「そうか。神霊憑依者の更に上か」
状況報告に来た俺たちにリーダーと共にいたブラッドは喜びのにじみ出た声を出した。
言おうか言うまいか迷ったのだが、二回、その現象が起こったのだ。報告しない訳にはいかない。
俺が神霊憑依者をも遥かに上回る神霊覚醒者とでも言うべき力に目覚めマシンナリーレディたちを蹴散らしたという事は。
「その力があれば頼もしいね。甘粕くん。……だが、いつでもなれる訳でもないのだろう?」
確かめるように俺に訊ねて来るリーダー。俺は頷いた。
あの力はマシンナリーレディですら一蹴するくらいの規格外の力だが、いつでもなれる訳ではない。
「そうですね。最初になった時からいつでもなれるようにと鍛錬は積んでいるんですが……」
「ふむ。それだけの力があれば、是非とも頼りにしたい所であるが……まだいつでもなれる訳ではないのか」
リーダーはまだ、と言ったが正直、今後もいつでもなれるようになれるかは怪しい所だと思った。
ラリサの言葉ではないが、あの力は鍛錬などで身に付くものではないのかもしれない。
もっと偶発的要因が必要でその時限りの力なのかもしれない。その解釈の方がしっくりくる。
「あの最強のマシンナリーレディ・シビーユをも一蹴したんだろう? その力は凄いな」
ブラッドは笑みを浮かべて俺に言う。
あの最強のマシンナリーレディですら敵ではないというのは自分でも凄いと思う。
シビーユは絶対的な防御力を誇るバリアを張れるだけで最強の称号を手にした訳ではない。
その戦闘技術もマシンナリーレディの中では最上位に位置していて、それがあってこその最強の称号だ。
それをいともあっさり下してしまった。
神気を込めた剣がシビーユのバリアを無効に出来る事を踏まえてもあの力の凄まじさは今更、疑うまでもない。
あの力をいつでも出せるようにしておけば、異星の軍勢にも立ち向かえる。あの時と同じくその実感を抱く。
「異星の奴らも今はまだ大人しいがいずれ本格的にこっちの掃討に乗り出すかもしれない。その時に備えて甘粕には是非ともその力をいつでも発揮出来るようにしておいて欲しいもんだな」
「頑張ります」
「ああ、頼むぞ」
異星の本格侵攻か。あまり考えたくはない事だが、それは有り得る事態として覚悟はしておかねばならない事だろう。
自軍に加えたマシンナリーレディも総動員して、地球上の残存勢力を掃討する。
いつそんな時が来てもおかしくはない。それを心に刻みつつ、俺たちはその場を辞する。
「リーダーさんもブラッドさんも喜んでいましたね!」
ピュアが嬉し気で誇らしげな声を上げる。
俺が褒められた事が嬉しいらしい。そんな姿には思わず頬も綻ぶというものだった。
「光輝さんのあの力があれば異星の軍勢なんて敵じゃないですからね。喜ぶのは当然です」
「でも、まだ自由にあの姿にはなれない。そうだね、光輝?」
歓喜するピュアとテレーシアだが、ラリサが現実を突く言葉を言う。俺は頷いた。
「ああ。あの状態に自由になるのは無理だ。さっきの戦闘でなれたんだから、その流れで……とも思ったんだが、上手くいかなくてな……」
「ふむ。自転車の乗り方や水の泳ぎ方などのようなものとは根本的に異なるもののようだね」
いわゆる、長期記憶ってヤツか。あの力はその分類ではないらしい。
なんとか身に付けられないかと思うのだが……。
「光輝さんだけじゃなく、わたしもあの状態、神霊覚醒者になれるんでしょうか?」
そんな折、ピュアが疑問を挟む。
俺がなれたんだから同じ神霊憑依者もピュアもなれるだろう。そう思った俺は頷く。
「多分、なれるんじゃないか? なり方は分からないけど、ピュアも俺と同じ神霊憑依者だしな」
「そうですか。わたしもあれだけの力を手にする事が出来れば皆さんを守る事が出来ます。わたしもあの力を習得を目指したいです」
「光輝さんにピュアちゃん。二人があの力を手にすればもう天下無敵ね」
テレーシアが笑みを浮かべる。ピュアにもあの力が宿れば確かに凄い事だろう。
「まぁ、光輝でも自由にあの状態になれてない今じゃなんと言えないけどね」
やはり現実を突くラリサの言葉。
実際問題。先のあの状態、神霊覚醒者になった事のある俺でもあの状態に自由になれていないのだから仕方がない。
これ以上、この話題を続けるのも何だったので俺は話題を変える事にした。
「それにしてもマシンナリーレディたち、それなりの手傷は与えたけど、また出て来るかな……」
「修復が終わればまた戦線に投入されてくるだろう。修復が完了していない状態でも来るくらいだし」
「だよな……」
ラリサの言葉に頷く俺。そんな俺にラリサは予想外の事を言った。
「だが、マシンナリーレディの修復が出来るという事はこの地球からそう遠く離れていない位置に異星の拠点があるのかもしれない。大気圏上、言ってしまえば地球の上空とか」
それは盲点だった事だ。
確かに、殺戮兵器を送り込んで来ている事と言い、マシンナリーレディの修復から強化改造までこなせるのならそこまで遠い位置ではない所に異星の拠点があると考えるのが自然だ。
「なら、そこを潰せば……」
「異星の侵攻を止められるかもしれませんね!」
思わず気が逸る。テレーシアも意気込みを語る。だが、ラリサは思案顔だ。
「難しいとは思うけどね。異星の拠点なら防衛もしっかりしていると見るべきだ。今、人類に味方しているマシンナリーレディを総出でかかっても落とせるかどうか。神霊覚醒者の光輝がいれば分からないけど……」
「俺の神霊覚醒者としての力ならそこいらの奴らには負けないけど、異星の拠点ともなるとどんな奴らが控えているか知れたものじゃないな……」
大量の殺戮兵器にマシンナリーレディの大群。
さらにはマシンナリーレディ以上の力を持った殺戮兵器まで控えているかもしれない。
攻め込める手段が出来たとしても安易に攻め込むのはよした方がいいだろう。
そもそも、今はその攻め込む手段からしてないのが現状なのだが。
「大気圏上、地球の超上空にあるってのなら、攻められない事もなさそうなんだけどな……」
「マシンナリーレディなら問題なく到達出来そうですね。敵、マシンナリーレディは実際にそうしている訳ですし」
テレーシアの言う通りだ。
敵のマシンナリーレディは問題なく拠点まで帰還している。
それならばこちらのマシンナリーレディもそこに向かう事は出来るはずだ。
ほんのわずかに見た光明に精神が逸るのを感じる。
これまでは防衛に徹するしかなかった中でこちらから攻め込む糸口のようなものが見えたかもしれないのだ。
逸って当然であろう。
そう思いつつ、テレーシアとラリサと別れ、ピュアと二人でいつも通りの鍛錬を行う。
目的は勿論、神霊覚醒者に常時なれるようにするためのものだが、そう上手くいかず俺もピュアもお互いに神気を消耗しただけに終わり、あまり前に進んでいる気はしなかった。
いや、日々の積み重ねが大事だと言うのは勿論、否定しないが。
そうして、寝袋に包まって眠る。マシンナリーレディにあれだけの損害を与えたのだからしばらく異星の侵攻はないだろう。そう、油断していた。
翌日、俺は叩き起こされた。
「大変だ! 甘粕! 大型の殺戮機械がこの近くを行軍している!」
「なんですって!」
大型の殺戮機械……マシンナリーレディが異星の側に付いてからはあまり見なくなった存在だ。
それでもその脅威が消えた訳ではない。
ピュアやテレーシア、ラリサにも声はかかっているだろう。
すぐに迎撃に出なければならない。俺は慌てて拠点から飛び出すのだった。
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