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東方不敗(ひがしかた・まさる)
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古将棋セット【チーズケーキと釜炒り玉緑茶】

公開日時: 2021年1月13日(水) 13:33
更新日時: 2021年1月13日(水) 13:41
文字数:2,496

「これは『無明』だ」



●□●

□無●

●□□



「どういう駒なんですか?」

「無明は取った駒と入れ替われます」

「無明で飛車を取ると、飛車になれるってこと?」

「逆だ。無明を取った駒が、無明の成り駒『法性』になる」

「取った駒を弱体化させる駒ですね」


「いえ、逆です。法性はクイーンと獅子の動きができますから。かなり強いですよ」


「は?」

「クイーンの動きをした後に獅子の動きはできませんけど。盤上を縦横無尽に走り回れる獅子です」

「……なにそれ、いまいち使い処がわからないんだけど」



●●●●●

●●●●●

●●法●●

●●●●●

●●●●●



●□□●□□●

□●□●□●□

□□●●●□□

●●●法●●●

□□●●●□□

□●□●□●□

●□□●□□●


一手目で『自分の周囲8マスを越えて移動する』と、2回目の行動はできなくなる。

つまり『クイーンの動きを2回することは不可能』。

文字通り獅子の動きと、クイーンの動きしかできない。



「法性を取っても入れ替わるんですか?」

「はい」

「ぶつかると体が入れ替わる。漫画みたいなシチュエーションね」

「個人的には牛鬼のイメージだな」


 『牛鬼を殺したものは牛鬼になる』という恐ろしい妖怪だ。


「あれ? 無明を取った駒は盤上から消えるのよね? その場合、どっちの持ち駒になるの?」

「……そりゃ、無明を取ったプレイヤーのものだろ」

「それだとこうなりますね」

「あ」


 先生が飛将で『自分の無明』を取り、法性と入れ替えて、飛将を『自分の駒台』に置く。


「……これはまずい」

 無明を取った駒を自分の持ち駒にできるということは、同士討ちでも自分の持ち駒になると解釈できないこともない。

 法性は強い駒だ。

 自分で無明を取って法性を作り、なおかつ角将を持ち駒にできてしまう。

 持ち駒は好きな場所に打てるから凶悪だ。


 つまり『初手で法性に成り、なおかつ飛将を好きな場所に打てる状況を作れてしまう』のである。


 無明の配置を変えたとしても、自分で法性を作って貫通駒を持ち駒にできることに変わりない。

「無明を取られた側の持ち駒にするべきね」

 できるだけ弱い駒と交換するのが肝だ。

「でも無明だけだと物足りないわね」

「なら『奔王(ほんおう)』を使おう」

「中将棋のクイーンですね」



●□□●□□●

□●□●□●□

□□●●●□□

●●●奔●●●

□□●●●□□

□●□●□●□

●□□●□□●



「はい。中将棋では成れませんけど、天竺大将棋では『奔鷲(ほんじゅう)』に成れます」

 駒をひっくり返す。

「複数回行動できる駒だっけ?」


「それは大局将棋の奔鷲だな。天竺大将棋の奔鷲は動きこそクイーンだが……。飛車、つまり縦横に走る場合だけ敵味方問わず『駒を何枚でも飛び越える』ことができる」



●□□○□□●

□●□○□●□

□□●○●□□

○○○鷲○○○

□□●○●□□

□●□○□●□

●□□○□□●


 ○の範囲では駒を飛び越えることができる



例 鷲─金─銀─桂─香→王


 間に何枚の駒がいても、それを飛び越えて駒を取ることができる。



「地味に強いわね」

「だな」

 たとえ穴熊に組んでいても、間に7枚の駒がいても、奔鷲なら軽く飛び越えて玉を取れるわけだ。

 どんな駒も飛び越えるので合駒も利かない。





奔鷲に王手をかけられると、



○←合駒



合駒(玉と相手の駒の間に駒を打って盾にする)を打っても奔鷲はそれを飛び越えられるので意味がない



 能力こそ地味だが、実は古将棋で一番重要な駒の1つである。

「奔鷲みたいに天竺大将棋と大局将棋で動きが違うと、動かし方を間違えませんか?」

「……あー、たしかに紛らわしいですね。プロでも金と銀を間違えた人がいますし」

「金と銀をどうやったら間違えるの?」

「金と『銀の成り駒』を見比べてみろ」



歩・桂・香・銀の成り駒は全て金の崩し文字



「駒を美術品として観賞する場合、金に成れる歩・桂・香・銀はそれぞれ漢字の崩し方が違ってて面白いんだが。銀の成金と『金将の金』はそこまで大きな違いがないだろ? 一文字駒だと見間違えてしまう危険性がある。『金を取ったつもりが銀だった』ならともかく。駒台の成り銀を金と間違えて打ったらその時点で反則負けだ」

「古将棋は名前が同じなのに動きの違う駒がいくつかありますから、駒台に置く時は気を付けないといけませんね」

「代わりの駒はないの?」

「じゃあ、こっちにしよう」


 奔王を仕舞い、『車兵』という駒を取り出す。


「車兵は横に2マスしか動けないクイーンだ。でも『四天王』に成るとクイーンの動きで駒を飛び越えられる」



●□□●□□●

□●□●□●□

□□●●●□□

□●●車●●□

□□●●●□□

□●□●□●□

●□□●□□●


横には走れない



○□□○□□○

□○□○□○□

□□○○○□□

○○○四○○○

□□○○○□□

□○□○□○□

○□□○□□○


全方向に走れて、なおかつ駒を飛び越えられる



「じゃあ今日は無明と四天王を使って賭けよう。なにがいい?」


「チーズケーキ!」


「コーヒーとアールグレイと釜炒り玉緑茶(たまりょくちゃ)、どれがいい?」

「か、かま?」


「中国の緑茶と同じ製法で作られたお茶だよ。茶葉が勾玉みたいにぐりっとしてるから玉緑茶。カマグリ茶とも呼ぶ」


「へー。じゃあそれ」

「コーヒーでお願いします」

「あいよ」

 香りが高く、渋味や苦味が少なくて飲みやすい。

 さっぱりしたお茶なので、濃厚なチーズケーキとの相性もいい。

 俺はコーヒーだ。

 それもブラックがいい。

 ブラックコーヒーを頼む常連は、だいたいチーズケーキを注文する。

 王道の組み合わせだ。

 タンポポの根で淹れるタンポポコーヒーもノンカフェインで飲みやすい。

 女性客はだいたいこっちを注文する。

 オススメだ。


「さて……」


 チーズケーキをつつきつつ、肝心の将棋を進める。

 鍵は四天王。

 いかにこれを作るかで勝負が分かれる。


 ……と瑞穂は思っているだろう。


 その裏をかく。

「これでどうだ!」

 大胆に法性で敵陣へ切り込む。

「? 法性取ればいいだけじゃない。法性は強い駒だけど、取ったら私の駒と入れ替わるのよ?」

「へえ。どの駒で法性を取るんだ?」

「え」

 瑞穂の手が止まった。


「ああ、玉じゃ法性取れないじゃない!」


 そう、無明や法性を取った駒は盤上から消えてしまうので、玉や太子で取ると負けてしまうのだ。


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