そもそも神霊憑依者というのは何なのかと訊かれても俺にも答えられない。
ある日突然、神様が授けてくれた力としか言えないのだ。
その力の出所は異星であったマシンナリーレディより怪しい。
この力は並のマシンナリーレディを凌駕するものがあり、鋼鉄製の日本刀なんてもので殺戮機械やマシンナリーレディと渡り合えている。
俺は自らの手で美夏を斬る。
そう決断した今、この力に目覚めた時の事を思い出そうとしていた。
そう俺がまだレジスタンスの一般兵で、美夏たち四人のマシンナリーレディも異星に裏切っていなかった頃……。
最前線で殺戮機械相手の戦いが行われていた。
美夏、ミロス、エイミー、ティエクラたちマシンナリーレディ四人は空をスラスターで駆け、殺戮機械たちを次々に仕留めていく。
その下、地上で俺たちレジスタンスはアサルトライフルで殺戮機械に立ち向かっていた。
俺もその中の一人だ。
アサルトライフルを構えて殺戮機械に撃ちまくる。
それで撃破出来る殺戮機械でもない。
反撃の機銃掃射からなんとか身を回避させ、アサルトライフルを仲間たちと共に集中して浴びせる。
それでなんとか一機の飛行型殺戮機械は落とせた。
俺たちが殺戮機械相手にそんな戦いをしている最中、美夏たちはマシンナリーレディの力で殺戮機械たちを次々に仕留めていく。
それはまさに人類の希望であった。
美夏の両肩のミサイルランチャーが放たれ、殺戮機械に殺到し、ミロスは大型エネルギー・キャノンを放つ。
エイミーはガトリング・ガンの斉射し、ティエクラは両腕のレーザー・ブレードで殺戮機械を斬り付ける。
そうしている間、俺たちは地上でアサルトライフルを殺戮機械に浴びせていき、なんとか倒していくのだ。
なんとか一機仕留めたかと思っていると大型の陸戦型殺戮機械が現れた。
俺たちはアサルトライフルの引き金を引き、間断なき射撃を浴びせるが大型の陸戦型殺戮機械の装甲を貫くには至らない。
陸戦型殺戮機械はこちらに対し、グレネードを放って来て、それが爆発し、俺たちは吹っ飛ばされる。
そうして、俺は戦場に転がった。
空中を飛ぶ美夏が俺の名を呼んだ気がした。
陸戦型殺戮機械は俺をターゲットに定めると進行して来て、機銃を放とうとする。
俺が神霊憑依者に目覚めたのはその瞬間だった。
何かが体に宿った感覚がした。
それは天から降りて来た何かとしか言いようがなかった。
圧倒的な力。それが我が身に宿った事を感じ取る。
これが初めてのポゼッションであった。
初めてのポゼッションは無意識にやった事で意識的にやった事ではないのだ。
神の力が俺の体に宿った後、陸戦型殺戮機械は機銃を俺に向けて放った。
普通なら体がバラバラになる大口径機銃での斉射であった。
それを地面を転がっている俺は喰らいながらも何故か体は無事だった。
俺は立ち上がる。
自分でも何が起こったのか分からない。この体は殺戮機械の機銃掃射を耐え切って見せた。
「光輝!」
空から美夏が降りて来る。そうして、俺を見ると驚いた顔をした。
「どうしたの? 光輝は一体?」
「分からない。天から何か力が降って来て……」
「天から?」
美夏は困惑するが、俺にも訳が分からないのだから仕方がない。
俺と美夏は共に前方の大型陸戦型殺戮機械を見据えた。
俺はアサルトライフルを構えてその引き金を引く。
アサルトライフルから無数の銃弾が放たれるが、それらは陸戦型殺戮機械の装甲に弾かれる。
美夏がミサイルランチャーを展開し、ミサイルを発射する。
これは効果があった。陸戦型殺戮機械に確かなダメージを与え、その足を止める。
「く、うおおおお!」
俺は地を蹴り駆け出した。
普通なら気が狂ったとしか思われないだろう。
殺戮機械を前に駆け出し、向って行くなんて。
しかし、地を蹴る体が軽い。不可思議の力がこの身に宿っている事を感じ取り、体を包むオーラのようなものが俺を前方に進める。
殺戮機械は機銃を放って来て、俺を迎え撃った。
「光輝!」
後ろで美夏の悲鳴が響く。
だが、大丈夫だという確信があった。
案の定、放たれた弾丸は俺に命中しつつも俺の体を傷付ける事は叶わない。
そのままコンバットナイフを抜き放つ。
それで陸戦型殺戮機械に斬りかかる。
普通なら強固な装甲に弾かれて終わり。なのだが、オーラとしか形容しがいのないものを纏ったコンバットナイフは殺戮機械の装甲を貫き、その内部まで刃を通した。
その勢いで何度も斬っていく。
やがて陸戦型殺戮機械は倒れた。
俺はこれだけの事をしておきながら息が上がっていない自分に気付いた。
普通なら肩で息をする所なのだが。
「光輝! どうしたの!? その力は……」
後ろから美夏がやって来て俺を見る。
この時には俺も自らに不可思議な力が宿った事を感じ取っていた。
「分からない。でも、凄い力だ。お前たちマシンナリーレディに匹敵するかもしれない」
「そんな力が……光輝に……」
「とりあえずみんなと合流する」
俺と美夏は戦列に戻り、レジスタンスメンバーと合流した。
レジスタンスのメンバーは死んだと思っていた俺の復帰に驚きを露わにした。
「甘粕! お前、どうして?」
「分かりません。なんだか、不思議な力が宿って……」
「不思議な力?」
そこで飛行型殺戮機械が飛来し、機銃を放とうとする。
俺はそれにコンバットナイフを投擲した。
普通なら装甲に弾かれて終わりのそれは殺戮機械の装甲を貫き、撃墜して見せた。
これに周りの面々は目を丸くする。
「甘粕……お前……」
「何なんだ、一体?」
「これがその不思議な力です」
「私も見ました。光輝には何かの力が宿ったようです」
マシンナリーレディの美夏もこう言い、周りには俺が不思議な力を手にした、という話が広まって行く。
リーダー格のレジスタンスメンバーが俺を見て問い掛けて来る。
「その力はどういう力なんだ?」
「分かりません。天から降って来たとしか表現のしようが……」
「天から……」
リーダー格は少し考え込んだ後、言った。
「よし。甘粕は神霊憑依者だ。神の霊を我が身に宿したんだ。それだからマシンナリーレディに匹敵する力を持てたんだ」
「シンレイヒョウイシャ? なんです、それ?」
「こういうのは言ったもん勝ちだ。以後、お前はそう名乗れ」
神霊憑依者という俺の事を表す名称は戦場の土壇場で決まった事なのだ。
そう思っていると飛行型殺戮機械たちが大量に飛来して来る。
空に浮かんでいたミロス、エイミー、ティエクラが反応し、迎撃に出て、美夏も飛び立つ。
俺もまた前に出てアサルトライフルを放った。
殺戮機械の機銃が俺の体に当たるがやはり弾かれ、俺の体を傷付けるには至らなかった。
「おお!」
「すげえ!」
それを見たレジスタンスのメンバーから驚愕の声が漏れる。
普通なら蜂の巣になっている所が、なんともない。
俺の言った事は妄言でも絵空事でもなく事実なのだという認識が持たれつつあった。
俺はアサルトライフルを斉射し、殺戮機械の一機を撃ち落した。
簡単には落ちない殺戮機械も流石に集中して銃火を喰らえば撃墜出来る。
そうしてマシンナリーレディ四人の活躍もあり、その戦場では殺戮機械たちを撃退する事に成功した。
それが終わり、俺たちは拠点への帰路を辿る。
俺は自分の宿った力が何なのかまるで分からないまま帰路を歩く。
この力はとてつもない力だ。
それは分かるのだがそれが何なのかは分からない。
神霊憑依者。その名の通り、まさに神が憑依して力を貸してくれたとでも思わないと辻褄の合わない事であった。
そして、この力を活用する上では装備はアサルトライフルとコンバットナイフでは駄目だという事も感じ取れていた。
この力を振るう一番、いい武器。それは長剣の類であるのではないかと俺は思い始めていた。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!