燃えるレジスタンスのキャンプ。
あの中にはまだ生存者もいるのだろうが、助けに行く余裕はない。
俺は刀を手に、神霊を宿した体でつい先ほどまで仲間だった少女四人。
マシンナリーレディ四人と向かい合っていた。
マシンナリーレディ四人はこのレジスタンスのキャンプを焼き払い大量の人々を虐殺した。
許せる存在ではないが、信じられないという思いも未だある。
甘ちゃんなのだろう。
これだけの事をやられておきながら何かの間違いではないのかとの希望にすがっている自分もいる。
しかし、それは儚い望み。
マシンナリーレディ四人は異星の使者だったのだ。
ならば地球人類の殺戮を行うのは道理。俺はそれに対抗しなくてはならない。
マシンナリーレディの力は異星がもたらした罠だったようだが、俺の神霊憑依者の力はそうではないようだ。
それ故にこの四人は俺を排除しようとしている。
刀を構え、四人と向き合う。
マシンナリーレディ四人は再び武器を展開し、俺に襲い掛からんとしている。
「それじゃあ、わたしから行くよ」
幼げな少女、エイミーが嗜虐的な笑みを浮かべ、多くのレジスタンスメンバーや子供たちの命を奪った肩部ガトリング・ガンを俺に向けて放って来る。
迫り来る弾丸を刀と神気を振るってはたき落とす。
次いで、美夏の両肩のミサイルランチャーが来る。
春沢美夏。
俺の幼馴染みの少女。
それも今では俺の、いや、地球人類の敵だ。
迫り来るミサイルを棒立ちで受けてやる道理はない。
俺は地を蹴り、駆ける。一気に接近して、刀で斬りかかる。
刀を振るい、神気を飛ばして攻撃する。遠距離攻撃はこちらも出来る。
マシンナリーレディ四人は散開してそれを避ける。
ミロス……いやミロスラーヴァは両肩の長い方針のエネルギー・キャノンにエネルギーを通電させ、集束発射を目論む。
こちらに放たれた太い光線を俺は回避する。
俺と戦っているマシンナリーレディ四人の中で最も威力のある武器がミロスラーヴァの持つエネルギー・キャノンだ。
レジスタンスのキャンプを吹っ飛ばした事からもその威力は折り紙付きである。
神気である程度は守れるとはいえ、真っ向から喰らいたくはない。
そんな俺にスラスターを噴かせてティエクラが接近して来る。
その両腕にはレーザー・ブレード。
二本の光刃で俺に斬りかかって来るのを俺はあるいは回避し、あるいは刀で受け止め、斬り返す。
レーザー・ブレードを弾き、ティエクラの体に刀で斬り付けるが、流石にマシンナリーレディの機械化された肌は簡単には切り裂けない。
その間にエイミーが背部マイクロ・ミサイルポッドから小型ミサイルを発射。
ミロスラーヴァも腕部マイクロ・ミサイルランチャーから小型ミサイル。
美夏もミサイルランチャーを放ち、ミサイルの雨あられが俺に襲い掛かって来る。
これは、まずいか。そう思った時、どこからかレーザーが放たれ、空中のミサイルのいくつかを撃ち落した。
その隙に俺は後退する。
誰だ? 疑問に思いレーザーの発射元を見る。
そこにはマシンナリーレディらしき少女がいた。
右肩にミロスラーヴァのものと比べれば小型のエネルギー・キャノン、左肩にガトリング・ガンを装備している。
マシンナリー・レディ! 俺は警戒する。
マシンナリー・レディの存在は異星の存在が地球人類を殲滅するために作り出した罠だった。
彼女たちは地球人類の味方の顔をして地球人のレジスタンスに入り込み、その殲滅を狙っていたのだ。
俺が新たに現れたマシンナリーレディに訝しむ目を向けると、そのマシンナリーレディは言った。
「こんな状況じゃ信じられないと思いますけど、私は味方です!」
「味方?」
「はい! 私はテレーシア・ウェールズ! 他のマシンナリーレディたちは異星に寝返り、各地で暴れていますが、私は正気です!」
各地で暴れているだって? この状況はここのレジスタンスのキャンプだけではないのか。
世界各地で人類に味方していたマシンナリーレディが反旗を翻したという事か。それは最悪の状況だな。
「貴様、マシンナリーレディの癖に地球人類に味方し、アゴルモンアに歯向かうと言うのか!?」
ティエクラが糾弾する声をテレーシアとやらに発する。
返答はテレーシアのエネルギー・キャノンとガトリング・ガンの同時射撃だった。
これにマシンナリーレディ四人は散開して避ける。そして、そのまま空を飛び、こちらを空から見下ろす。
「今回の所は見逃してさしあげますわ」
「でも、甘粕光輝。お前は必ず殺す」
「さようなら。せいぜい儚い希望にしがみつく事ね」
マシンナリーレディ四人はそう言ってスラスターを噴かせてここから飛び去って行く。
後には俺とテレーシアというマシンナリーレディが残された。
「とりあえず助かった、みたいだな……」
「そうですね」
テレーシアは悲痛そうな表情で言う。
「しかし、マシンナリーレディが人類に反旗を翻したのはここだけじゃないのか?」
「世界中のほぼ全てのレジスタンスの拠点でマシンナリーレディたちは人類に牙を剥きました。彼女らは異星から送り込まれて来た埋伏の毒だったようです」
「そういう君もマシンナリーレディじゃないか」
糾弾する気はなかったのだが、そう言うと申し訳なさそうにテレーシアはうつむく。
「私はバグで人類への敵対感情が起きなかったようなんです。私は地球の味方です」
「そうか……まぁ、信じるよ。あの状況でさらに俺を騙しても何もないからな」
「ありがとうございます」
人類の救世主と持て囃されたマシンナリーレディは揃って人類殲滅のために力を振るったという事か。
そうなれば多くの人たちにとって絶望しかないだろうな。
俺は燃えるキャンプを見る。まだ生存者がいるはずだ。その人たちを救出しないと。
「とりあえずこのキャンプの生存者を助け出す。手伝ってくれるか?」
「勿論です。私のいたキャンプは全滅してしまいましたから」
「…………」
「せめてこのキャンプだけでも」
俺とテレーシアはそれっきり会話は途切れ燃えるキャンプに行き、生存者の救出に努めた。
幸い数は少ないものの、生存者はいた。それらを助けていく。
「畜生。マシンナリーレディは俺たちの希望じゃなかったのかよ……」
「俺はマシンナリーレディたちを信じていたんだぜ……」
生存者たちは口々にそんな事を言う。
自分たちが信じていた存在に裏切られ、あやうく命を落としかけた上に拠点も壊滅させられたのだから当然だろう。
このレジスタンスのリーダー格、パオロ・ジャクソンは四人のマシンナリーレディに殺されてしまっていたので、生き残った面子の中でブラッド・ロスという男が仮のまとめ役をやる事になった。
まだ20代半ばといった所だが、兄貴肌な所もあり、混乱する集団を纏め上げるには打ってつけの人材だった。
「光輝、お前とそっちのマシンナリーレディのお嬢さんは大丈夫なんだな?」
疑いの目でブラッドは俺とテレーシアを見る。
疑われても無理はない。
俺の神霊憑依者の力も出所の分からないものだし、テレーシアに至っては自分たちに銃を向けたマシンナリーレディの一人だ。
「ああ。信じてくれるかは分からないが、俺は人類の味方だ」
「私もです。マシンナリーレディのほとんどは異星の側に付いてしまったようですが、私のように正気を保っている者もいるようです」
「正気、か……」
美夏にミロスにエイミーにティエクラ。
彼女たちがレジスタンスのメンバーや子供たちを虐殺したのは正気ではないという事か。
そう思いたい。あいつらがそんな事、望んでするはずがない、と。
「これからどうなるのやら……」
俺はため息を吐く。明るい未来が待っているとは思えなかった。
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