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東方不敗(ひがしかた・まさる)
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すごろくセット【奈良茶飯とほうじ茶】

公開日時: 2020年12月8日(火) 21:42
文字数:2,143

「何を作っているんですか?」

「『たまごふわふわ』です」


「『東海道中膝栗毛』に出てくる『たまごのぶわぶわ』ですね」


「さすが先生」

 ぶわぶわは『ふわふわ』の訛(なま)りだ。

 玉子を泡だて器でかき混ぜ、煮たてた出し汁の中に流し込んで蒸したものであり、名前の通りふわふわで不思議な食感がある。

 膝栗毛では酒の肴(さかな)だが、袋井では朝食として出されていたらしい。


 くんくん


 先生が鼻を鳴らす。

「この香りはほうじ茶ですね」


「はい。これは奈良茶飯、期間限定メニューの『東海道の名物セット』です」


 川崎名物の奈良茶飯は米や粟、小豆、大豆、栗、その他の野菜などを、ほうじ茶や煎茶で炊いた炊き込みご飯だ。

 今回は煎茶の茶葉を炒ってほうじ茶を作り、それで炊き込んだ。


「茶飯にはとろろ汁をつけます」


「鞠子(まりこ)名物ですね」

 広重の浮世絵『東海道五十三次』にも描かれており、『梅若菜丸子の宿のとろろ汁』と松尾芭蕉も詠んだ東海道で一番有名な名物だ。

 もちろん膝栗毛にも登場している。

 ただし夫婦喧嘩に巻き込まれて食べることは出来なかったのだが……。

 鞠子では麦飯にとろろをかけるが、奈良茶飯用に味を調えてある。


「それと府中の安倍川餅に藤枝の染飯(そめいい)です」


「まるで小判ですね」

「クチナシの実で着色しました」

 染飯はもち米を小判形に伸ばして干したもの。

 『染飯や我々しきが青柏』と小林一茶が詠んだことで有名だ。

 安倍川餅はきな粉餅である。

 市販されてるものだと、きな粉と黒蜜で食べる場合が多い。

「茶飯が炊けるまで安倍川餅でもつまみながら何かしましょう」


「では絵すごろくをしましょう!」


 先生が東海道五十三次のすごろくをプリントアウトした。

「サイコロは何個使います?」

「使いませんよ? これはグ○コゲームです」

「は?」


「じゃんけんして勝った手だけ進めます。グーならグ○コで3マス、チョキはチヨコレイトで6、パーはパイナツプルで6」


「ああ、グ○コゲームってそれですか」

 『グミ・チョコレート・パイン』とも呼ばれるゲームだ。

「では始めましょう」


「じゃーんけーんぽん!」


 グーで俺の勝ちだ。

 3マス進む。

 次もグーで勝って6マス差をつけるものの、チョキに負けてあっという間に追いつかれる。

 しかも、

「じゃーんけーんぽん!」


「またチョキ!?」

 まさかの5連続チョキ。

 逆に12マス差をつけられた。

「……なるほど、そういうことか」

「気づいたようですね」

「あまりに不自然ですから」

 ここまでくればさすがにわかる。

 チョキで勝てば6マス進め、負けても相手はグーだから3マスしか進めない。


 グー 勝てば3マス、負ければ6マス進まれる 

 パー 勝てば6マス、負ければ6マス進まれる

 チョキ 勝てば6マス、負けても3マスですむ


 これはいかにチョキで勝つかというゲームなのだ。

 先生がチョキでくるとわかっていても、12マス差だから勝率の高いグーでは4回勝たないと追いつけない。

 先生がチョキを多用するからこそ俺もグーが多くなり、パーで狙い撃ちされる。

 グーで4回勝つまでに更に差をつけられるだろう。


 だがあえてグーで勝ちにいく。


 なぜなら、

「グ・○・コ・の・お・ま・け」

「……やっぱりその手できましたね」

「まあ、お約束ですし」


「では、これからグーは全部おまけつきにしましょう。でもおまけつきは正式なルールではありませんから……。グーで勝った場合、次の勝負ではグーを出せないというのはどうでしょう?」


「受けて立ちますよ」

「先生はチョキさえ出しておけば負けません。でもアユ太君がチョキを出し続けると決着がつきませんから。あいこが5回続いた場合、おまけ側の勝ちにしましょう」

 駆け引きが要求されている。

 これはグーを出せないからといって必ずしも不利ではない。

 こちらの出す手は限定されるが、同時に相手も出す手が限定されている。

 あいこは4回まで。

 先生がグーを出すタイミングさえつかめれば。


「じゃーんけーんぽん!」


 ……負けた。

 さすがにそんなに甘くない。

 が、感触はつかめた。

 次は負けない。


「じゃーんけーんぽん!」


 勝負は普通のジャンケンに戻り、グーを中心に出し続けてリードを奪う。

 リードといってチョコ(6)とパイン(6)とおまけ(7)の差である1マスの積み重ねに過ぎないが……。

 リードはリードだ。

 ゴールまであとわずか。

 ここで勝てば一気にあがることも……


「え!?」


 できない。

 改めてマス目を数え直す。

 何度数えても残りのマス目の数は変わらなかった。

「うふふ」

 ここでようやく先生の罠に気付いた。

 絵すごろくは東海道五十三次。


 53というのは宿場の数であり、起点の『日本橋』と終点の『三条大橋』は数に含まれていない。


 日本橋をふりだしとするなら、あがりまで54マスということになる。

 チョキとパーだけで進み続けた先生は6×9=54でゴールできる。


 ではそこにグーの7が含まれたら?


「ぐ! 数字が合わないからあがれない!」

 すごろくはゴールにぴったり止まらないとあがることができない。

 しかもこれはグ○コゲーム。

 グーは全部おまけつきになったから、一度に進めるマスは6と7だけ。

 あがるためには何度も勝って数字を調整しなければならず、その間に間違いなく先生にあがられるだろう。


「おまけなんてつけるからですよ? 食玩はお菓子よりおまけの方が高くつくんですから」


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