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東方不敗(ひがしかた・まさる)
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クイズセット【山川と静岡茶】

公開日時: 2020年12月2日(水) 19:11
文字数:3,876

「なにあれ?」

「クイズ大会? しかも日本史限定か。マニアックだな」

 既に長蛇の列が出来ていた。

 ゆうに50人は越えているだろう。

 得意分野ではあるが、さすがに優勝するのは難しそうだ。


「えー、本日はクイズ大会にご参加いただき、誠にありがとうございます。皆さんにはまずペーパークイズを受けていただきます」


「えー!? ペーパーって日本史のテスト!?」

「みたいだな」

 一斉にプリントが配られる。


「問題は全て3の名数問題。いわゆる答えが3つある問題で、最後の1つを答える方式です」


 司会者がホワイトボードに例題を書く。


Q日本三大銘茶といえば『宇治茶』と『狭山(さやま)茶』となに?

A静岡茶


Q日本三大銘菓といえば『越乃雪(こしのゆき)』と『長生殿(ちょうせいでん)』となに?

A山川


「優勝者にはこの静岡茶と山川を差し上げます」

 渋い商品だな。

 商品が気に入らなければ祭の無料チケットと引き換えもできるらしい。

 まあ、銘菓の山川はともかく、普段お茶を飲まない人間が静岡茶を貰っても困るわな。


「それではペーパークイズをはじめてください」

 プリントを表にし、クイズを解き始める。

 基本は日本史の授業で習った問題なのだが、中には


Q徳川家康の三大危機といえば『三河一向一揆』と『神君(しんくん)伊賀越え』となに?

A三方ヶ原の戦い


Q日本史三大ミステリといえば『邪馬台国の所在地』と『坂本龍馬暗殺の実行犯』となに?

A本能寺の変の動機(明智光秀はなぜ謀反を起こしたのか)


 ……のような問題が合間合間に紛れ込んでいた。

 三大ミステリに関しては『東洲斎(とうしゅうさい)写楽の正体』を含めて四大ミステリと称する場合もある。

 いずれにしろマニアックだ。

「うう……」

 俺にとっては中々楽しいクイズではあるのだが、瑞穂は隣で頭を抱え、しまいには机に突っ伏してしまった。

 どうやら瑞穂には荷が重すぎたようだ。

「時間です。それではスクリーンに答えを映しますので、各自で答え合わせをお願いします」

「え、採点しないの?」


「採点はしません。なぜならこのペーパークイズの問題こそが、早押しクイズの問題だからです」


「は?」

「これから皆さんにはクイズ王との早押しクイズ対決に挑んでもらいます。クイズ王はペーパークイズを受けていません。問題を公開したのはクイズ王のハンデというわけですね」

 これぐらいのハンデを貰わないとクイズ王には勝てないということか。

 急いで答え合わせをしつつ、答えを暗記する。

 暗記時間は瞬く間に終わった。

「それではクイズ王、ご挨拶を」


「私がクイズ王です」


「げ」

 司会者に促されて登場したのは先生だった。

「えー、この鹿谷七美先生はかの有名なクイズ番組『国民クイズ』の準決勝進出者(セミファイナリスト)であり、早押しの女王と恐れられていました。準決勝が早押しクイズだったら、先生が優勝していたのではないかと評されていたそうです」

「それほどでも」

 先生ならマジでありえそうな話だから困る。


「優勝条件は参加者の中で誰よりも多く正解し、なおかつクイズ王に勝つことです。ただし一問でも間違えたら失格になります。ご解答は計画的に」


 一発即死か。

 なんてシビアなルールだ。

「それでは時間が押しているようなので、さっそく早押しクイズを始めましょう。それでは第一問。戦国三大悪人といえば『北条早雲(ほうじょう・そううん)』とさ……」


 ピンポン


「へ?」

「松永久秀」

「正解!」

 早すぎる。

 なんだ今の早押しは……。

「第二問。幕末の三舟といえば『勝海舟』とや……」


 ピンポン


「高橋泥舟(たかはし・でいしゅう)」

「正解!」

「……なにこれ、ぜんぜん意味わかんないんだけど」

 先生の早押しスピードに誰一人ついていけなかった。


「皆さん戸惑っておられるようですが、これはイカサマでもトリックでもありません。今回の早押しクイズは全て答えが3つある名数問題。問題文で『2つ目の答えの頭文字』が読まれた時点で答えは確定されます。カルタの決まり字と同じですね。クイズ業界ではこれを『確定ポイント』と呼びます」


Q戦国三大悪人といえば?

A北条早雲・斎藤道三(さいとう・どうさん)・松永久秀


Q幕末の三舟といえば?

A勝海舟・山岡鉄舟(やまおか・てっしゅう)・高橋泥舟


 最初の問題なら北条早雲と斎藤道三の『さ』、二問目なら勝海舟と山岡鉄舟の『や』の時点で答えが確定したということか。

 理屈がわかれば何てことはない。

 これならイケる。

「日本三大妖怪といえば『酒呑童子』とた……」


 ピンポン


「崇徳(すとく)上皇」

「正解!」

 ……答えはわかったのに押し負けた。

 次の問題でも、その次の問題でも(答えが確定する前に押してしまう『お手つき』を除いて)誰も先生より早くボタンを押すことが出来なかった。

 なんで押し負けるんだ?

 反射神経なら俺の方が上のはず。


 不思議に思って先生の手元を見ると、先生はボタンを押しこんでいた。


「……そういうことか」

 この早押しボタンは1センチぐらい押さないと点灯しない。

 先生はあらかじめ0.8センチほどボタンを押しこんでおくことで、俺たちよりも早くボタンを点灯させていたのだ。

 俺もさっそくその技を真似しようと思ったのだが、


 ピンポン


「あ」

 瑞穂がお手つきした。

 このボタンは手ごたえが軽い。

 だから力加減を誤ると、ついボタンが点灯する位置まで押しこんでしまうのだ。

「失格です」

「うう……」

 瑞穂のおかげで命拾いした。

 もう少しボタンが重ければピタッと手前で止められるんだろうが、全員が同じボタンを使っているので交換は無理だろう。

 押し込むのは0.5センチぐらいにしておいた方がよさそうだ。


 ピンポン


 ……だが早押しにおいて、この0.3センチは大きい。

 コンマ1秒の世界でどうしても押し負ける。

 他の参加者がたまたま先生よりも早く押して正解するものの、続けて正解することができなければ優勝することは不可能。

 なにか逆転の一手はないのか?

 先生にはない何かは?

「第10問。維新の三傑といえば西郷……」

「ん?」

「隆盛とき……」


 ピンポン


「大久保利通」

「正解!」

「……」

 なんだ?

 今の問題、とっさにボタンを押すことはできなかったものの。西郷隆盛の時点で正解がわかった。

 なんでだ?


「あ」


 そうだ、ペーパークイズだ!

 最初にペーパークイズを解かせたのはこのためか!

「第11問。三大狂言といえばか……」


 ピンポン


「義経千本桜!」

「正解!」

「よっしゃ!」

「ええ!?」

 ようやく1ポイントゲットした。

 反撃開始だ。

「なんでわかったの?」


「この早押しクイズ、ペーパークイズと答えが違うんだよ。だから状況によって確定ポイントが移動するんだ」


「???」

 今の問題はペーパークイズだと菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)が答えだった。


 早押し問題の答えがペーパークイズと違うとわかっていれば、『か』すなわち『仮名手本(かなてほん)忠臣蔵』の名前が出た瞬間、答えは義経千本桜に確定することが出来る。


 つまり『問題文で2つ目の答えの頭文字が読まれずとも答えが確定する』のだ。


ペーパークイズ


Q三大狂言といえば?

A仮名手本忠臣蔵・義経千本桜・菅原伝授手習鑑



早押しクイズ


Q三大狂言といえば?

A仮名手本忠臣蔵・菅原伝授手習鑑・義経千本桜


早押しクイズでは『ペーパークイズの答えである菅原伝授手習鑑が正解になることはない』ので、忠臣蔵が読まれた時点で千本桜だと確定できる。



 あくまで『ペーパークイズの答えが問題文で2番目に読まれる時』にしか使えない技だが、これは大きなアドバンテージだ。

「第20問。日本三大仇討といえばそ……」


 ピンポン


「元禄赤穂浪士事件」

「正解!」

「よし」

 ペーパークイズの利を活かして着実に先生とのポイント差を縮めていく。


 これならイケる!


 そう思ったのも束の間。

「第21問。秀吉の三大城攻め……」


 ピンポン


「……高松城水攻め?」

「正解!」

「な!?」

 勘で押してきた?

 だがこの早押しクイズ、不正解なら一発で失格だ。

 そんな無謀なことを先生がするとは思えない。

「第22問。戦国の三大水攻め……」


 ピンポン


「忍(おし)城の戦い?」

「正解!」

 ……なにがなんだかわからない。

 先生は前振りの部分で押している。

 1つ目の答えの頭文字も読んでない場所になぜ確定ポイントができるんだ?

 その原理を解明することができないまま、クイズ大会は先生の圧勝で幕を閉じた。


「ふふふ、今日はこれでお茶にしましょう」


 先生は優勝賞品を受け取り、ご満悦である。

「それよりどうやって確定ポイントを作ったんですか? どう考えてもあんな場所に確定ポイントはありませんよね?」


「いえ、ありますよ? クイズの答えは時系列順に並んでいましたから。3つの答えの内、一番年代の新しいものが正解です」


「え」

 慌ててペーパークイズのプリントを広げて確かめてみるが、時系列はバラバラだった。

「バラバラですよ?」


「時系列順に並んでいるのはあくまで早押しクイズの問題です。おそらく先に早押しクイズの問題を作ってから、答えの順番を入れ替えてペーパークイズを作ったんでしょう」


「……なんてこった」

 主催者側にハンデとして与えられたペーパークイズ。

 俺たちは先にペーパークイズを解いてしまったせいで『ペーパークイズと順番が変わっている』と思いこんでしまった。

 実際には変わっていたんじゃない。

 元に戻っていたのだ。


 もしペーパークイズを解いていなければ、俺も早押しクイズの答えが時系列順に並んでいたことに気付けたかもしれない。


 いや、不正解なら一発で失格というあの状況で、問題の法則性に気づいて確定ポイントを早めた先生を褒めるべきか。


 クイズ王の称号は伊達じゃない。


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