ピュアを連れてレジスタンスの拠点に戻る。
その頃にはもう日も暮れていた。
ピュアはお腹を空かしている様子だったので缶詰の一つを与える。
鯖缶をピュアは美味しそうに食べていた。
「美味しいです! わたしにこんな貴重な物……ありがとうございます!」
「いや、別に気にしなくてもいい」
俺はそう言葉をかけてやる。テレーシアも笑みを浮かべて微笑ましそうにそんなピュアを見ていた。
ラリサだけが腕を組み。ピュアを様子を見張るように観察する。
「まだ信用出来ないか?」
俺はそんなラリサに声をかける。
ラリサは再度、胡散臭げにピュアを見た後、言った。
「あれは演技ではないだろうけど……」
「けど?」
「異星のコンテナで見つけた女の子だ。どんな災いの種になるか分かったもんじゃない」
「心配性だな」
「現実を見ているだけ」
冷たく言い放つラリサ。
確かに俺は甘いのかもしれない。
ピュアにこちらへの敵意がなくとも発信機の類が付けられていてこの場所が知られるとか考えられる事はいくらでもある。
一応、テレーシアにボディチェックはしてもらったのだが。
元々全裸だったピュアにボディチェックなど必要ないかもしれないが、肌の内部に発信機が埋め込まれている事も有り得る。
マシンナリーレディのセンサーを持つテレーシアならそれを見逃す事はない。
そして、テレーシアの結論ではピュアはマシンナリーレディではない、と言う事らしかった。
それならただの女の子という事で警戒の必要はないかもしれないが、確かに異星のコンテナの中にいた女の子である。
どんなものか知れたものではない。
ラリサの警戒は当たり前だろう。
「あの娘がコンテナの中で眠っていたお姫様か」
気が付けばブラッドもやって来ていて、ラリサ同様、警戒の視線をピュアに注ぐ。
「マシンナリーレディなのか?」
「テレーシアが言う分にはマシンナリーレディじゃないそうなんですが……」
「そうか。だが、あまり気を許すなよ」
厳しい言葉をかけて、ブラッドは美味しそうに缶詰を食べるピュアを一瞥するとそこから去って行く。
俺もピュアの方を見る。
人畜無害そうな外見の幼げな少女だ。
特に警戒する必要があるとは思えないが、そう考えている時点で甘い、か。
とりあえずピュアの旺盛な食欲を確かめ、俺はピュアに問い掛ける。
「なぁ、ピュア」
「はい! なんでしょう、光輝さん」
「なんでピュアはあんな異星のコンテナの中にいたのか覚えていないか?」
そう言うとピュアの表情が曇った。
「すみません。それに関しては何も……わたしは自分が地球人だと言う事は覚えているんですが……」
「なるほど。いや、いいよ。また思い出したら話してくれ」
「はい」
演技している様子は、ないな。
どうやら本当に何故、あんな所にいたのか覚えていないようだ。
しかし、異星の連中が単なる地球人類の女の子をわざわざコンテナで運ぶとも思えない。
ピュアには何かあるとは思っておいた方がいいだろう。
俺が立ち去ろうとすると缶詰を食べ終わった様子のピュアが隣に並ぶ。
「光輝さん。どちらへ?」
「訓練。神霊憑依者だからって怠けていたら腕が鈍るからな。異星の連中と戦うためにも体は鍛えておかないと」
「シンレイヒョウイシャ?」
初めて聞いた単語のように口にするピュア。それも知らないか。
「神霊憑依者。俺は神様をこの体に宿す事が出来るんだ。それで異星の殺戮機械どもと戦っている」
「凄いじゃないですか! 光輝さんはそんなに凄い人だったんですね!」
「それ程でも……まぁ、付いて来るなら付いて来い。面白いものでもないけどな」
そう言って鞘に収めた刀を担いで、プレハブ小屋から出た俺の後ろをひょこひょこ付いて来るピュア。
俺は外に出て刀を抜き放ち、素振りを行う事にした。こういうのは基本が大事。
100回素振りが終わった所でポゼッションしてみる事にした。
普段から戦闘形態に慣れておく事も必要だ。
「ポゼッション」
天から神の力が降りて来る。俺の体は神気を纏い、雰囲気が一変する。
「凄いです、光輝さん! 本当に神様の力を宿せるんですね!」
それを見ていたピュアが反応する。
ポゼッションした俺の雰囲気の違いは初めて見る人でも分かるレベルらしいからそれに驚く事はないが……。
ピュアがハッとしたように俺を見る。
「どうした?」
「あのー、光輝さん。それ、わたしも出来るかもしれないです」
「なんだって!?」
ポゼッションがピュアも出来る? そんな事有り得るのか? マシンナリーレディは世界に山ほどいたが、神霊憑依者は俺一人しか確認されていないはずだが。
「やってみろ」
「は、はいっ!」
俺の言葉に答えて、ピュアが目を閉じる。そして、
「ポゼッション」
天から神の力が降って来てピュアの体に宿る。
その雰囲気が一変し、その体には神気が宿る。これは、驚いたな。
「驚いた。お前は俺と同じで神霊憑依者だったんだな……。だから、異星の連中も運んでいたのかも……」
「そ、そうかもしれないですね。なんだか凄く力が溢れてきている気がします」
「神霊をその身に宿している訳だからな。それも当然だ」
俺は刀を鞘にしまうとその辺に置く。
そして、ピュアと向き合った。
「俺と少し試合をしよう。その力が本当か確かめたい」
「試合、ですか? 素手での喧嘩ですか?」
「そんなようなもんだ」
「わ、分かりました!」
俺の言葉にピュアは頷き、俺とピュアは向き合う。
まず俺から拳を繰り出した。
マシンナリーレディでもない生身の人間が喰らったら骨が折れるレベルの一撃だが、これをピュアは拙い動きながら自分の腕で受け止めて見せる。
そして、こちらに蹴りを繰り出して来る。
速い。俺は体を下げ、蹴りを回避する。
ピュアの拳が迫る。今度は俺が腕で受け止める。
確かな力を感じる。これは神霊憑依者だ。
「なるほど。確かに神霊憑依者みたいだな」
「そ、そうですかっ!? わたしは光輝さんたちのお役に立てそうでしょうか?」
「神霊憑依者なら戦力になる。異星の殺戮機械相手にも引けを取らない」
ここに来て、二人目の神霊憑依者とはな。これは大きな戦力だ。
「とりあえあずテレーシアとラリサには伝えないとな。神霊憑依者なら武器もいるな。適当に調達してこないと……」
神霊憑依者が神気を纏わせて攻撃するのは銃火器より俺の刀のような接近戦用の武器の方がいい。
この情勢で手に入るかは怪しいがとりあえず使えそうな物を見繕う事にしよう。
そう思い俺はピュアを連れて、テレーシアたちの所に報告に行く。
「ピュアちゃんが神霊憑依者!?」
「本当?」
テレーシアは露骨に驚き、ラリサは訝しんでいる様子だ。無理もないが。
「ああ、本当だ。ピュアは俺と同じ、神霊憑依者だったんだ。異星の連中が運んでいたのもそのせいだったのかも……」
「それが本当なら凄い事ですね」
「神霊憑依者なら戦力になる。異星の連中相手の」
二人共、驚きながらも二人目の神霊憑依者という貴重な戦力を前に興奮を隠し切れない様子であった。
ピュアが一人、恥ずかしそうにしている。
「あのー、わたし、あんまり戦うとかは苦手なんですけど……」
「神霊憑依者なら戦いに不慣れでも雑魚の殺戮機械くらいは軽く撃破出来る。それだけでもありがたい」
「そ、そうなんですか……」
一番、困惑しているのはピュア本人のようだった。
ここに来て、二人目の神霊憑依者。
ピュアは戦いが苦手だと言うが、それでも大きな戦力だ。
異星の連中と戦う上でこの上ない。
とりあえずその力を試して見たい所だと思いながら、まずはピュア用の武器を調達しなければな、と思う俺であった。
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