『定期便』が来たというので俺、ピュア、テレーシア、ラリサの四人は出撃した
。廃墟の空を駆け、飛行型殺戮機械の群れと会敵。
俺とピュアは剣、テレーシアとラリサは銃火器を放ちそれらを撃ち落していく。
今日も順調な調子で敵機を撃墜していけている。
この調子で今日も『定期便』を撃退、と思った所でテレーシアとラリサが声を上げた。
「光輝さん!」
「レーダーに反応! マシンナリーレディが来る!」
マシンナリーレディ! ここ最近は姿を見せていなかった敵戦力だ。俺は刀の柄を握る手に力を込める。
「数は!?」
「1!」
一騎で来る……? 最強のマシンナリーレディ・シビーユでさえ一騎では俺たち四人に敵わなかったのだ。
それを思えば無謀に思えるが……。そんな事を思っているとそのマシンナリーレディが姿を見せた。
小柄な体躯のマシンナリーレディ。
その顔は俺の戦友に違いないのだが、憎悪に染まっていて一瞬、判断が付かなかった。
「エイミーか……!」
「甘粕光輝……!」
憎悪に燃える瞳で俺を睨んで来る。
以前の戦いで通常時の神霊憑依者の力を遥かに凌駕した俺の力で右腕を斬り落とし、主兵装の大型四連装ガトリング・ガンを破壊した、かつての俺の戦友のマシンナリーレディ。
だが、その姿は様変わりしていた。
まず目を惹くのが右腕だ。俺が斬り落とした先には鋭い爪を備えた見るからに機械と分かる腕を装備している。
マシンナリーレディの修復なら元通りの腕を付ける事も可能だろうに。
戦闘に特化して、装備を変更したと見るのが自然だった。
そして、背部には修復された大型四連装ガトリング・ガンにその背後に備えられたマイクロ・ミサイルポッド。
両足の脛にもマイクロ・ミサイルランチャーを備え、俺との戦いで損傷した体を修復すると同時に強化改造したのが見て取れる。
一人で来たのはこの強化改造による自信から、だろうか?
「わたしは甘粕光輝に一騎討ちを挑む!」
エイミーが高々とそう宣言する。
しかし、それに応えてやる程、こちらも甘くはない。
「そんな要求。こっちが飲むとでも?」
「私たちも戦います!」
案の定、ラリサとテレーシアは武装を展開し、自分たちも参戦する構えだ。
ピュアも剣の柄を握り締める。ニヤリ、とエイミーは笑った。
「要求を飲むしかないんだよねー、それが」
そう言い、エイミーは廃墟の一角を示す。
そこにはどこからか避難してきたのか母親と思わしき女性とその娘らしい少女二人が隠れ潜んでいた。
「わたしの要求を断ったら殺戮機械に命令してすぐにあの親子は蜂の巣よ。さあ、甘粕光輝。わたしと一騎討ちよ」
「……分かった」
どうやら要求を飲むしかないようだ。
ピュアにテレーシア、ラリサが心配そうな目を寄越すが、エイミー相手なら一対一でも勝てる、との思いを抱き、前に出る。刀に神気を込めて振りかぶる。
「ふふふ、この間の礼をさせてもらうわよ」
「いつでも来い、エイミー」
「地球人類如きが気安くわたしの名前を呼ぶな!」
その言葉と共に両足のマイクロ・ミサイルランチャーから放たれたミサイルが戦端の火蓋を切った。
迫り来るミサイルを刀を振るい、切り払う。
直後、エイミーの主兵装のガトリング・ガンが唸りを上げて、回転、おびただしい数の弾丸が俺に向って殺到する。
これは流石に全て切り払いきれない。神気を盾に防御し、ガトリング・ガンの照射を耐える。
「ははははは! いいザマね!」
「その調子に乗りやすい所……変わっていないな!」
それが嬉しくもあり、悲しくもある。目の前にいるのは間違いなく、長い時間、自分と共に戦ってきた戦友エイミーなのだと。
「地球人類風情がそんな事を言うな!」
背部のマイクロ・ミサイルポッドもせり上がり、そこからミサイルを無数に放つ。
これらの一斉射撃に俺は神気を解放して耐えるしかない。
遠距離でも刀を振るえば神気は飛ばせるがその威力はあまりアテにならない。
少なくともマシンナリーレディを相手にするには心許ないのは確かだ。
ならば接近して斬り付けるしかない。
一斉射撃を耐えつつも徐々に前進し、エイミーとの距離を詰めて行く。
そして、ある程度まで近付いた所で一気に神気を放出。
ジェット噴射の要領で前に体を飛ばし、エイミーに肉薄。
刀を振るう。エイミーはこれを鋭い爪の付いた機械化した右腕で受け止めた。
神気を込めた斬撃を受け止めるとは。人間の腕から武装腕に変えたのは伊達ではないらしい。
俺は刀を一旦、引き、再度斬り付ける。エイミーの機械腕がそれを受け止める。
「近付けば勝てると思った? ざんね~ん。そう上手くはいかないのでした」
「はっ、そういう所も昔と同じだ!」
「生意気を言うな、甘粕光輝!」
こちらからばかり攻撃させてくれる程、甘い訳ではないようだ。
左手の普通の腕でもレーザー・ブレードを構え、右手の機械腕の爪と合わせてこちらに斬りかかって来る。
コンビネーションで繰り出される斬撃をあるいは回避し、あるいは刀で受け止め、弾く。
以前よりは遥かに接近戦の能力が上がっている。
それでもほぼ接近戦だけを頼みに戦ってきた俺に比べればまだ劣る。
俺はそうエイミーの動きを見て推察した。
斬り合いながら、神気を刀に込める。あの時のような規格外の力は出せない。
それでも今の状態でもこのパワーアップしたらしいエイミーを倒す事は出来ると判断する。
刀で斬撃を繰り出す。
それをエイミーは右腕の爪と左腕のレーザー・ブレードで受け止める。
そうして斬り合いが続き、今だ! と俺が思った瞬間。
「っ!?」
エイミーの前面のスラスターが噴き出し、俺の体を後ろに吹き飛ばす。
距離が空いた。ここはガトリング・ガンの射程だ!
エイミーの主兵装のガトリング・ガンが放たれ、俺は慌てて刀に込めていた神気を体に纏って防御に回す。
ガトリング・ガンの照射を神気で受け止める。
「く、なかなか生意気!」
苛立った様子でエイミーがガトリング・ガンの勢いを強くする。
それらの銃火に晒されつつ、なんとか神気の壁でその砲撃を耐え続ける。そこに。
「光輝さん!」
ピュアがエイミーに斬りかかった。
エイミーは不意を突かれたものの左腕のレーザー・ブレードでピュアの剣を受け止める。
小型ミサイルが無数に放たれ、エイミーに飛ぶ。それらをエイミーはガトリング・ガンで撃ち落とした。
「ピュア! ラリサ!」
「お前たち! 人質は……」
「人質も、それを撃つ殺戮機械も、もういない」
慌ててエイミーが叫ぶが冷静にラリサは返す。
確かに周りを見渡せば俺とエイミーが一騎討ちしていた間に倒したのか飛行型殺戮機械は全て撃墜されており、母子の所にはテレーシアが駆けつけていた。
ち、と舌打ちするエイミー。
「多勢に無勢。流石に退くわ」
スラスターを噴かせてエイミーがこの宙域から飛び去って行く。
ラリサは追撃しようとしたようだが、相手のスラスターの出力も強化されていて追いつけないと判断したようであった。
それにしても戦況不利と見るとさっさと撤退か。
鮮やかな退き際だ。俺の知るエイミーはここまで合理的な判断が出来る少女ではなかったと思うのだが。
なんにせよ棚からぼた餅的に避難民の母子を保護出来たのは良かった。
レジスタンスの拠点に連れて行ってあげる事にしよう。
そう思い俺もピュアもラリサも地上に降り、母子を保護しているテレーシアと合流する。
避難民の母子は栄養失調でか衰弱している様子だ。
歩くのも辛そうで俺が母親に肩を貸し、テレーシアが娘を抱き上げる。
母子は俺たちに何度も礼を言っていたが、とりあえずこの状況下で生きている新しい人類と巡り会えただけでも幸運だ。
そういう意味ではエイミーに感謝しないといけないな、と思うのであった。
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