鮮血を巻き散らし、地面に落ちていくピュア。
その姿を見た瞬間、俺の中で何かがキレた。
全身からこれまででは有り得ない量の神気が放出され、立ち上る。
その勢いに気圧されて敵、マシンナリーレディが一旦、後ろに下がる。
その神気の勢いはその余波だけで近くに浮かんでいた雑魚の飛行型殺戮機械を破壊した。
何だ、これは?
自分でも分からない。分からないが、何かとんでもない力が目覚めたらしい事は事実だ。
俺は刀の柄を握り締める。刀にも圧倒的な神気が宿っている。その凄まじさは刀の刀身を飛び越してその先まで神気の剣が伸びる程だ。
とてつもない力に呆気に取られているのは敵だけではなく、味方のテレーシアとラリサも呆然としている。
そんな中で真っ先に我に戻ったのは敵、マシンナリーレディ・ミロスラーヴァだった。
「何だか知りませんけど、これで蒸発しなさい!」
ミロスラーヴァの大型四連装エネルギー・キャノンがこちらに向けられる。
強化される前の大型エネルギー・キャノンでも神気を纏っていても喰らえば致命傷になった威力を保有している俺が知りうる限り、最強のマシンナリーレディの武装だ。
そこから極太のレーザー光が放たれ、俺に襲い掛かる。
「光輝さん!」
「光輝!」
テレーシアとラリサの悲鳴が響く。
だが、俺は冷静だった。今の俺ならこれくらい大丈夫。
その確信が不思議と満ちていて、レーザー光に体が飲み込まれる。
「う、嘘でしょう……!?」
ミロスラーヴァの驚愕の声が響く。
破壊力にかけては最強のミロスラーヴァの大型エネルギー・キャノン。
それをまともに受けても尚、俺の体は健在だったからだ。
体に纏った神気が全てのエネルギーを弾き飛ばし、全くダメージを受けなかった。俺は刀を構える。
「行くぞ、お前たち」
そうして、敵、マシンナリーレディに向って空を駆ける。
美夏が大型化したミサイルランチャーと腰のレール・キャノン、クレサンスが両腕のガトリング・ガンと背中の三門のエネルギー・キャノン、エイミーが四門のガトリング・ガンを放って迎撃するがそれら全ての直撃を受けて尚、俺はノーダメージで前に進む。
一番前に出ていたクレサンスに襲い掛かる。
クレサンスは咄嗟に右腕のガトリング・ガンを収納し、代わりにレーザー・アックスを取り出し、俺を迎撃する。
俺は神気を込めた刀を振るう。刀とレーザー・アックスがぶつかり合う。一太刀。それだけで相手のレーザー・アックスは砕け散った。
「な、馬鹿な!」
クレサンスの驚愕の声。それには構わずクレサンスの体を刀で切り裂く。
「ぐ、ごほっ……!」
鮮血が舞い、クレサンスの体が切り裂かれる。
そのまま連続して刀で切り裂き、クレサンスは地面に墜落する。
「こ、こんな、馬鹿な……!」
それが遺言になった。
クレサンスを撃墜した後、俺は美夏を見る。
俺の幼馴染み。しかし、今は地球の敵にして、ピュアの命を奪った憎き仇。
俺は刀を構える。大型化したミサイルランチャーからミサイルが放たれ、俺に襲い掛かって来るが、それら全てを体で受け止めても俺はなんともなかった。
「く、甘粕光輝!」
美夏が苛立ち気に言う。俺は構わず突っ込む。その前にエイミーが立ち塞がった。
「このお!」
四門のガトリング・ガンが唸り、背部マイクロ・ミサイルポッドから小型ミサイルが発射される。
その右手にはレーザー・ブレードが握られている。
もはや相手にもならない、と俺は確信した。
「邪魔だ!」
通り抜けざまに刀を一閃させる。
エイミーの右腕が宙に舞った。右腕を切断され、エイミーは悲鳴を上げる。
そこに神気を放つ。放たれた神気はエイミーの背中の四門の大型ガトリング・ガンに命中し、それを破壊した。
全ての銃身が爆発し、その勢いでエイミーの体が前方に押し寄せられる。
「く、撤退! 撤退ですわ! 甘粕光輝は未知の力に目覚めたのですわ!」
ミロスラーヴァが叫ぶ。
叫びながら腕部マイクロ・ミサイルランチャーをこっちに撃って来る。
それを喰らっても痛くも痒くもない。気にせず刀を振るおうとして、ミサイルが俺の眼前で爆発し、閃光を放ち、目くらましとなる。
「閃光弾か……!」
その光が晴れた先には三人のマシンナリーレディはスラスターを噴かせて引き上げて行っていた。
その背中を見送り、俺はテレーシアとラリサの元に戻る。
「こ、光輝さん! その力は……!」
「とんでもない力。光輝……」
二人共驚いている様子であった。
それよりも、と俺はピュアが落下した所に行く。そこには血を流し、もはや物言わぬ体となったピュアの姿。
「ピュアちゃん……」
「ピュア……ごめん。僕たちが未熟なばかりに……」
テレーシアもラリサも沈痛な面持ちをするが、悪いのは二人ではない。
異星のマシンナリーレディたちの方だ。
それを実感しながら、せめて亡骸だけでも拠点に連れ帰って葬ってやるか、と俺がピュアの体を抱き上げた時、信じられない事が起こった。
「な、何!?」
致命傷を負ったはずのピュアの体。
それが光に包まれる。眩い光に思わず俺もテレーシアもラリサも目を覆う。その光が晴れた後、ピュアの体は……。
「傷が……ふさがっている……!?」
有り得ない事だった。
美夏のレーザー・ブレードで切り裂かれた傷が完全にふさがっているのだ。そして、
「う……」
「ピュア!」
ピュアが声を発する。それも有り得ない事。俺たちは驚愕に包まれる。
「こ、光輝、さん……? わたしは……?」
「ピュア! 無事なんだな!?」
「は、はい……なんとか……」
なんとか、ではない。
ピュアは死んでいたはずなのだ。それがあの謎の発光現象の後、生き返った……?
俺は困惑しつつもとりあえずピュアが生きている事を喜ぼうとした。
「ピュ、ピュアちゃん……」
「嘘? 本当に……」
テレーシアとラリサも驚きを隠し切れない様子でピュアの顔を覗き込む。
それにピュアは少し困惑した表情を浮かべると、遠慮がちに口を開く。
「あ、あの、光輝さん……」
「ん、なんだ?」
「その、自分で立てますから……」
そう言ったピュアを道路に下ろすとピュアは二本の足で立ち上がって見せた。
信じられない。あれだけの血を流していたのに、今はなんともなさそうだ。
服にこびりついた血痕だけが致命傷を負っていたはずの証拠となって残る。
「どういう事……これが神霊憑依者の力?」
顎に指を当てて、考察していた様子のラリサが俺の方を見る。が、俺にもそんな事分かるはずがない。
「分からない。神霊憑依者が死にかけた、あるいは死んだ例は今が初めてだから……」
「じゃあ、光輝も致命傷を負っても生き返れるって事?」
「それも分からん……」
まさか確かめるために自分自身を刺す訳にもいくまい。
とはいえ、神霊憑依者が起こして来たこれまでの奇跡を考えればそれくらいの事は出来ても不可能ではないかもしれない。
そもそもなんの強化改造もしていない人間の身で空を飛び、マシンナリーレディと互角以上の戦いが出来る時点で致命傷を負った身から生き返る事並に有り得ない事態である事に違いはないのだ。
「光輝さん。マシンナリーレディたちは撃退したんですか?」
「あ、ああ……なんとか」
「ピュアちゃんがやられた時に光輝さん、凄い力を出したんですよ」
「俺のピュアをやったな! ……って感じだったね」
終わってしまえば笑い話なのか、俺をからかうような事をテレーシアとラリサがピュアに言って聞かせる。
ピュアは少し頬を赤らめた。
「そ、そうですか……それはもしや、以前から光輝さんが言っていた神霊憑依者の真の力?」
「そうかもしれない」
あの力は今、思い返しても尋常ではなかった。
ミロスラーヴァの大型エネルギー・キャノンをさらに強化したものの直撃を受けてもなんともないとは。
普通では有り得ない。神気を全て防御に回してもダメージは負うはずなのだ。それを全て防ぎ切った。
あの時のような力をもう一度出せるだろうか、と思うが出せない気がした。
火事場の馬鹿力的なものだったのか……?
謎を抱えつつも俺たちはレジスタンスの拠点に戻るのだった。
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