクをぶちこんでかき混ぜる。
「あ、木星コーヒー!」
白と黒が混じりあい、まるで木星のようになった。
やはり棋士とパンケーキといえばこの食い方だろう。
将棋漫画『ハチワンダイビング』ではこういう風に糖分を補給し、脳をフル稼働させて盤上に宇宙を見ていた。
「コケモモのジャムはありますか?」
「ありますよ」
「私も『スプーンなおばさん』やりたい!」
薄く焼いたパンケーキを座布団のように何段も重ね、コケモモのジャムを塗る。
『機嫌の悪い男にはパンケーキにコケモモのジャムを付けてやればいい』というのもうなずける味だ。
「ふふ、それなら私はこれよ!」
先生と同じく座布団のように何段も重ね、たっぷりのハチミツを垂らし、頂上にバターを置いた。
「『漫画でよく出るホットケーキ』っていう名前で漫画に出てくるのよ」
「メタなホットケーキだな」
「そして最後はこう!」
「人形?」
スプーンで作ったらしき、小さなパンケーキの人形を焼く。
「『大草原の小さな家』に出てきたでしょ。食べる時は手、足、お腹、頭の順番でね。こっちのそば粉のパンケーキは『あしながおじさん』にもちょっと出てたわね」
ハチミツでもガムシロでもなく、メープルシロップをかけていた。
よくあるスイーツなだけにバリエーションも豊富。
「んー、泡みたいに軽くて、ブラウンシュガーがたっぷり染み込んでる!」
「……お前、自分のだけ相当気合入れて作ったな?」
「な、なんのことかしら?」
「罰として1枚没収な」
「あー、私のパンケーキ!?」
「では先生も」
「ああー!?」
自業自得だ。
「さて……」
腹ごしらえも済んだところで賭け将棋だ。
全員で無駄にパンケーキを高く積んだから、そこそこの値段になっている。
是が非でも勝たねばならない。
「よし、双子ゲット!」
「え、2枚同時に取られるの!?」
「片方が死んだらもう片方も死ぬからな。ちなみにこういうこともできる」
瑞穂から奪った双子を将棋盤に打ち、次の一手で成る。
すると、
「最大で四つ子に成る」
「ええ!?」
4枚の駒を同時に裏返した。
双子は片方が成るともう片方も成る駒。
なので相手の双子を持ち駒にした場合、最大で4枚の駒が同時に成るのだ。
双子おそるべし。
「村人を霊能者にする」
「甘いわね、こっちは占い師よ!」
すかさずこちらの成り駒を元に戻した。
「じゃあ元に戻った村人をもう一回霊能者にする」
「はあ!?」
「敵陣にいる駒だぞ。そりゃ元に戻されたら、次の一手でもう一度成るだろ」
「ならもう一回元に戻すまでよ!」
「かかったな」
「へ?」
霊能者と一緒に歩をひっくり返す。
「くくく、元に戻るのは強い駒だけじゃない。相手の駒を取って弱体化していた狂人も元に戻るんだ!」
「ぎゃー!?」
将棋には『成ると弱体化する駒』がいくつかある。
うかつに元に戻すと自爆してしまうのだ。
「これで詰みだな」
狂人で人狼を取る。
「こ、こっちにはまだ裏切者がいるんだから!」
「アホか、何で先に人狼を取ったと思ってる」
「え」
「ここで占い師」
村人が占い師に成った。
「あああ!? 裏切者が村人に戻った!?」
『人狼の跡を継ぐ』のは裏切者の固有能力。
占い師の能力で村人に戻れば、当然その能力も失われてしまうのだ。
「あー、もう何で勝てないのよ!」
「コケモモのパンケーキでも食べて落ち着け」
「私のお金でしょ!」
機嫌の悪い女にはコケモモのジャムも効果がないらしい。
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