越後屋と悪代官はUminosaさん、護衛の浪人は朱身つめさん、動物はemさん、品物はおにずさん、茶室はワコウwacohさんに描いていただきました。
転載禁止。
「茶室将棋を作ってみた」
「千利休とか古田織部の将棋?」
「どちらかというと越後屋と悪代官だな」
「おぬしもワルよのう」
「お代官様にはかないませぬ」
ノリノリだ。
タイトルも『おぬしもワルよのう』にしたほうがいいのかもしれない。
「山吹色のお菓子は?」
「もちろんあるぞ。今日は手詰めモナカだ」
アンを自分で種(皮)に包むモナカだ。
ちなみに種はちゃんと小判の形をしている。
「トッピングはお好みでな」
「美味しそう」
アンコだけでなく、アイスやドライフルーツ、チーズや餅を挟んでもうまい。
トッピングもしやすいのが手詰めの利点だ。
「お茶は焼き菓子と相性のいい玄米茶だな」
玄米茶に煎茶を混ぜて、抹茶でアクセントをつける。
「え、抹茶? 最近ペットボトルの玄米茶に抹茶が入ってるけど、あれ嫌いなのよね」
「これを飲めばどうして玄米茶に抹茶を入れるのかよくわかる」
「はあ……」
疑りながら抹茶入り玄米茶を一口。
「ん、美味しい!」
「だろ?」
もともとモナカと抹茶の相性はいいのだから、うまく玄米茶に混ぜることができれば美味しくなるのも当然。
茶葉にはない米の香ばしさに、煎茶の芳醇な香り、抹茶が余韻を残す。
抹茶がコクと甘味を補い、モナカにも負けない濃厚な味わいになっていた。
「……ペットボトルのお茶がいかにアレなのかよくわかるわね」
モナカをバリボリとむさぼり、瞬く間に玄米茶を飲み干した。
「じゃあ将棋といこう。将棋盤は3×3マスの四畳半だ」
「これならボードとボードを繋いで3×6や3×9マスにしたり、T字、L字、コの字にもなる。もちろん9×9マスで普通に将棋を指してもいい」
「四畳半だけで対局するなら釜ありバージョンの茶室、繋ぎあわせるなら釜なしバージョンだ」
「茶室が舞台なのはわかったけど……。どういうシチュエーションなの、これ」
「ワイロ合戦だ。将棋は『商棋』、つまり商人のゲームだからな」
「は?」
「名前の由来を知るとわかりやすい」
イラストの描かれた駒をテーブルに並べる。
上段は玉(翡翠)と金銀
中段は桂馬と香車
下段は飛車角
護衛の浪人
「金と銀は金(かね)、玉は宝石や翡翠(ひすい)のことだ。桂馬の桂は肉桂(シナモン)、香車の香は香木、飛車は馬車で、角は牛の角(つの)だから牛車だ。歩は護衛だな」
「へー。将棋の駒ってそういう意味だったんだ」
チェスに比べてモチーフがわかりにくい。
プロ棋士ですら海外で普及するときに説明に困るという。
「このゲームではプレイヤーにそれぞれ27枚の駒が与えられ、玉を含む3枚の駒を選んでデッキを組む。9回対局して先に5勝したほうの勝ちだ」
最初に9つの将棋盤すべてに駒を並べる。
「盤ごとの駒数も少ないから難易度は低いぞ」
「3×3だと先手必勝のパズルになりそう。駒によっては初期配置で詰むでしょ」
「だから9番勝負なんだろ。即死を含めて、どう勝ち越すかの戦略がもとめられる」
デッキから玉を排除するというルールでもいい。
その場合『勝利条件は相手を全滅させること』になるだろう。
「私が先手ね」
「好きにしろ」
とりあえずルールに慣れるため、普通の将棋の駒だけで9番勝負する。
勝負はあっさりついた。
「これで俺の勝ち越しだな」
「……おかしいわね、なんで勝てないのかしら。先手必勝じゃないの?」
「ちゃんと戦術を理解してない場合、同じ数なら先に仕掛けたほうが負ける。先手必敗だぞ」
「ええ!?」
「特に歩、金、銀、玉。一マスしか進めない駒を中心に組むのは危険だ。先手の場合、相手が取れる位置に駒が動くだけだからな。後手が先に相手の駒を取ることになって詰む」
「あ、そっか」
○○○
□□□
○○○
※ ○はすべて1マスしか動けない駒
先手は一マス前に動くことしかできない→取られる→取り返す→取られる→玉で取り返す→詰む
お互いに駒が3枚しかなく、将棋盤が3×3マスと狭いのでパターンがわかりやすい。
「この条件を引っくり返したいのなら、飛車、角、香車、桂馬で先に相手の駒を取るしかない。そして相手から奪った駒を打ち、相手に取らせ、それを取り返す。こうすると先後が逆転するだろ」
「なるほど」
飛車、角、香車×2、桂馬×2で6枚。
これを分散させれば5勝4敗で勝ち越せる可能性が高くなるだろう。
「ちなみに玉の駒の裏には越後屋と悪代官のイラストが描かれてる」
「それ、なんか意味あるの?」
「指してみればわかる」
駒を裏返し、適当にデッキを組んで対局開始。
「先手必勝のパターンね」
瑞穂が桂馬で金を取り、
「それはどうかな」
その桂馬を玉で取る。
「え? ここで金を打てば私の勝ちでしょ?」
「打てない」
「は?」
「今までのルールでは玉は宝石や翡翠、つまりワイロであって人間じゃなかった。でも今の玉は越後屋と悪代官だ。このゲームはワイロ合戦。つまり『ワイロを受け取ることができるのは越後屋と悪代官だけ』だ」
「え、桂馬で金を取っても持ち駒にならないってこと!?」
「ああ。『持ち駒にできるのは玉で取った駒だけ』だ」
玉以外の駒はワイロと護衛の歩兵だけ。
ワイロでワイロは受け取れない。
歩も人間ではあるが、護衛が受け取ったワイロを雇い主が使うことはできない。
なので歩で相手の駒を取っても持ち駒にはならないのだ。
「しかも相手の玉を取った場合、ワイロを渡したってことだから『玉を取った駒は相手の持ち駒になる』。つまり負けても次の対局でその駒を使えるんだ」
「ええ!?」
たとえば金で玉を取ったら、相手はその金を持ち駒にすることができる。
次の対局では最初から持ち駒を使えるため、ゲーム性が大きく変わるだろう。
「玉で相手の玉を取ったら?」
「ちゃんと翡翠が持ち駒になるぞ」
「じゃあ玉打とっと」
瑞穂が玉を打ち、その玉でこちらの駒を取る。
「これで私の勝ち!」
「それはワイロの宝石であって人間じゃない。だからその玉で駒を取っても持ち駒にはできないぞ」
「……なんでワイロを受け取るのに、こんなに苦労しなきゃいけないのよ」
「ワイロ合戦だからだよ」
お互いが主導権を握るためにワイロを送りあっているのだから、そう簡単にはいかない。
「じゃあ古将棋の駒も導入しよう。ワイロにできそうなのは水牛、獅子、酔象、孔雀、砲、四天王だな」
ようするに珍しい動物と仏像(仏教の四天王)、大砲だ。
孔雀は推古天皇に、象は徳川吉宗に献上されたという記録が残っている。
越後屋と悪代官の取り引きとは思えないし、茶室にどうやって運んでいるのかも不明だが、細かいことを気にしてはいけない。
3×3マスでの対局なら、先手を取れば獅子、水牛、砲で確実に勝てる。
ただその駒で勝ってしまうと、それ以降の対局では相手がその駒を持ち駒として使ってくるので要注意。
「3×3だと詰将棋っぽいからやだ」
「なら茶室を3つ繋いで3×9にしよう。将棋盤は3つだから2本先取だな」
「次こそ負けないわよ!」
玉を含む6枚の駒でデッキを3つ組む。
「今回は俺が先手をもらうぞ」
「弱い駒ばっか。それで勝てると思ってるの?」
「いや、最初から勝つ気なんてないんだが」
「は?」
「強い駒は他の2盤に集中した。だからこの盤では、玉でお前の駒を取ることにだけ集中する」
「そ、それなら取られる前に取るまでよ!」
「短期決戦なら強い駒で玉を取るしかないぞ。つまり次の対局では、最初から強い駒が俺の持ち駒になる」
「あああ!?」
玉を詰ますにはそれなりに手数がかかる。
手間取るとそれだけ玉に駒を取られてしまう。
強い駒で玉を取ると、次戦では最初から強い駒を持ち駒として使われることになる(持ち駒は好きな場所に好きなタイミングで打てるから強い)。
八方ふさがりだ。
こうなったら手段は一つ、
「……モナカ食べる?」
「おぬしもワルよのう」
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