あれから『定期便』を撃破しつつ、あの時出した力の再現に努めているのだが、あの時程の力は到底出せなかった。
ピュアと二人で神霊憑依者として鍛錬を積んでいるものの、あの時のような規格外の力にはとても及ばない。
今日も鍛錬を終えて、テレーシアとラリサと共に夕食を食べる。
缶詰だが、缶詰という人類の英知の結晶には感謝するしかない。
こういうサバイバル状態になった今、大いに助かっている。それを食べながら、ラリサが口を開いた。
「光輝、あの力は出せた?」
それを訊かれると弱い。俺はいや、と首を横に振る。
あの時の力の再現に努めているものの、さっぱり成果が上がっていないのが現状だ。
強化改造でパワーアップするマシンナリーレディに対抗し、付いて行くために自らのパワーアップは必要だというのに。
「やっぱり、難しいんでしょうか……」
テレーシアが言う。難しい、んだろうな……。あの時程の力を出すのは。
「わたしはその時、意識を失っていたから見れてないんですが、そんなに凄かったんですか?」
ピュアが俺たちに問い掛けて来る。俺は頷いた。
「ああ。あの時の力なら強化されたマシンナリーレディが二人だろうと三人だろうと瞬く間に倒してしまえる程のものがあったな」
「そんなにも……!」
驚いた顔を見せるピュア。
当然だろう。普通の神霊憑依者の力はそこまでではない。
マシンナリーレディを一蹴出来るだけの力を身に付ける事が出来るのは悲願だが、なかなか叶わない。
あの力を常時、出せるようにしておけば、異星の軍勢とて敵ではない。
「なんとかあの時の力をもう一度、出せるようにならないとな……」
「やっぱり、鍛錬で身に付くものじゃないんじゃない?」
厳しい事をラリサが言って来る。
確かにそんなような気はする。
あの力は鍛錬を積む事で身に付く部類のものではないのではないかと。
そうかもしれないと思っている自分もいる。
それだけ鍛錬の成果は出ていなかった。
全くの無駄ではないのだ。鍛錬の度に力の向上を我が身で感じる。
ピュアも自らの戦闘力の向上を感じているようだ。
だが、あの時のような規格外の力を発揮出来ているとはとても言えない。
「それでも鍛錬は無駄になっていない。これからも続けていくつもりだ」
「そうですね」
俺の言葉にピュアが頷く。ここで鍛錬をやめるなど論外だ。鍛錬を重ねて敵、マシンナリーレディに対抗出来るようにならなければ。それが人類の希望とされた俺たちの義務であろう。
「やれやれ僕たちとしては久しぶりに湯舟に浸かりたい所だね」
固まった場をほぐるようにラリサが言う。
湯舟。風呂など長い事入れていない。簡易型のシャワーは設備にあるがあくまで簡易だ。
使える人間も限られているし(俺たち神霊憑依者やラリサたちマシンナリーレディはその数少ない使用可能者であるが)、浴びた後の爽快感も普通のシャワーと比べれば大きく劣る。
異星の軍勢に文明を破壊されてしまった以上、仕方がない事なのだが、俺も久しぶりに湯舟に浸かりたいという思いはあった。
「ユブネ、って何ですか?」
ピュアが首を傾げる。記憶がない彼女には分からないのだろう。
「お湯で満載した空間の事だよ。そこに裸で入るとすっごく気持ちいいの」
テレーシアが説明する。
ピュアは相変わらずよく分かっていない感じだったが、ニュアンスくらいは伝わっただろうか。
「まぁ、無理すればドラム缶風呂くらいは用意出来ると思うが……」
俺がそう言うが、ラリサとて本気ではなかったのだろう。そこまで湯舟に執着する様子は見せなかった。
「そんな事に手間を回す暇があるなら、他の事に手を回すべきだね。真水が勿体ない」
「……だな」
湯舟に浸かりたいなんて贅沢。今の状況では無駄に程がある。
女性陣には特に悪いが我慢してもらうしかないだろう。
全ては異星の連中を撃退して、地球文明が復興を遂げた後だ。
「ゆっくり風呂に浸かるためにも異星の奴らを撃退しないとな……」
しみじみと俺は言う。テレーシアとラリサも頷いた。
ピュアは風呂というものがどういうものか分からないのか少し不思議そうにしていたが。
そうだ。風呂だけではない。
異星の襲撃でこの地上から奪われたものはそれだけではないのだ。
缶詰生活もいい加減飽きが来ているし、白米が食べたいと日本人の俺は思う。
漫画や小説といった書籍も多くは失われてしまった。
この厳しい状況に俺たちは耐え忍ぶしかないのだ。
もっとも、俺とピュアは神霊憑依者。テレーシアとラリサはマシンナリーレディという事でこれでも優遇されている方であるのだが。
異星の奴らを撃退か。自分で言った事ながら、現実味の薄い言葉に思える。
あちらから攻めて来る殺戮機械やマシンナリーレディの迎撃は出来る。
だが、異星の本拠地たる地球外の所までは今の地球人類では到底向かう事が出来ないのだ。
異星の襲撃時にそこまで宇宙進出が地球では進んでいた訳ではない。
防衛に徹するしかないのが現状だ。
そして、そんな現状で異星の連中を倒せるかと言われれば厳しいと言わざるを得ない。
なにせ自分の所属するレジスタンスを守るだけで精一杯なのだ。
世界各地にはまだレジスタンスが存在しているが、それもマシンナリーレディの反逆で多くは潰され、レジスタンス間のネットワークも遮断されてしまった。
ハッキリ言って、今、地球上でどれだけの人類が戦っているのかも詳細には掴めない状態だ。
そんな状況で異星の奴らを完全に追い返すなど妄言とも言えるだろう。
(それでも、やらなくちゃならないんだ……!)
それでも、その目的を捨てる気はない。
俺の神霊憑依者の能力はそのために神が俺に授けてくれた能力だと思うから。
なんとかして異星の連中をこの地球から追い出し、地球文明の復興を成し遂げる。
それを悲願として掲げる。それは決して無意味な事ではないと思う。
(そういえば、しばらくマシンナリーレディの奴ら出て来てないな)
ここ最近は殺戮機械のみで編成された『定期便』ばかりでマシンナリーレディはこちらに攻めて来る事はなかった。
エイミーの右腕は切断し、主兵装のガトリング・ガンも破壊したから修復に時間がかかるのは分かるが、それ以外の連中も攻めて来ていない。
最強のマシンナリーレディのシビーユを撃退した事もあって警戒しているのか……?
異星の連中の思惑など俺には分からないが。
(こっちに注意を引き付けられる分にはいいんだけど……)
それは自分たちが強敵と戦う事を意味している事でもあったが、今の人類のレジスタンスの中では二人の神霊憑依者と二人のマシンナリーレディがいるこのレジスタンスが最強だろう。
こちらに戦力を集中させてくれて他の各地のレジスタンスを間接的に守る事に繋がるのなら強敵との戦いも苦ではない。
「俺たちの所でどれだけマシンナリーレディを撃破出来るか、だな」
俺は口に出して言う。テレーシアもラリサも頷いた。
「各地の人類軍を守るためにもここで敵、マシンナリーレディを倒したい所ですね」
「それが僕たちの役目。僕たち以外にも地球に残ったマシンナリーレディはいるみたいだけど……」
そのようだ。テレーシアとラリサだけではなく世界各地に異星の側に付かずに地球人類に残ったマシンナリーレディもいるようだ。
そのような存在がいるから各地のレジスタンスも瓦解せずに戦えているのだろうが……。
「テレーシアやラリサには失礼な事をかもしれないけど、なんで異星の側に付かなかったんだ?」
無礼を承知で俺は訊ねる。テレーシアは少しムッとした顔で返す。
「そんなの当たり前じゃないですか! 異星の側になんて付けませんよ!」
「どうやら僕たちにはマインドコントロールが上手く働かなかったみたいだね。地球人のままでいられた」
マインドコントロールか。
それなら今、異星の側に付いているマシンナリーレディたちも本意ではない? そのような事を考えてしまうと敵、マシンナリーレディと戦えなくなってしまいそうだったのでその思考を封印する。
マシンナリーレディは異星に寝返ったのだ。それは倒さなければならない。
そう思い直し、俺は缶詰の食事を終えるのだった。
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