マシンナリーレディは宇宙でも活動出来るようであるが、神霊憑依者は果たしてどうか。それがここ最近の俺の頭を悩ませている事だった。
いつまでも防戦一方ではいられない。
こちらから宇宙にあるであろう異星の拠点に攻め込み、壊滅させる。
そうする事でしかこの侵略を防ぐ手立てはない。それなら俺たちも宇宙に出る必要がある。
こちらの戦力であるマシンナリーレディは三人。
テレーシアにラリサ。そして加わったばかりのペルニルだ。
それに俺とピュアを加えて五人で異星の拠点を潰す。
それが出来れば異星への効果的な反撃となる。
それが可能かどうか。
宇宙空間は空気がないというだけではなく、放射能も飛び交っている無法地帯だ。
マシンナリーレディなら大丈夫のようだが、神霊憑依者はそれに匹敵、あるいは凌駕する戦闘力を持つとはいえ、体はただの人間。宇宙に出る事には不安が残る。
しかし、テレーシアとラリサ、ペルニルの三人だけを送るのもそれはそれで問題がある。
俺やピュアも出来る事なら異星の拠点の襲撃に加わり、異星の拠点を撃破したい所だ。
そんな事を思っていると、ペルニルが飛び込んで来た。
「大変よ、光輝! レーダーに未確認飛行物体が感知されたわ!」
「なんだって!? 『定期便』じゃないのか!?」
「数は1! 間違いなくマシンナリーレディよ!」
単騎で来るとは。それなら確かに殺戮機械ではなくマシンナリーレディだろうが……。
「分かった。迎撃に出よう」
一も二もなく俺とピュア、テレーシアにラリサ、ペルニルはレジスタンスの拠点から出撃した。
この拠点の位置を異星の連中に知られては堪らない。
そうして空に出たのだが、やって来た者は意外な姿をしていた。
「マシンナリーレディ……じゃない?」
ラリサが怪訝そうに言う。
空を駆けて、こちらに迫っていたのは俺と同じくらいの年の青年だった。
マシンナリーレディではない。しかし、空を飛んでいる。
「お前はマシンナリーレディじゃないのか!?」
俺は思わず問い掛ける。
青年はきつめの視線をさらに険しくすると怒鳴った。
「見りゃわかんだろうが! 俺はアゴルモンアの尖兵じゃない!」
「マシンナリーレディ以外で空を飛べるなんて……」
「……神霊憑依者ですか?」
ピュアの言葉をテレーシアが引き継ぐ。それに青年は頷いた。
「俺の名はグレン。神霊憑依者だが、この星の人間ではない」
「この星の人間じゃない……?」
「じゃあ、異星の手先?」
俺たちは警戒した面持ちでグレンとやらを見る。
グレンは不愉快そうに言った。
「アゴルモンアの尖兵ではないと言っただろう。この星を襲う気はない。むしろ救いに来たんだ」
グレンの言う事を素直に信じられる訳ではないが、嘘は言っていないように思えた。
「救いに来たとは、どういう事かな?」
ラリサが俺たちを代表して口を開く。それにグレンは答える。
「アゴルモンアは星々に殺戮機械とマシンナリーレディを送り込む拠点をその星の大気圏上に築きブレインの指示で星を襲わせている。それを撤退させるには大気圏上の拠点を潰しブレインを叩くしかない」
それは初めて聞く異星の知識だった。
が、俺が予想していた内容とそこまで外れている訳ではない。当たらずとも遠からずといった所か。
「それじゃあ、貴方はその拠点を潰してブレインを叩くのに協力してくれるって事ですか?」
テレーシアが問い掛ける。グレンは頷いた。
「そっちはマシンナリーレディが三人に神霊憑依者が二人か。それに俺を加えて六人。アゴルモンアの拠点を潰すには充分な戦力だ」
「拠点を潰すって拠点は大気圏上……宇宙にあるんだろ? マシンナリーレディは宇宙で活動出来るみたいだけど、俺たち神霊憑依者は……」
俺が問い掛けると、グレンはハッキリと答えた。
「神霊憑依者も宇宙空間での活動は出来る。じゃないと俺が母星からこの地球とか言う星までやってこれないだろうが」
「母星、と言いますと……貴方は宇宙人?」
「お前たちから見ればそういう事になる。そして、アゴルモンアの軍勢に文明を壊滅させられた仲間だ」
ピュアの言葉に頷き、グレンは言う。
こいつの星も異星の連中に壊滅状態に陥らされたのか。
しかし、そこから異星の連中を撃退するための術を知っている。
「協力して……くれるのか?」
俺が慎重に問い掛ける。ふん、とグレンは鼻を鳴らした。
「そうでなければこんな所までこねえよ。そこの神霊憑依者二人!」
「ん?」
「は、はい!」
いきなり俺とピュアを名指しでグレンは呼ぶ。
「お前たちは『覚醒』まで行ったのか?」
聞きなれない単語が出て来た。
覚醒。神霊覚醒者の事。つまり、二回だけ発現した俺のあのとんでもない力の事か。
「俺は二回ほどそれらしき状態になれた。だが、自由にはなれない」
「それじゃあ、困るな。『覚醒』出来る神霊憑依者が俺一人だけだと異星の拠点を潰せない恐れがある。すぐに身に付けろ」
「そう言われてもな……」
あれから自由にあの状態になれるようにしようと鍛錬は重ねている。悲しい事に一向に成果は出ていないが。
「そもそも貴方は信用出来るのかしら」
疑りの目をラリサはグレンに向ける。
グレンは少し眉根を寄せたが「まぁ、それも仕方がないか」と言う。
「とりあえず、証拠になるかは知らないが、今、ここに向かって来ているマシンナリーレディ程度は退治してやるよ」
「えっ! マシンナリーレディが向かっているのか!?」
俺はテレーシアたちを見る。彼女たちは首を横に振る。
「私たちのレーダーじゃ探知出来ていないけど……」
「『覚醒』した神霊憑依者の探知能力はマシンナリーレディなどより上だ。すぐに来る」
「嘘……あ、本当に来た。数は4!」
ラリサが言う。
このグレンの探知能力は確かにマシンナリーレディを上回っているようだ。
現れたのは最強のマシンナリーレディ・シビーユ。
美夏にミロスラーヴァ、エイミーという面子だ。
前回の戦闘の傷は修復が終わっているらしい。油断できない相手ばかりで俺も気を引き締める。
「見慣れないヤツらがいるわね……」
エイミーがペルニルとグレンを見て、呟く。二人はハッキリと答えた。
「私はペルニル。あんたたちと違って地球を裏切らなかったマシンナリーレディよ!」
「俺の名はグレン。神霊憑依者だ」
二人の名乗りに四人の敵、マシンナリーレディたちは僅かに動揺を見せる。
「神霊憑依者が、もう一人……?」
「甘粕光輝とそこの少女だけではなかったのですか……?」
美夏とミロスラーヴァが怪訝そうにこちらを見る。
「なんであれ、蹴散らすまでです」
シビーユがそう言い、エネルギー・キャノンを展開する。
その出力は高くまともに喰らえばひとたまりもない。
「この! させるかっての!」
ペルニルがレール・キャノンと右手に持ったガトリング・ガンを同時に放ち、シビーユを攻撃するが、シビーユはバリアを張り、それを防ぐ。
テレーシアもエネルギー・キャノンとガトリング・ガン。ラリサも四門のエネルギー・キャノンを放つ。
これに相手側のマシンナリーレディも砲火を放ち対抗し、撃ち合いになる。
「ふふふ、エネルギー充電完了。消し飛びなさい!」
その間にエネルギーのチャージを終えたシビーユが大型エネルギー・キャノンを放って来る。
その閃光にしまった、と思ったが。
「はっ!」
グレンが力を込める。
するとグレンから凄まじい量の神気が放たれ、その雰囲気も変わる。これは神霊覚醒者!
グレンはそのまま前に出て迫り来るエネルギー・キャノンのレーザー光に剣を振るう。
神気を纏った剣が迫り来るレーザー光を切り裂き、雲散霧消させた。これに敵味方双方は驚く事になった。
「そ、そんな馬鹿な!」
「シビーユのエネルギー・キャノンを!?」
シビーユが驚愕の声を発し、ミロスラーヴァも続く。美夏もエイミーも驚愕している様子だ。
だが、それはこちらも同じ事。俺は呆然とし、ピュアも目を見開き、テレーシア、ラリサ、ペルニルも砲撃をする事も忘れてグレンを見る。
神霊覚醒者の力。それを見せ付けられた格好だった。
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